運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

純白のウェディングドレスと『4つのsomething』にはとても憧れてました。

咲夜さくやはるか達の出発は、春の国の音楽学院のリサイタルも全てキャンセルとなった後、沙羅さらと遼の兄、ゆかりの結婚式を終えてからとなった。

実は紫が、咲夜に歌ってくれと頼んだ曲は、遼が珍しく怒って泣いていたと食って掛かると、手を合わせて、

「ごめんごめん!!お願い!!お兄ちゃんのお願い!!あの祐司ゆうじに歌ってあげたくてぇ!!」
「それは嫌がらせじゃないですか?」
「良いんだよ。あのシスコンおっさんを泣かせてやる!!」
「おっさんって、同じ年でしょうが……」

遼は呆れる。
祐司と言うのは、山田祐司やまだゆうじと言い、沙羅の兄であり、紫の同級生である。
祐司は元々スポーツ選手を目指していたガタイの良い大柄な男だが、両親が、沙羅が小学生の時に亡くなり、父親同士が友人だったため、遠藤家に引き取られたのだった。
たもつは、祐司のスポーツの才能を認め、応援していたのだが、祐司はすっぱり諦め、父の遺産と必死の猛勉強で特待生として医大に入学し、外科の医師となり、遠藤総合病院の医師となった。
が、表向き笑顔で女の子ににこにこと愛想を振りまくモテ男紫と、堅物で生真面目な祐司は反りが合わず、会うたびに喧嘩をしていた。
特に、妹が紫のことが好きだと言うことを知ると、徹底的に反対した。
しかし、妹の恋が実ったことを渋々了承したのだが、例の事件で紫をぼっこぼこに殴ったらしい。

「本当に、痛かったんだよ~!!あいつ、元々スポーツ万能で、柔道やラグビーとかも今でもボランティアで教えてたりするじゃない。あの拳で、見てよ~!!」

シャツを持ち上げて、お腹を見せる。
鳩尾が紫色である。

「兄さんも反省してください。いつも祐司先輩をからかうから嫌われるんです!!」
「私は大好きなんだよ~!!遼、信じてよぉぉ!!」
「信じるな!!遼。こいつの馬鹿に付き合ってたら、胃に穴が開くぞ!!」

がっしりとした筋肉隆々の中々いかついと言うより童顔の青年。

「あ、祐司先輩。お久しぶりです。しばらく子供の運動能力と、怪我の治療についての学会で発表があったそうじゃないですか。先輩の自分自身の経験と、ボランティアのお手伝いに、その上仕事で大丈夫ですか!?」
「遼に言われたら、本気で困るぞ?お前本当に日本中飛び回って、良くやるよなぁって思ってたんだ。あぁ、俺は、呂子明りょしめいを定期的にみているし、何か、院長先生に向こうの院長にと言われたんだが……お断りしますって言ったら、奥さまに泣かれてなぁ……」

心底困ったと言いたげである。

「俺は、何回も断ったんだが……ロウディーン公主が、是非にと言うので……」
「私もシスコン兄貴はいらないって言ったら、こいつに殴られた!!」

ブーブーと文句を言う紫に、

「うるっさいわ!!女好き!!セクハラ魔王!!その上家の沙羅に手を出すとは!!」

お前にだけは沙羅にやりたくなかったのに!!

と嘆く。

「わぁぁ……お兄さん、かっこいいです!!」

楽譜を必死に読む勉強をしていた咲夜が顔をあげ、祐司を見る。

「はぁ!?あれ?この子は……」

祐司の声に、遼が近づき、

柚須浦咲夜ゆすうらさくやさんです。祐司先輩。私の婚約者です」
「あ、あぁ!!あの、馬鹿刑事の!!……おい、遼。俺もいかついおっさんだが、お前も並ぶと美少女と野獣になるぞ?」
「何言ってるんだよ!!家の弟が……まぁごついね」
「お前はチャラ男!!」

