運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

驪珠こと烏丸は全くわからない場所にいることに混乱しています。

昔、母名義の屋敷に住んでいた頃はいたずらに、おいかけっこをしていたが、今は、ストッキングにミニスカート、そして胸の開いた服はよく肩からずり落ちる。
その度に必死に直しつつ、隠れられそうな場所を探すが、隠れたと思うと、幼い子供たちが、

「お母さん!!お化け!!お化けだよ!!ここにいる!!」
「こっちね!!烏丸からすまる!!キラキラ頭は目立つみたいよ!!」
「なんなのよ!!この屋敷は!!日本庭園?どこの豪邸よ!!」

叫びながら逃げる。

「しかも、何で日本庭園に弓矢とか……うぎゃぁぁ!!鶏~!!」

庭に放されていた鶏が爪を立てて飛びかかってくるのをよける。

「何やってんの?金ぴかおばちゃん」

鶏を抱き上げた少女は首をかしげる。

「金ぴか金ぴかってなんなのよ!!」

怒鳴ると、大きな丸い瞳の愛らしい少女が、くしゃくしゃの顔になり、

「おかぁしゃまぁぁ!!おかあしゃまぁぁ!!おとうしゃまぁぁ!!」

泣きじゃくる声と、抱き締めている鶏の鳴き声に耳を押さえる。

「どうした!!明子あきこ

現れた長身の男が、鶏を後ろにいた子供に預け、明子と呼んだ少女を抱き上げる。

「ふぁぁぁん!!けやきおとうしゃまぁぁ!!金ぴかおばちゃんが怒ったぁぁ!!」
「金ぴか……ぶぶっ!」

あははは!!

冷えた眼差しの男が、本当に愛おしげに笑顔を向ける。

「大丈夫。明子?お母さんが呼んでいたよ?行っておいで」
「はーい!!けやきおとうしゃま。あきちゃん、おかあしゃまとお昼寝!!いってきます、なの!!」
「転んではいけないよ。行ってらっしゃい」
「はーい!!」

走り去る少女を愛おしげに見送っていた男は振り返ると、冷たい眼差しで見下ろす。

「確か、義母上は烏丸と言っていたか?なぜここにいる」
「知らないわよ!!それよりも、どう言うことよ!!ここはどこなのよ!!」
「黙れ!!下女にもなれん者が!!仮にもこの屋敷の当主一族の者に対する物言い、斬られても文句は言えんぞ!!」

端整な青年の鋭い眼差しに後ずさる。

「な、何なのよ!!じ、時代劇!?どう言うことよ!!」
「……ふんっ、詳しく聞け。神五郎しんごろう
「兄上……あぁ、早速騒動を起こしたか……あの変人の言うことを聞くんじゃなかった」

現れたのは、りりしい青年。

けやき兄上。姉上は?」
「あの体であれ以上は……本人は良いが、周りが困るので押し込めといた」
「そうですね。でも、采明あやめは……」
「奥さま!!采明さま!!」
「大丈夫よ」

とことこと姿を見せるのは右腕を吊った小柄な少女と先ほどの幼女。
手を繋ぐ二人を、数人の侍女に見守っている。

「あ、旦那様。欅お兄様……」
「おかあしゃまぁぁ、金ぴかおばちゃん!!金ぴかおばちゃんなの!!」

少女の手を繋いでいた幼女は、示す。

「金ぴかおばちゃん……あぁ、あれはね?真っ黒な髪を色を抜いて、手入れを怠ったせいなのよ。抜くのなら手入れもきちんとしないとね。髪の毛や肌は大事な宝物よ?あきちゃんはおばあちゃまに似てとっても美人になるから、ちゃんとおばあちゃまのようにね?」
「あい!!でも、あきちゃん。おかあしゃまみたいに可愛いがいいなぁ」
「あら。あきちゃんは可愛いわよ?お母様の自慢だもの」

にっこりと微笑む。

「何なのよ!!人のことを散々虚仮にして!!何様のつもり!!」

烏丸の声に振り返った采明は、にっこりと微笑む。

「烏丸だったかしら?きちんと仕事をお願いね?丁寧な仕事、上品な立ち居振舞い、そして、そのはしたないにも程がある服は脱ぎなさい!!そして、吉野きつの、貴方にこの子のことをお任せします。良いですね?」
「かしこまりました。奥方様」
「あぁ、その服は染みを落として、綺麗にしたら、子供たちのお人形のお洋服にしますからね。捨ててはダメですよ」
「はい。解っておりますわ!!」

吉野は微笑むと、

「行きますよ。烏丸。まずは着物から……ついて参れ!!」
「な、なんですって!!この私に、命令?しかも、このブランドのドレスを!!」
「ブランド?」

戻りかけた采明は、

「ブランドブランドと!!私より年の下の子供が纏うような衣ではないわ!!自分で稼いで購入したわけでもなく、着せ替え人形のあなた程度が着るに相応しい訳はないでしょう!!相応しいのは、義母上のように自分として、誇りと自信を持ち、生きる道を正直に生き抜いた存在です!!あなたのような小娘が着て、笑うしかないわ!!」
「な、なんですって!!」
「同じ言葉を繰り返す……知恵がないのかしら?九官鳥以下ね。では、目に入れるのも恥ずかしい!!すぐに連れていきなさい!!爪を切り、裂けたストッキングは、洗って、掃除に使いなさい。皮のものを磨くと良いわ。そして、髪の色は恥ずかしいので手拭いで隠しなさい。良いですね?吉野」
「はい。ご命令の通り」

吉野はずるずると引きずって去っていく。
その姿に、神五郎は、

「あれ、良いのか?」
「厳しいですか?」
「いいや。あの者が毎日暴れまわると迷惑だ」
「大丈夫ですよ。義母上とお姉さまにお願いして正明まさあきくんたちの遊び相手もさせるつもりです。一石二鳥!!働かぬものは食うべからず!!しかし、彼女は14ですが、老けてますね……と言うか、私が成長していないのでしょうか……」

首をかしげる妻に、神五郎は、

「何を言う、采明は本当に花のように美しい、私の自慢の妻だ」
「これからも頑張って努力します!!」
「おい、二人でいつものは良いけれど、あの烏丸が、こんなものを落としていったぞ」
「何だ?」
「あぁ、ライターですね……未成年の……特に女性のタバコは将来に影響があると言うのに、こちらにも知恵がないのかしら?」

ため息をつくと受け取ったライターをシュッシュっと親指で擦り、炎をあげる。

「うわぁ!!まじないか!?」
「いえ、ここまでの機械の原理はある程度わかります。作れませんが、原理をお教えしますね」
「じゃぁ、采明。冷えては体に堪える。部屋に戻ろう」

4人は戻っていたのだった。

そして、烏丸の着ていたブランドのドレスは、言葉通り洗われ切り刻まれて、お人形やテディベア、お人形の服に変わり、烏丸は嘆いたのだった。

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