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影が薄いけど魔法使いやっています

りょう

第31話水着の時間

 アリスの一件から一夜明けて、僕達は今日もラティを連れて森の中にある川へと水浴びに来ていた。

「ねえユウマが住んでいた国では、本当にこんなものを着ていたの?」

 川に到着すると、ある物を着たセレナが不満げに不満げに言う。

「勿論! これは浴衣と一緒で夏の風物詩だから」

 それに対して僕は意気揚々と答えた。

「ユウマがいつも以上に変態」

「ちょ、ちょっとこれ、本当に人が着る物なの?」

「わーい、動きやすい」

 そしてセレナと同じような格好をしている残りの三人。アリスは昨日の事で元気がないかなと思っていたけど、それは僕の思い違いでいつもの調子のアリスがそこにはいた。

 さて、何故男子と女子でこんなにもテンションが違うのかというと、話は今から一時間ほど前に遡る。

「こんにちわ」

「わーい、ユーマ達今日も来てくれた」

 あの後結局ヒアラさんは戻って来ず、僕達は一晩あの家で過ごした後に、またイヅチ様のところへやって来ていた。
 ラティは昨日一日で懐いてくれたのか、僕達が来るなりこちらにやって来てくれた。特にセレナに懐いたらしく、僕達がイヅチ様と話をしている間、ずっとセレナと遊んでいた。

「昨日はそちらに行けなくてすいません。ちょっと色々ありまして」

「なに、気にするでない。ラティが楽しんだみたいじゃし充分じゃ。それで今日はその礼として、我からお主達、特にセレナ達にプレゼントしたい物がある」

 そう言って僕も含めてイヅチ様は四つの箱をそれぞれに渡してくる。その中にはアレが入っていた。

「こ、これは」

「実は最近遠くの地から来た商人から物を仕入れる事があってのう。ついでにもらったのじゃが、お主達これを着て見ぬか?」

「これって着れるの?」

 アリスが箱から取り出し、呟く。彼女が取り出したのは黄色の水着。

 そうあの”水着”だ。

「どうやらその地の言葉で、ミズギと呼ばれる物らしいのじゃが、何とそれは裸の状態から着るものじゃ」

「全裸で」

「これを?」

 今度はセレナとハルカが声を漏らす。セレナは水色、ハルカは赤色の水着を手に取っている。
 そして僕にプレゼントされたのは、青の短パン。まさに男の水着に相応しい。

(まさか浴衣に次いで、水着までこの世界で見られるなんて……)

 本当にここは異世界なのだろうか?

「それでこのミズギとやらは、水辺で泳ぐ時に着る物らしいのじゃ。折角だから山を降りた先に流れておる川がある。ラティを連れて行ってみてはどうじゃ」

 そして話は現在に戻る。

「さっきからユウマ、ジロジロ見てる」

「変態」

「こ、こっち見ないで!」

 ああ神様、僕は今とても幸せです。

『そんな事報告されても困るんだけど……』

 あ、本物の神様がいるの忘れてた。

  ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
 あの岩山から森にかけて流れているこの川は、とても穏やかでこの暑い季節に水遊びをするにはピッタリだった。

「ちょっとアリス、何するの?!」

「ラティ、協力して」

「ラジャー」

 贅沢な話をするなら、水着といえば海なので海の方が良かったのだけれど、そこは我慢。今こうしてアリス達が水遊びをしているだけでも、とても目の保養になる。

「喰らえ、ラリアット!」

「ごふっ」

 素晴らしい光景を一人で楽しんでいると、突然ラリアットが何故か背後から飛んできて、僕は顔から川にダイブしてしまう。

「ぶはっ、な、何をするんだよセレナ」

「変態にはお仕置きが必要かなって思って。このまま川に沈めてあげようか?」

「待ってそれはシャレにならないから!」

 手をコキコキしながら凄い形相でこちらに寄ってくるセレナ。僕は命の危険を感じて咄嗟に逃げようとするが、

「セレナ、私も協力するね。この変態は何とかしないとダメだと思う」

「待ってハルカ、その大剣で何をするつもりなの?」

「水って剣で切れるかな」

「この川を血の海にしないで!」

 意味は違うがまさに前門の虎後門の狼、僕の逃げ場にはずっしりと大剣を構えたハルカが待ち受けていた。もう逃げ場がない。
 せめてアリスかラティを仲間にしてーー。

「ラティ、雷の魔法使える?」

「少しだけなら」

「じゃあこの人形に当てて? それを水に浸けるから」

「待って、本当にそれは待って!」

 セレナとハルカよりも、こっちの二人の方が危険でした。


 と、こんな悪ふざけをしながらも、僕達は川でのひと時を楽しんでいた。特に心配されていたアリスについては、何事もなくいつもの彼女に戻っていたし、僕達も昨日以降それ以上の事には触れていない。

(これが僕達らしさ、かな)

