運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

景虎くんピンチです!!そしてどうなるのでしょうか!?

学院の入学生を募り、そして日本にも音楽、芸術に力を入れてもらおうと、考えていた第一期、二期の生徒である4人とその師のコンサートだったのだが、次第に琉璃りゅうりの体調が悪くなり、今後海外での公演もあったために瑠璃るりりょうは相談し、琉璃の公演を次の新潟公演で終了させようと決まり、移動していた。

琉璃は前までは公共機関で皆と移動していたのだが、今回は特別に別行動をとることになり、

「えぇぇ!?私が琉璃の格好を!?」

景虎かげとらが叫ぶ!!

「ごめんなさいね……本当に、申し訳ないのだけれど、俯いたままでいいから、側に並んで座ってほしいのよ。一応、景虎さんと亮さんが別行動にと言う形にしていないと、琉璃の行方を追う……と言うのも困るの」

瑠璃の言葉に、メイクとデザイナーとして服装を担当して、現場監督まで兼ねている月英げつえいが、

「実は、琉璃の行動をチェックしているものがいるらしくて、元々警戒心の強い琉璃が怯えてしまっているんだ。今のうちに何とか出来ればとは思うが、今のところ、脅迫等はないし……何とも言えないんだ」
「琉璃を!?それは大変だ!!」
「それに……昔の事もあるし、念には念をと思って……」

瑠璃は目を伏せる。
ナチュラルメイクの瑠璃は母性がにじみ出る、本当に美しい女性である。
舞台での凄みのある色気とメイクも素晴らしいが、景虎にはナチュラルメイクの瑠璃の方がボーッとするほど好きである。
昔、越後で助けた弥吉やきち達の母、佐々さざれも儚げで美しい人だったなぁ……とボーッとする。

もう5年……この間に内緒で歴史を勉強し、自分についての事も知ったのだが、一番驚いたのが、

「はぁぁ!?私の女人説!?私は男だ!!」
「はい。これがお姉ちゃんが調べていた調査研究の結果よ。ここの本全部自分であちこち回って歴史研究に費やしていたの」

百合ゆり達の両親は、国立学院で歴史学教授として父が、そして母は幼稚園を運営し、それだけでなく働いているシングルマザーやファーザーの支援活動をしていた。

その為、日本から一旦引き払い、采明あやめの荷物も全て移した。
すると、歴史研究者の父の圭吾けいごが驚くほど研究に時間を注いでいたことがわかった。
それは、母の蓮花れんかや百合の想像以上の膨大な量で、それを全く知らなかった3人は本当に悔やんだ。
采明は……寂しかったのだろう……。
そして、

「最後にお姉ちゃんが向かったのがここよ」
「あぁ。そこは寺のすぐ傍の直江家の別邸だった辺りだと思う」
「直江家の別邸!?」
「当主は幼名が直江神五郎なおえしんごろう。その頃は実綱さねつなと名乗られていた。後の景綱かげつなと呼ばれる人だ。その絵のような顔ではないな。顔は中々当時でも美男……と言うより明るい……子明しめい兄のような感じだな。うん、性格は元直げんちょく兄を体育会系にした感じだ。せっかくの素質を上手く生かせず馬鹿を見るタイプだ」

その言葉に、

「酷いこと言うね……昔はあんなに『うぎゃぁぁ!!嫌じゃー!!兄上とおるんじゃ!!』って泣いてたのに」
「昔の恥ずかしい過去をそうやって言うからだ!!兄上の馬鹿!!」

べーっと元直に舌を出す。

「まぁ、で、兄上は実直な方だ。真面目だから……もしかしたら、百合の姉上の采明どのは兄上のもとにおるやも知れんな……あの兄上なら多分と言うより絶対」
「何でそう言いきれるの?」
「私がいた時刻は夕方だった。夕方に少女……置き去りにはできぬ。あの辺りは暗いし物騒だ。連れて帰る筈だな。で、案外あの兄上の嫁にでもなっているかもしれんな」
「何言っているのよ!!あの頃はお姉ちゃんは12才よ!!しかも……ここで言うのもお姉ちゃんショックかもしれないけれど、12才に見えないほど小さかったのよ!!だから景虎と見間違ったんだから!!」

その言葉に、

「何だ。私が女の子と思ったわけではないのか」
「それはそれ。でもお姉ちゃんはちっちゃくって、お目目クリクリで、お人形さんみたいなんだから。肌は白いし、髪の毛は栗色、瞳も栗色。まつげも長くって、これが証拠よ!!」

大事に残していたらしい写真を初披露する。
元直も驚き、

「あれ?これは、月英が相当乗り気でドレスとかも作って撮影していた子で……これ、采明ちゃん!?あぁ、そうだ!!眼鏡はずすと全く見えないからって言ってたのに……良く撮ったな……。この写真で、美少女コレクターって言われているのに」
「ほほぉ……百合とは違った意味で美人だな……と言うことは、可能性は高いか。気が強すぎる事はないだろうし、無理に背伸びをする姿は多分、あの兄上の好みに……」
「どういう好み?」
「兄上の母上は剛毅な方で、女の身で戦に出ていた。一度など、腹帯を締めて、戦場に出て、戦が終わった直後に神五郎兄上を生んだので、『神様のご加護』と神五郎とつけたらしい。それに姉上の橘樹たちばな姉上も武器を振り回す剛の者で、そんなきついのを見ていたら、こんな美少女見たらドキドキだろうな……あぁ、元直兄も、この間警視庁の方のご令嬢に頬を赤くしていたな。あんな感じだと思う」
「比べない!!」

