運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

采明ちゃんはふと思い出した事がありました。

落ち着いた頃……安定期に、腹帯をして、現代では8ヶ月か9ヶ月頃だろうか、采明あやめはふと思い出した。
仕舞い込んでいた鞄である。
奥から引きずり出し、中身を確認しようとする。

「……指輪は見つからなかったのよね」

残念そうに呟く。
それほど高級なものではないだろうが、両親が贈ってくれた最後の品である。
自分はもう必要がないので、可愛い一人娘の明子あきこに譲ろうと思っていたのである。
もう一度中身をひっくり返すと、中には携帯とタブレットが出てくる。

「おかあしゃま?どうしたのでしゅか?」
「采明お姉さん。調子がお悪いとか?」

顔を覗かせるのは明子と弥太郎やたろう正明まさあき正樹まさき橘信きつのぶと、神五郎しんごろうである。

「あ~!!なあに?なあに?」

集まってきた子供たちに、

「あら……そうだわ」

電源が付くことを祈る。
もう数年、電源を切ったままである。
電池も切れていると思うが、今一度……。
と、漆黒の画面が着いた。

「良かった!!しばらく……しばらくもって!!」

祈りつつ、早く画面が切り替わるのを待ち、即座に、カメラモードに切り替えると、

「はい!!そのままね?」
「えっ!?」

カシャッ!!

と言う音に、6人は驚く。

「あきちゃん、景資かげすけくん。にっこりして?」
「うん!!」
「は、はい!?」

一枚。

「正明くんたちもにっこりして?」
「はーい!!」

もう一枚。

「旦那様も」
「へっ!?」

カシャッ!!

「あぁぁ……旦那様は、変な顔ですね?じゃぁ、采明もとって貰いましょう。景資くん、このボタンを押してください。采明の顔がここに見えるので、あきちゃんとだっこの写真をお願いします!!」
「は、はい!!だ、大丈夫ですか?」
「急いでください。すぐ切れちゃうので!!」
「は、はい!!」

震える手で写メをとる。

「ありがとう!!これを保存……あ、ギリギリ間に合ったわ!!良かった!!」
「こ、これは?」

仕舞いながら采明は、微笑む。

「宝物。もし、私の家族が見たらホッとすると思うの。あ、でも、何も影響はないのよ?後で……この道具を知っている人がいたら、解って貰えると思うの」
「宝物?」
「そうなの。この中に、お母さんの記念の宝物が残ったのよ。大事にしなくては」

嬉しそうに答える采明や子供たちを楽しそうに微笑んだ神五郎は、ふっと殺気を感じ身に帯びていた刀に手をかける。

「ど、どうされたのですか?」
「……いや、大丈夫だ」

しばらくして返事をした神五郎は、

「弥太郎。皆と隣に遊びにいって来るといい。明子?皆と仲良くするんだぞ?」
「はい!!いってきましゅ!!」
「いってらっしゃい」

見送ると、低い声で、

「采明……逃げられるだけ逃げろ!!」

ひょいっと立たせ、荷物を持たせると背中をトンっと叩く。

「はい!!」

鞄を抱き締め逃げ出した。

「……どこのものだ!?この屋敷に何をしに来た」



「……ふんっ!!鬱陶しい!!」

景虎かげとらはにやっと笑う。
琉璃りゅうりの格好ではあるものの、脱走に成功したのである。
ついでに、百合ゆりには、道を案内してもらうために来て貰っている。
大体の地域は解っていても、長い間住んでいるのが日本ではなく、異国であり、その異国に慣れた景虎にはこの現代の日本は又々異国である。

「しっかし……狭い、ごみごみしておるし……馬の方が我には合っているのだがな」
「景虎……琉璃はそんな風に話さないでしょ!!」
「わかってるの。百合ちゃん」

もう、長年一緒にいる家族なのだから、琉璃の口真似なら得意である。

「でもね?……おらぁぁ!!しばきたおす!!」

くるっと振り返り、走り出す。

「もう!!そんなしゃべり方は……やめなさいと……いってるでしょうが!!」

百合はこそこそと近づいてきていた少年たちに掴みかかり、足を引っかけ倒す。

「いい加減にしなさいよ!!か……琉璃に手を出してごらんなさい!!師匠たち直伝の!!」

百合は景虎を追いかけながら拳を振るう。



「あの……馬鹿虎!!」

いつになく激怒するのは元直げんちょくである。

「しかも百合ちゃんまで!!一体何を考えているんだ!!」
「ん?あぁ、……何だと!?」

元直の前で携帯と怒鳴りあっていた男が蒼白になる。

「何だって!?」
「どうしたんですか?」

りょうの声に、振り返った益徳えきとくは、

「あの時に会社から俺はそのまま退職して、美玲みれいと実家の近いこちらに引っ込んだが……時々、様子を窺っていたんだ。そうしたら、ひげ親子がこの地方に引っ越しているというので、警戒していたらあの親子目を盗んでこっちに来ているらしい!!しかも、二人の子供を追いかけて……」
「!!行かないと!!」