祐司は言い切る。

「お前より、遼の方が良い面構えだ!!」
「本当に可愛いでしょ?家のはるちゃんです」
「はるちゃん?」

首をかしげる咲夜に、遼が、

「小さいときに……呼ばれていたんだ」

照れ臭そうに苦笑する。

「素敵です!!私は弥吉やきちと呼ばれていました」
「は、はぁぁ!?こ、こんな可愛い女の子が、弥吉だと!?」
「はい!!妹がはると言うんです。だから、遼様。はるちゃんって呼んでも良いですか?」
「そ、それは……う~ん、人前では、やめてくれると嬉しい」

うっすらと頬が赤くなり、告げる遼の姿に、

「……遼が、デレデレ……すごいな」
「だろう?咲夜ちゃんがいるだけで、遼表情がコロコロ変わるんだよ。昔みたいで可愛いよね」
「このブラコンが!!」
「シスコンに言われたかないね!!」

睨みあう幼馴染み同士も、おっさん同士で睨むのも飽き、祐司は、

「そう言えば弥吉……と言うのは……」
「咲夜ちゃんの小さい時の名前だよ。本名は中条弥太郎景資なかじょうやたろうかげすけ中条弥三郎藤資なかじょうやさぶろうふじすけの嫡子として元服したんだよ」
「はぁぁ!?元服!!それに……」
柚須浦采明ゆすうらあやめさん失踪事件があったでしょう?采明さんのことも知っているんだよ。それに……」

遠くから、ふぎゃぁぁ!!と泣きじゃくる赤ん坊の泣き声が近づいてきて、

「咲夜!!何とかしてくれ~!!泣くばかりでわからんのだ!!」
「やーい、虎兄ちゃんのボケ~!!」

の一言に、祐司は近づき、幼い方の少年の頭にコツンっと拳を当てる。

「こら!!必死の兄ちゃんに言うもんじゃない……それに、その子はおしめが濡れているんだろう。ほら、兄ちゃんにだっこさせてくれないか?」
「あ、ありがとうございます!!」

恐々抱いていた実明さねあきを祐司に託し、ホッとする。

「うぅぅ……実明は小さくて怖い!!可愛いが、怖い!!」
「うーん、小さいが、大きな声で泣く子だな。元気な証拠。おっ?目を開けた。怖い顔って泣かれるか!?」

祐司はにこにこと話しかけると、にこぉっと笑う。

「おぉ!!男の子だな?格好いいぞ?」
「……おぉ!!すごい!!このお兄さんはすごいぞ!!孔明こうめい!!尊敬だ!!」
「ゆかりん兄ちゃんは、咲夜お姉ちゃん泣かせたから制裁!!なんだじょ!!」
「その通りだ!!孔明、行け!!女の子を泣かせる男は最低なんだぞ!!覚えておけよ!!」
「わかってるじょ!!うりゃぁぁぁ!!」

4才になろうとする孔明が腹に蹴りを入れ、紫が悶絶する。
祐司にやられたところに再度……だったらしい。

「勝ったじょ!!こうちゃん偉い!!」
「は、遼……私はもうだめ……あとはよろしく!!」
「遼兄ちゃん悪くないもん!!悪者は倒される運命なのだぁぁ!!正義は勝つ!!天に代わってお仕置きだぞ!!」
「遼……微妙に、おかしな話が混じっているんだけど……お願いします……この子達よろしく!!」

