運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

本質は采明ちゃんは甘えっ子です。

 痛み止を噛み、骨を入れると、きつく布を巻き、

「しばらく歩くのも禁止だ。そうだな……杖か、何か……」
「はい!!」

痛みに涙ぐんでいたものの、采明あやめは、手をあげ、

「こんなの作ってください!!」
「なにをだ?」

紙を取り出した采明は、必死に紙に書くと、差し出す。

「何だ?これは」
「松葉杖と言います。この上の部分は、脇で挟むようにして、ここが手で握る部分です。そして、下にはそれぞれ布を巻いて、付いて歩くんです。そうすれば歩けます」
「馬鹿者!!怪我人が動いてどうする!!姉上と休んでいろ!!」

 横たえる。

 昨日も感じたが本当に小さく華奢な少女である。

「で、でも、もっと仕事!!」
「寝てろ!!でないと、だっこして出仕や、背中に背負って、馬に乗るが?」
「いやぁぁ!!無理!!恥ずかしい!!死ぬ!!」

 身もだえる少女に、神五郎しんごろうは、

「大怪我をした嫁が動き回るのほど見るのが辛いものはない。大人しくしていろ」
「でも、少しでも出歩くので……」

その意味を気がついた橘樹たちばなに、

けやき?」
「は、お嬢様」

傍に静かについていた、青年は近づく。

「あぁ、欅兄上がいらしたか」

 神五郎は、微笑む。
 そして、

「采明。この方が、私の兄上同然のかただ」
「め、滅相も!!」

首を振ろうとする欅に、采明は、

「あっ!!時々、橘樹姉上と一緒にいたのに、迷った私を助けてくれた、お兄さんです!!いつもありがとうございます!!お礼を言う前にいなくなるので……とっても残念で……お会いできて嬉しいです。あ、采明です。お兄さんは欅さまと言うんですね!!覚えました」
「おい、こら。夫のことは覚えずに、欅兄上は覚えるのか!?」
「神五郎さまはウロウロそこら辺にいますので、覚えなくても大丈夫です」

主夫婦のやり取りに、プッと吹き出す。

「し、失礼しました……」

 何とか言葉を発するが、そのあとは言葉にならない。

「兄上まで……笑われるんじゃなかった」
「大丈夫です。神五郎さまは私よりお子さまですので、欅兄上、沢山お説教をしてくださいね!!」
「こら。采明!!」

 姉まで加わって笑い出すのを見つめ、

「そんなに情けないですか!?」
「……采明に、采明に、お説教を受けているなんて、本当に……あははは……」
「本当に、こんなのですよ!!兄上、姉上!!こんなのひどいですよ。これで直江なおえ家の当主でどうするんですか!!お説教です!!」

采明の言葉に、二人は笑い、神五郎は、

「それは止めてくれ!!嫁に頭が上がらないと周囲に知られたらどうするんだ!?それでなくとも!!」
「いいんです。旦那さまはお馬鹿さんですって周囲の噂ですよ」
「それが困るんだ!!」

と必死に訴えても笑う姉達に、

「姉上!!兄上も!!笑わなくても!!」
「采明に家に来て貰えて良かったわ、ね?欅」
「そうですね……」

目を細める。
 その顔に、采明は、

「姉上」
「なぁに?」

の言葉に、

「姉上、采明はお兄さん欲しいです。欅兄上もお家に来て欲しいです」
「家にいるでしょう?」

の次の瞬間には、爆発する。

「姉上と兄上と結婚してください。お姉さまとお兄様!!采明はお兄さんが、欲しいです。夢なんです。采明は一番上だったので、お兄さんとお姉さまが、欲しかったです。姉上が、お姉さまなので、お兄様も欲しいです。……駄目ですか?」

 おねだり……に、堕ちたのは、神五郎だけでなく、二人……。

「あ、あの、私はね?今はもう、全く気にしていないのだけど、出戻りなのよ……だから、欅に申し訳ないと思うわ……」
「そんなことはありません!!お嬢様になんの落ち度があったのです?あちらは、神五郎よりも馬鹿で愚かだったんです!!お嬢様のことを、おとしめるなど許されることではありません!!あれは汚点でもなんでもありませんよ!!」
「じゃぁ!!お兄様になっててくださいね!!嬉しいです!!」

 きゃぁ!!

 嬉しそうな声ではしゃごうとする采明を慌てて押さえ込みつつ、にやっと笑う弟。

「姉上も、欅兄上も、これで……」
「年貢の納め時と言うんですよ!!決断の時って言う意味です。でも、もっと仲良しになってくださいね。お兄様、お姉さま。なんなら、これ、贈答用にお届けします」
「こら。旦那を何だと思っているんだ!?」
「いりません~!!お姉さま!!お姉さまの衣合わせたいです!!なのでお兄様!!連れていってください!!ね?」

 その言葉に、

「欅。行きましょう。采明は怪我人だから……神五郎よりも冷静な貴方なら大丈夫でしょう。こちらに」
「はっ!では、旦那様、後程」
「では、行ってきます!!お仕事に行ってくださいね!!」

欅にそっと抱き上げられ、手を振って立ち去った采明に、悔しげに、

「敵が増えた!!負けるか!!采明は俺の嫁!!」

と叫んだのだった。

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