元直の声に、

「お前には場所も細かく解らんだろう?」
「げっ!おっさん!!」
「誰がてめえのおっさんだ!!」

姿を見せたのは、益徳とさほど変わらぬ筋肉男。

妙才みょうさいの癖に!!」
「うるせぇ!!肉だるま!!」
「うるっさいわねぇ!!文謙ぶんけんちゃん、アホアホは一撃必殺よ!!絞めて頂戴!!」
「解っております!!と言いたいのですが、殿?可愛い一人娘に良く似た可愛い子供の前では暴力はふるいとうはないのですがなぁぁ……」

文謙と呼ばれた男は、ニコニコと景虎の服を着ている琉璃の頭を撫でる。

「おぉ、可愛い!!わしの娘にも、こう言う格好をさせたいのですがな……わしには余りそういう素質はないらしく……残念」
「あたしも着せ替えしたいわぁ!!」

その声に妙才も文謙も冷たい視線を投げ掛け、

「変態には言って欲しくない台詞セリフですなぁ……」
「そうだよなぁ……」
「あたしは変態じゃないわよ!!」
「充分変態じゃねえか……」

益徳が呆れ返る。

「あんた、それでも首相か!!」
「うるっさいわよ!!これでも首相よ!しゅ、しょ、う!!妙才ちゃん、文謙ちゃん。皆と分担して行きなさい。大丈夫よーん。仲康ちゅうこうちゃんがいるから。それよりも、うちの子脩ししゅうたちもここにいるから、その分も割いてちょうだい。外交問題よ。急いで!!」

曹孟徳そうもうとくは、席に着くと、

「ごめんなさいねぇ?普段のしゃべり方は堅いでしょう?」
「この親父は気にするな。ただの変態女好きスキャンダル親父だ。この親父のどこがいいのか……顔も悪いし、根性も悪いし、性格も悪いし背も低い!!」
「と、父さん!!じいちゃんも父さんも背丈と一応顔以外はそっくりそのまま瓜二つ!!そっくりなんだから、自分の悪口言ってるみたいだよ?それに、じいちゃんも」
「ぐはぁ!!」

可愛い童顔のひょろひょろ少年の酷すぎる一言に二人はダメージを受ける。
しかし、少年は、金髪で金の瞳の愛らしい……美少女のような少年は、にっこりと微笑む。

「初めまして。僕はしょうと申します。この子脩の長男です。この容姿は母の血が濃いからで、母は冬の雪の国の人間です」
「初めまして。私は月季げつきと申します。曹孟徳の愛人の娘です」
「む、娘ぇぇ!?おい、首相!!どこぞのスキャンダル親父以上のおっさんだな!!お前には何人愛人がいるんだ!!」

益徳の声に、亮が、

「良いとは……とも言いたくないですが……お子さんのことを考えられては?」
「考えてるわよぉ。だから、この子達と、あと一人、熊斗ゆうとをお願いできないかしらっと思って」
「貴方のように、可愛くない二人ではなく、あの奥方と一緒にいらっしゃるお子さんですか?」
「言うわね……諸岡もろおかちゃんも」

その一言に顔をひきつらせ、

「ちゃんは結構です!!この国の首相はオカマ言葉に変態と言いますよ!!」
「それと、琉璃を危険にさらすような存在の状況把握出来ていない事態で、国交問題、国際問題ではありませんか?」

元直の一言に、曹孟徳は、

「あんたねぇ~?そんなに監視なんてしきれないわよ。しかもあの黒河くろかわよ?いくら、元譲げんじょうはるかちゃんに追いかけさせても、あの手この手で逃げるんだから」
「遼ちゃん!?」
「あら?知らないかしら?遠藤遼えんどうはるかちゃんよ。警察庁の。本当は元譲に警察庁の方にぶん投げたかったんだけど、元譲は瓊樹けいじゅちゃんの傍にいたいって警視庁に入っちゃったから、遼ちゃん釣り上げちゃったわ~♪」

