超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ゴドーと言う男の風貌

 その男は不思議な容姿だった。
 いや、異常であったと表現しても、あながち間違いではないだろう。
 レザージャケットにジーンズ。黒いサングラスに ……そしてスキンヘッド。 

 革の服レザージャケット。その丈夫さから、探索者が好んでいた時代もあったらしいが、ダンジョン攻略が進むにつれて―――― 敵の難易度が上がるにつれて、廃れていった服装だ。
 それを素肌の上に直接、羽織っている。
 下のズボンはジーンズ。 元は鉱山で使われる作業着だ。
 今でも炭鉱系ダンジョンに住むドワーフ達が好んで使っているという話は聞いているが、普段使いしている人間を見る事はない。
 頭部は、見事に剃髪されている。 彼の纏わる雰囲気から、聖職者モンク……というわけでもないだろう。 となると……おそらくは闘技者。 素手での戦いで、敵に髪を掴まれる事を防ぐために剃髪している闘技者は多い。もちろん、ただの禿隠しの可能性も皆無ではない。
 しかし、その可能性も彼の肉体が否定する。
 一見すると肥満体にすら見える体。事実、脂肪も多いだろう。
 だが、それは身体能力を向上させるためのエネルギー源であり、長時間の運動維持能力の高さを意味する。その脂肪に覆われた体にも関わらず、自己主張するかのよう筋肉が脂肪を押し寄せて、体のラインを形成している。 
 四肢の素早さを重視するかのような筋肉のつけ方。
 四肢の末端、腕ならば手首。脚ならば足首。それは細い。
 逆に体の中心部に向かうほど、筋肉が発達している。
 中でも、首の付け根あたりの筋肉、僧帽筋。肩の筋肉である三角筋の発達は凄まじい。
 瞬発力もかなりのもの……

 以上の情報源から、彼が闘技者である事は間違いない。
 しかし――――だとすると疑問は一つ。
 なぜ、彼は周囲の人間に気づかれず、コロちゃん様の後ろに控えていられたのか?
 なんらかの魔法か? それとも、彼特有の技術か?

 「ゴドー。名乗っていいぞ」

 コロちゃん様が言う。
 ゴドーと呼ばれた男は、ただ「ゴドーだ」としか言わなかった。
 そんな様子にオントは、明らかに苛立っていた。 
 そのまま、殴りかかるんじゃないか? そんな危険性すら感じられる。
 それでも最低限の自制心を保てたようで、「オム・オントだ」とゴドーと同様に短めの自己紹介をした。

 「聞いた事がある……ダンジョン貴族において自ら最強を謳うオム家の鬼子。お前の事か?」
 「……だとしたら?」

 オントの雰囲気が変わった。 
 そこはオントにとって触れてはいけない箇所だったのか?
 より殺伐とした剣呑な雰囲気。より危うさが増して行く。

 「このたびの決闘、楽しみにしている」

 そう言って、ゴドーはサングラスを外した。
 僕の位置からは、ゴドーの素顔は見えなかった。
 しかし、ゴドーの正面に立っていたオントは――――様子がおかしかった。
 明らかに―――――そして不自然なほどに動揺が見える。一体、彼には何が見えているのか?
 「……てめぇ」と漏らすオントに背を向け、ゴドーは去って行った。
 もちろん、コロちゃん様の後についてだ。


 「すまない!勝手に決闘の約束承諾しちまって!」

 僕らの部屋についてきたオントは、土下座でもしかねない勢いで謝罪を始めた。
 ……叫ぶような大声でだ。
 「まぁ、いいだろ。でもやるからには、絶対に勝てよ。俺から言えるのは、それくらいだ!」
 ……なんて言ったのは、僕ではなく隣のケンシだ。
 それに対して、オントは「応!無論だ」と返した。
 ……当事者は僕だったはずなんだけどなぁ……
 「それでだ……」とオントは部屋の床に直に腰を下ろし、胡坐をかく。

 「それで、どうする?サクラ」
 「ん?どうするって?何が?」

 一体、彼は何を言いたいのだろうか?

 「何がって……そりゃ、あのゴドーって奴とどうやって戦う?って話だ」
 「え?」
 「正直に言って、ありゃ化け物だわ。真っ向勝負じゃ戦いになるかすらわからない。けど、サクラは得意分野だろ?そういう作戦を作るのが」
 

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