桃太郎になっちゃた?

青キング

消滅の詠唱

 朝の日差しが目に入る。
 俺は上半身を起こし、辺りを窺う。
 「遅いぞ」
 背後から不意に声をかけてきたのはどんなときも眠りこけている猿吉だ。
 「座った目付きで私を見るな無礼だぞ!」
 いや座った目付きではない。ただの寝ぼけ眼。
 猿吉はそんなことつゆ知らず俺を睨み付ける。
 そのまま数分沈黙が続く。
 俺は適当に切り出した。
 「おはよう猿吉」
 予想外だったのか座ったまま後ずさる。
 そのまま硬直。
 俺はしゃちこ張る猿吉に近寄る。
 猿吉の正面に正座して、顔をじっーと見つめる。
 猿吉は顔をリンゴのように赤く染め、視線を逸らすように顔を伏せる。
 「う~なんでだよ~」
 ものすごくか弱い声を発すると視線を戻す 。
 俺はずっと見つめ続ける。
 猿吉は今度は耳まで赤くし、困惑の様子。
 今回は負けじと俺を睨み付ける。が涙目で睨まれても怖さの欠片もないどころか逆に可愛い。 
 「なにやってのよ二人とも」
 起床した犬川がこちらに歩み寄ってくる。
 猿吉を横目で見ると目が輝いていた。
 「助けてください犬川さん。志乃がずっとにらんでくるんですー」
 猿吉がとても弱く見える。
 「そういうことね」
 犬川は背中まで伸ばした髪を後ろで括る。
 「ねぇ志乃? 私がポニテしたら似合うかな?」
 「どうだろうアフロの方が似合うと」
 犬川は鬼の形相に変貌する。
 「あんた朝からふざけてるの?」
 俺は質問に頷く。
 「だって俺たちまでムードを重くするとキジミエルさんを入れられないじゃないか」
 「いつもそう言って」
 訝しげな視線を俺に向ける。
 「まあいいか」
 「あー眠くなってきた」
 俺たちは猿吉に視線を移す。
 今にもまぶたを閉じそうだ。
 「起きなさい猿吉」
 体を揺らして、やっとのことで目覚める。
 「どうかしましたか?」
 「キジミエルを起こしに行くわよ」
 キジミエルさんは果たして寝ることができたのだろうか。心配で仕方ない。
 俺たちはキジミエルさんの寝床へ様子を観察。
 「あれ、いないわよ」
 忽然と姿を眩ましたキジミエルさんの寝床には置き手紙が。
 『決着をつけに街へ参ります。あなたたちはこないでください。これは私だけの問題なので』
 全く自分勝手だ。
 仲間が一人で戦場に赴くなんて許せるものか!
 「犬川、猿吉。俺達も行くぞ!」
 「そう言うと思いましたよ」
 「わかってるわよそんなこと」
 木々の隙間を掻い潜るように進んでいく。ただ前へ街へ。
 キジミエルさんの下へ。
 街に到着。
 辺りを急いで見渡す。
 近辺にはキジミエルさんの姿はない 。
 前方に巨大な童話の世界で登場しそうな城を発見。
 俺たちのいた頃にはこんな城なかった。
 「多分、キジミエルさんは城に向かっている」
 「早くしないと」
 俺たちは城に向かって駆け出す。
 向かっていると道中、水晶を携えたキジミエルさんを発見し声をかける。
 「なんだ志乃さんたちですかこないでくださいと置き手紙に記したでしょう。なんでですか?」
 「心配だし、仲間が一人で戦うなら俺達も戦うっていう俺の身勝手な理論」
 「まぁそんなことだろうと思いましたよ」
 「キジミエルさん後ろ!」
 空から何者かが降りてくる。
 全身を覆うマントに片目だけを露にした仮面。
「お前らこの街になにか用か」
「取り戻しにきた笑顔を」
 「異世界の人間が良くもぬくぬくと正義を語れるものだ」
 仮面を被った者の背後からおじいさんとおばあさんが首を出す。
 「久しぶりだね桃太郎」
 おじいさんがおもむろに口を開く。
 「邪魔だよ桃太郎」
 仮面の者は身を翻し、歩き出す。
 「おい、お前らクズども!」
 俺は今までで一番であろうほど激怒した。
 「傲慢だね君達は」
 「うっさい!」
 「叩き切るぞ!」
 仮面の者はふっ、と嘲笑する。
 「やれ妹よ」
 マントのなかから幼女が出現。その目は緑、俺がこの異世界に飛ばされる要因となった人物だ。
 キジミエルさんが詠唱を始める。
 仮面の者が仮面を外す。その瞬間、頭のてっぺんに一本角が生える。
 おじいさんとおばあさんにも角が。
 こいつらが噂の人工鬼。
 俺は緑の目の少女の瞳に吸い込まれそうになる。犬川も同様に。
 猿吉が俺と犬川の腕を掴んでこちらに引き戻そうとしてくれる。
 キジミエルさんの詠唱が終わる。それと同時に城が爆破し、緑目の幼女以外の三人がうめき出すのが耳に入るが、俺たちは最後まで見届られなかった。
 俺と犬川は吸い込まれていった。

 潮の香りと波打ちの音で俺は目覚める。
 隣には犬川が倒れている、俺は必死に犬川の体を揺らした。
 「ここどこよ」
 犬川も目覚める。
 俺の顔を見て、辺りを窺う。
 「私たち戻ってきたのね。もとの世界に」
 「あれからキジミエルさんたちはどうなったのだろう?」
 「無事なことを祈ろう」
 俺たちは立ち上がり海を眺める。
 「穏やかな海だよね。あっちの世界もこの海みたいに穏やかな世界になればいいのにね」
 「ほんとにその通りだよ」
 世界がそうなれば争いなんて無くなるのに。

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