おほほ~♪

と笑う声は親父である。

「……親父……不気味だ。止めろ!!」

子脩は止め、

「えっと、遼兄貴は、警察庁勤務。元譲叔父は警視総監けいしそうかん。まぁ、仲が悪いとか言われる二つの組織だけれど、叔父たちは基本仲良しなんだが……今回のようになることが多く、今回徹底的にその溝を叩くつもりだったのもあるし……」

突然立ち上がり、頭を下げる。

「突然ではあるし、親父……父の権力を利用しているようで申し訳ないのだが、彰と月季、弟の熊斗をお願いしたい!!本当に頼む!!」
「どうしたんですか?」
「あの……な?」
「私が話そう」

オンオフ切り替えた孟徳の声に背筋が伸びるのだが、

「おねがーい!!うちの子と孫を預けたいのよぉぉ!!」

に、彰が、

「じいちゃんも、いい加減に真面目にしろよぉぉ!!じいちゃんが遊び回ってあちこち愛人作るから恨み買って、月季がこんな風に大怪我をしたんじゃないか!!反省しやがれぇぇ!!」

と蹴りを放ち、逃げようとした孟徳を子脩と益徳で押さえ込み、蹴りが上手くめり込む。

「ぐはぁ!!」
「俺は男だから良いけど、月季は女の子だぞ!!しかも、子桓しかん叔父に子建しけんが!!反省しやがれぇぇ!!」

踵落かかとおとしまで決まり、それを子脩が投げる。

「あぁ、うざかった!!良くやった!!彰!!さすが、芙蓉ふよう義母さんの直伝の足技!!」
「本当に!!……でも、俺がもっと強かったら……」

月季を助けてあげられたのに……!!

唇を噛みうなだれる。

「兄さん?大丈夫ですよ。私のように可愛いげのない男女なんて貰い手もないでしょう。それに、子脩兄上のように正妻の子供でもありませんし、何処かの家に嫁に出すよりも、何か手に職をつけて叔父上方の養女として、働いた方が」
「何を言っている!!」
「そうだよ!!月季は可愛いじゃないか!!」

兄親子の言葉に、儚げに微笑む。
控えめにノックがされ、

「失礼いたします」

姿を見せたのは、中肉中背、穏やかだがロウディーン並みの黒さも併せ持つ男。

「お邪魔でしたか?申し訳ありません」
「あぁ、あきら兄貴!!」
「子脩?どうしたのかな?急に呼び出して」
「こっちこっち……」

近づくと引き寄せる。

「諸岡どの、庄井しょういどの。この方は、私の家庭教師をしていた司馬朗しばあきらどの。知っているかな?」
「し、知っているも何も……」

日本で一番有名な経済学者で、政治学者、歴史学者に文学者……ある意味、兄、瑾瑜きんゆのような存在である。

「子脩!!邪魔!!」

と、朗が口を開くと、気絶していた孟徳が手にしたグラスを息子の額に投げた。

「ぐぇぇ!!……血、血が出てしまったじゃねぇか!!くそ親父!!」
「ほほほ~♪父を敬わない、息子にしつけよ。し、つ、け!!おほほ~♪」
「邪魔です。首相。スキャンダル発覚!!」

朗の言葉に、

「あ~な~た~?」

朗の背後から顔を覗かせたのは快活な女性。

「又々……私の知らないところで、みつぎ物を次々買い漁っていたのねぇ?」
「えっ?私?あぁ、子脩や、皆の奥さんにあげようと思って!!」
「嘘つくな!!ど阿呆~!!司馬さんからほーらこんなにも、領収証のコピーが!!」
「ぎゃぁぁ!!朗ちゃん!!何でばらすのよぉ!!」

逃亡を始めつつ、必死に八つ当たりする孟徳に、にっこりと、

「自らの今までの行いを恥じて、反省し、身辺を綺麗にしないと、これを、週刊雑誌者に提供しますよ?」
「いやぁぁ!!鬼!!」
「自分の行いを反省しろと言ってるのよ!!おらぁぁ!!」

プロレスの技が、目の前で決められ、朗はニコニコと、

「芙蓉さまは、妹で、妙才どのの奥方の木槿むくげさんと二人で、女子プロレスで活躍した姉妹なんですよ。今でも訓練を欠かさないとか。見習わなくてはいけませんね」

と告げたのだった。

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