元直はたしなめる。

「およ?あんなにてれてれだったのに」
「えっとね!!あの子は、後輩なの!!元々ボーッとしているからどうしたのかと思ったら、『実験の事が気になって……何を入れてたかしら……先輩覚えていますか?』『実験室に入っていないでしょ!?私は!!何の実験をしてるの』『えーと、あ、爆発したら……』って言った途端に、実験室が本当に爆発!!消防車が来るなかを、戻っていこうとするから『何してるの!?』って捕まえたら、『実験後のことは研究者がしっかり把握するべきです!!』だって……もう、押さえ込んでて、そうしたらご両親が真っ青になって駆け込んできて……が定例でね。長官にお会いしたからどうかなっと思っていたら……変わってなかったよ」

ため息をつく。

「『え~と……誰でしたっけ?』からだったでしょ?『変わってないね……』って言ったら『え~と……諸岡もろおかの……方ですか?でもひょろながでもないし、えっと……』って考えはじめてね~。しかも、瓜二つのお母さんもあんな感じで、長官が『申し訳ない。庄井元直しょういげんちょくどの。久しぶりだ。成長されたね』と言われると、『あぁ、げんげん二号先輩だ!!』」
「『げんげん二号』って何?」

景虎が問いかけると、

「彼女は玉樹ぎょくじゅと言うのだけど、どこかから迷い込んできたハリネズミに『げんげん』と付けたらしい。で、突然サファリルックで出てきて、虫取網に、虫かごを肩にかけて、『コモドドラゴンをペットにしに行ってきます!!』とか言い出してね……カブトムシなら解るのに、何でそんな軽装でとんでもない所に……と意識を飛ばしかけたよ」

遠い目をする元直に、景虎も百合も、

「『コモドドラゴン』……あれは私でも無理だ。噛まれたら死ぬし、追いかけてこられても死ぬ」
「そうね」
「だからね。一応常識をと思って、動物愛護センターとかに行って、捨て犬、捨て猫のことから教えて、変なものを飼うよりも、こう言う子達に里親を探す方がもっといいだろうと説明して、それで、流行で買いはじめて流行に外れたからとペットショップから持ち込まれたと言う、大型犬を紹介してもらって、しつけのことや可愛がり方を教えて、連れて帰った犬の名前が『げんげん二号』なんだよね……」
「でも、何で『げんげん二号』!?」

元直が、自動扉が開き現れた警視庁長官に、微笑む。

「仕事外の事ですのに……申し訳ありません。長官」
「いや。構わん。それよりもこちらこそ本当に申し訳ない。玉樹の育て方をどうもかなり間違えてしまって……」

ため息をつく。

「何故ハリネズミに私の名を付けるのか……まぁ……『お父様が大好きだからでっす!!』と言われて……あの顔でにっこりされたら、許してしまう私も悪いのだが……」
「はぁ!?『げんげん』って!?」
「あぁ、先日は、景虎君だったね。素晴らしい歌声を聴かせていただいたよ。妻がもう少しで君を連れ去ろうとして、阻止したのだが……良かった!!国際問題に発展する所だったよ」
「奥方が……って!?」

長官を示し、元直が告げる。

「長官のお名前が元譲げんじょう様と言われるんだよ。それで、ハリネズミを最初『元譲』と付けて……良くあちこちに置き去りにして『元譲!!元譲どこ~!?』と探し回るからね、幾らなんでも、それはと注意して愛称とかを付けたらと勧めて、で、『げんげん』に落ち着いて……」
「『二号』も元々の名前は『元直』だった。それも、遊ぶときに屋敷の庭で大声で『元直!!きなさーい!!』とか始めてね……。名前をやめて通称にとすると『お父様!!大変です!!この子も『げんげん』この子も『げんげん』になるのです~!?どうしたらいいでしょう!?』と言い出してね……すると、妻が『じゃぁ、この子が『げんげん』で、この子が『げんげん二号』にすればいいのよぅ』と……止めようとしたのに……」

やれやれ……

と言いつつこの父親も親馬鹿……と思う景虎と百合である。

「まぁ、元々引きこもりがちだったあの子が、庭で遊び回っているよ。……今では『げんげん20号』がいるが……」
「又変なものを!?」
「いや、犬を次々。警察犬などや災害犬、介助犬等についても考えるようになって屋敷の庭が全て犬のための訓練所になってしまっているんだ……ははは」
「あの広大な庭が!!良いんですか!?」
「と言うよりも、考えてみれば、それも良いことだと。あの子が爆発!!するよりも安いなぁと思ってね」
「そうですね」

二人は二人にしか解らない会話で頷くが、子供二人は不憫としか思えなかったりする。

「と言うわけで、新潟県警にはこちらからも内々に伝えておくので、安心してほしい。では」
「ありがとうございました」

3人は頭を下げたが、思い出したように、

「庄井君。今度、もし良ければ遊びに来なさい。二人の暴走は、何とか気をそらして……」
「ありがとうございます。では又よろしくお願いいたします」

出ていった長官の背に、疲労の陰が見えた景虎だった。

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