超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

決着 そして、日常への帰還?

 
 ぐちゃ―――

 足元から何かが潰れたような感覚が伝わってきた。
 オーク王の身長は、5メートル? 6メートル?
 それを見下ろすほどの高さまで打ち上げられた『僕』が放った一撃。
 僕の両足は、確かにオーク王の顔面を捉えていた。

 だったら……

 さっきの潰れたような感覚は…… 何かが破壊されたような感触は……

 オーク王の顔面だったのだろうか?
 それとも―――― 僕の体だったのだろうか?


 一体、どうなったのか?

 僕は体を起こそうとする……けど失敗。
 腰の感覚がない。
 まるで下半身を切り捨てられたように、腰から下が動かない。
 腕の力で上半身だけ起こして周囲の様子を窺う。

 ギョッとした。
 自分の目の前で、オーク王がいたのだ。
 オーク王も倒れたまま、起き上がれずに、その場で両手と両足を振り回し、暴れ狂っていた。
 オーク王の腹部には、その動きを封じるように龍の足枷が乗っていた。
 まるで重しだ。
 オーク王の膂力を持ってすら龍の足枷を持ち上げられない。
 一瞬、これを武器として扱えるようになるのか? そんな不安が脳裏を過ぎった。

 「……いや、今はそんな事より、トドメを―――――」

 呟いて気がつく。 どうやら聴覚にもダメージを受けてるみたいだ。
 どうりで…… こんなにも激しく暴れ狂っているオーク王にすぐ気がつかなかったわけだ。

 「痛っ!」

 意識をすると、体の痛みを感じる。
 立ち上がれない。
 それならと、僕は上半身を起こして、腕の力だけで――――匍匐前進ほふくぜんしんで動く。 
 少しでも腕を動かすだけで、背中に激痛が走る。 下半身は今だに感覚が消失している。
 それでも、僕は進む。

 オーク王と目が合う。 一瞬、オーク王の動きが止まった――――
 オーク王は威圧するように咆哮を上げる。 しかし、これが最後の咆哮だった。
 僕は背中から、短剣を抜く。 そして―――― 上半身の力だけで――――
 オーク王の顔面を貫いた。

 「……」

  ――――暗転――――


 目を覚ます。
 場所は建物の中、天井が見える。
 少し前に見た天井だ。 ここは学園の医務室……
 あれから、どうなった? みんな無事か? という疑問よりも、自分が助かったという事実が先に来て安堵する。 
 つくづく……どうやら、僕はつくづく、他者のために戦う英雄には成れないみたいだ。

 「……起きたみたいだな」

 ボソッと呟くような声。若干、不機嫌さを感じる声だった。

 「キク先生?」と僕は声の主の名前を呼んだ。
 医務室の隅で、腕を組むようにキク先生はいた。
 「じー」と効果音が出そうなほど、無言で僕を見ている。
 僕は、キク先生の事が苦手だ。 僕の事を人体実験のモルモットとして見ているから。

 「外傷は治しておいた。後遺症も残らない。ただ、3日はこのベットで生活してもらう」

 そう言って、キク先生は僕から興味を失ったみたいに医務室から、退室しようとする。

 「……あの」と僕は慌てて、キク先生の背中に声をかけた。
 キク先生は立ち止まった。
 でも、僕には次の言葉が出てこなかった。
 自分でもなぜ、キク先生を呼び止めたのかわからない。

 「……」 「……」

 暫し、両者無言。  
 先に無音を破ったのはキク先生だった。

 「あの後、どうなったのかは、廊下で待たせてる連中に聞きなさい」

 「連中?誰ですか?」という僕の質問にキク先生は答えなかった。ただ――――

 「君の事を今すぐ、こうしよう、ああしようとはしないよ。暫くは観察対象だ」

 そう言ってキク先生は振り返った。 
 奇妙な顔だった。 まるで笑いたくて仕方ないのを、無理に堪えているかのように見えた。
 最後に……

 「君の卒業まで、まだ1年近く余裕があるのだから……ね?」

 そう言い残して、今度こそ退室していった。
 ゾクっとした寒気が背中を通り過ぎていく。 
 あの人は、何を考えているのか? あまり、想像したくはなかった。

 つぎに―――― 勢いよく医務室のドアが開かれた。
 複数の人間が室内に飛び込んできた。
 オント、サヲリ、アリスの順番で入って来て、最後にゆっくりとサンボル先生が入ってきた。
 サンボル先生以外はみんな、同時に―――――それも勢いよく――――喋りかけてきて、何が何だかわからなかった。

  
  

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