逃げ出そうとした紫を景虎かげとらが捕まえ、一本背負いで投げ飛ばす。

「おぉ……すごいなぁ、あの年で、大の大人を一本背負い!!将来はオリンピックに出られるぞ」

感心する祐司に、

諸岡亮もろおかりょう先生と、そのお姉さんに身を守るすべを徹底的に教わっているんです。でも、咲夜は私の姉なのだぁぁ!!咲夜を泣かせたから100倍返し!!」

景虎がともえ投げを決め、パンパン、手を叩く。

「これで運動不足も解消!!それに……私は愚かだから、采明姉上や咲夜を……。本当は自分を責めていたが、意味がないと思ったのだ」
「おぉ!!少年!!前向きは良いことだ。後悔するよりも、咲夜ちゃんのリハビリの手伝いをしてくれるか?実は、兄ちゃんは山田祐司。春の国の新しい病院の院長……と言うよりも、スポーツや運動、事故などでひどい怪我をした患者さんの体の状態を治すお手伝いをしているんだ。咲夜ちゃんのリハビリも担当になっている。遼もそうなんだが、咲夜ちゃん一人では無理なことはもちろん、兄ちゃんはまだ余り咲夜ちゃんのことを知らないから、遼と一緒に手伝ってほしい。よろしく頼む」
「……わぁぁ!!孔明!!この祐司兄上は素晴らしい先生だぞ!!遼兄上も尊敬しているが、こんな素晴らしい先生がいるなんて!!……ゆかりんや、なつりん、あきりん、ふゆりん……遼兄上の残念な兄弟以外の先生はまともなんだ!!」

尊敬!!というキラキラという目をしていた少年たちの頭を撫でながら、

「おい、ゆかりん。お前ら兄弟何したんだ?」
「なつりんは瑠璃先生るりせんせいに声をかけて、その上モクラン様に声をかけたので、ロウディーン公主殿下が半殺し!!」
「あきりんは、月英げつえい兄ちゃんに声をかけて、絞められて、ふゆりんは百合ゆりお姉ちゃんと琉璃りゅうりお姉ちゃんにちょっかい出して、虎兄ちゃんと亮兄ちゃんが……」
「……ゆかりん……お前ら兄弟、懲りるっての知らないのか!?」

あきれ返る。

「すみません。お恥ずかしい……兄以外は、毎日徹底的に鍛え上げておりますので、大丈夫かと……」
「頭の中のアホは治るまい。よし!!虎君だっけ?」
「あぁ、先生。私は景虎と言います」
「へぇ!!良い名前だな。じゃぁ、景虎くん。あの紫の弟たちを徹底的に説教してやってくれないか」

その言葉に、景虎は、咲夜を示すとすぅっと表情を冷えていく。
凍りついた空気に息を飲む。
やんちゃで愛らしい少年の気迫に、そして強い眼差しに……。

「私と咲夜は幼馴染みだ……咲夜は、本当に辛い思いをして母上や妹に弟を守ってきた……。本当に、ゆかりんは、沙羅姉さんと結婚するなら、咲夜の話を聞いておくことだ。特にゆかりん。再婚なら、咲夜の父上のことを聞いておけ!!……その覚悟がなければ……沙羅姉さんを大事に出来ないなら、資格はない!!」
「景虎様……」
「こらぁ!!咲夜!!呼び捨てで良いといっただろう。それに様付けは、大好きな遼兄さんに言うと良い……遼兄さん。表情が面白いな」

にやっと笑った少年は、

「あぁ、そうだ!!咲夜。百合が言っていたが、何かなぁ……えっと、4つのsomethingというものがあるそうだ。『古いもの』『新しいもの』『借りたもの』『青いもの』を身に付けた花嫁は幸せになるそうだ。それと純白のウェディングドレスは、『あなたの色に染めてください』という意味だとか。それと、花嫁の持っているブーケを受けとると次の花嫁になれるとか。結構、百合が『ブーケ!』『欲しいわ!!』『無理にとるつもりはないけれど、良いなぁ……』だって。咲夜もブーケを貰ったらどうだ?」
「えっ……えぇぇ!!」

顔を真っ赤にして、うろたえる。

「それも良いかもなぁ。紫より遼が絶対良い男だぞ?」
「咲夜に釣り合う男になりたいと思いますよ。私も。あぁ、そうです。今日、明日の式の前夜ということで、咲夜が歌うんです。聞いてあげてください」
「おぉ!!俺は芸術はわからないが、美しい音楽というのは心を豊かにする。その豊かさは愛情にも、感情を伝えてくれる。それを教えてもらうのは、素晴らしいことだ」

景虎は思う……いい人ほど結婚は遅く、腹黒ほど可愛い女性をおとす……遼は違うが……紫は腹黒である。
沙羅には幸せになってほしいと祈るのだった。

「運命(さだめ)の迷宮」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く