 とにかく今はこの時間を最優先して楽しみたい、僕はそう思った。皆色々抱えて生きているけど、今ここにある笑顔がどんな顔よりも一番輝いている。だから……。

「あ、またいやらしい事考えてるユウマ」

「え、別に違う」

「ラティ」

「ユーマはお仕置き!」

「ちょっと待ってラティ、その手に持ってる人形、明らかに電気を帯びているよね? ねえお願いだからそれをこっちに投げないで……ぎゃぁぁぁぁ」

「あはは、いい気味いい気味」

「私たちの体を見ている代価」

「アリス、それじゃあ安すぎるよ。もっとハードなものを、あれ、ユウマ、そういえばその傷どうしたの?」

「え? あ、これは、この前ちょっと転んで怪我しただけだから」

「ふーん。じゃあその傷目掛けてもう一投、ゴーラティちゃん!」

「ここに鬼以上の鬼がいた?!」

 僕も少しだけ隠し事をしても構わないよね。

  ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
 時間も忘れて僕達は大はしゃぎしていた。時々休みを入れながらも、ラティと同じくらい楽しんでいたと思う。

「ふぅ」

「お疲れ様、ユウマ」

 少し遊び疲れた僕は、木陰で休憩しているとセレナがその隣に座ってきた。

「別に疲れる事はしてないけどね」

「そう言っている割には疲れた顔してるよ?」

「そうかな」

 僕とセレナはそれからしばらくアリス達を眺めていた。そしてしばらくして、セレナが口を開く。

「いつ、なの?」

「え?」

「その傷、いつ負ったの?」

「この前転んだだけだって」

「嘘が下手だよねユウマは」

「……」

 セレナにそう言われても僕は黙っている。嘘が下手なのはわかっているけど、僕は僕自身の意志を貫く。

「アリスに偉そうな事を言っておいて、自分は黙っているんだ」

「別に話す必要がないから話さないだけだよ」

「じゃあ嘘はついていたのね」

「……別にどうでもいい嘘だよ」

 それにまだ話していない大きな嘘がある。僕はこの世界の人間ではない事。それは僕の人生にとって最大の嘘であり、ずっと隠し続けなければならない事実。

「話すつもりがないなら私はそれで構わない。だけど私じゃなくて、アリスらハルカもユウマを心配しているのを忘れないで」

「分かった」

 セレナはそう言うと、再びアリス達の元へと行ってしまった。僕もそれからしばらく休憩した後に、皆の輪の中に入っていく。

「あ、ユーマも来た!」

「ユウマ、休憩時間長い」

「ごめんごめん、ちょっとはしゃぎすぎて疲れちゃってさ」

「そういえばもう結構な時間遊んでいるもんね私達」

「そろそろイヅチ様の所に帰ろっか」

 かなりの時間遊んでいたから、皆流石に疲れたのか、帰ることを提案してくる。僕も正直クタクタだったので、そろそろ帰りたかったのでちょうど良かった。

「えー、まだ遊びたい」

「また今度遊びに来るから、その時にまた来よう」

「むう……分かった」

 まだ遊び足りないラティを、僕はそうなだめて納得してもらう。別に会うのは今日に限った話ではない。またいつか、ここに来た時にはこうして遊べばいい。
 まあ季節によっては、さすがに水遊びはできないけど。

「じゃあ皆帰ろうか」

 こうして僕にとってささやかな楽園は、幕を閉じたのであった。

『最後にそう締めるのは、ちょっと私引いちゃう』

 また水着姿見れたらいいなぁ。

  ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
 イヅチ様の家に着いたのは、夕刻頃。僕達はイヅチ様が振舞ってくれた料理を食べた後、遊び疲れたのか僕とイヅチ様を除いた全員が眠ってしまった。

「お主は眠らぬのか? 疲れておるじゃろう」

「寝ようと思ったんですけど、寝れなくて。それに少しだけイヅチ様とお話がしたかったんです」

「我と?」

「昨晩の事で少し」

「ーーやはり分かっておったか」

 セレナ達には教えていないが、昨日の夜僕はちょっとした事件に巻き込まれていた。
 この傷はその時受けたもので、誰の差し金なのか考えた時自然とイヅチ様ではないのかという結論に辿り着いた。

「少し外に出よう。ユウマもそれを望んでおるじゃろ?」

「はい」

 セレナ達には聞かれたくなかったので、僕とイヅチ様はこっそりと家の外へ出る。洞穴の外まで出た所で、改めて彼女は口を開いた。

「本当はこんな事をする必要などなかったのじゃが、やはり放ってはおけなくてのう」

「あれは……ヒアラさんも関係しているんですか?」

「あやつが関係していないとは言い切れぬ。その情報を寄越したのは、恐らくあやつじゃから」

「どうしてそこまでしてーーこの世界から闇を払おうとするんですか?」

「それが世界の為だからじゃ」

 イヅチ様は昨日のシレナと同じ答えを出した。神の役目は世界の安泰。その為には危険なものは振り払わなければならない。
 ーーたとえそれが、世話になった人であっても。
 イヅチ様はそう言葉を繋げた。

「じゃあ僕は間違っている事をしているんでしょうか?」

「それは我には分からぬ。しかし関わってしまっている以上、この世界の命運はユウマ、お主にかかっておるかもしれない」

「世界の命運が僕に……」

 そのあまりに重たい言葉に僕は、何を喋ればいいか分からなくなる。どうして僕なんかにそんな重たい使命を背負わさなければならないのか、分からない。

 分からない、でもアリスを守りたい気持ちが僕にはある。

「僕にはまだその命運とかは分かりませんけど、でもやはり気持ちは変わりません。彼女は僕の大切な仲間ですから」

「そうか、なら」

 イヅチ様は指を鳴らす。すると雷が僕の真横に降ってきた。

「なっ」

 僕はそれを慌てて避ける。

「まずはそれを証明して見せよ、我に。主のその守りたいという意志を!」

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