桃太郎になっちゃた?

青キング

求人屋

 この世界、いつの時代かも分からぬ世界観が俺の脳裏の片隅にある。
 俺がこの世界、に来た直後、世界観に合わない爆発音が聞こえた。だからいつの時代か分からないのだ。
 「おい! 志乃」
 俺に話しかけてきたのは仲間内の一人、猿吉 萌だ。小柄でロリコンウケしそうだが、なぜか左腰に一本の刀を差している。
 「もっとそっちに寄れ!」
 見た目もたいはんの人が美少女と言うであろうが体のわりに強気なので可愛さが物足りない。
 猿吉はあっち行けと手振りで表現する。
 「この街ずいぶんと人が多いわね」
 今、俺達は街中を歩いている。犬川の言う通り街は人でにぎわっている。
 住居と言えばレンガ造りの洋風ばかりで前にいた集落とは雲泥の差だ。
 「そろそろお金が欲しいわね」
 犬川は人差し指と親指を付けて円を作る。やらしいからやめろ。
 「この街でいろいろ物を集めようか」
 「最初はやっぱり」
 犬川はまた人差し指と親指を付けて円を作る。
 「やらしいぞ」
 犬川の言う通りなんだけどな。
 俺は通りかかった背の高い若者に話しかける。
 「この街でお金を稼ぎたいんですけど、どこか良いところありませんか」
 「そういうことはあそこの求人屋に行け」
 若い男性はそう言って歩き去った。
 俺は男性が指差した求人屋に向かって歩き出す。
 そして、求人屋の目の前に着いた。
 俺はドアを開けた。
 「いらっしゃい」
 そこはフローリングの部屋でとても狭く俺たちが入ったらいっぱいいっぱいだ。
 真ん中にテーブルが置いてあり椅子が向かい合って二つ置いてあった。
 「座ってください」
 出迎えたのは一人のとても年老いたおばあさんただひとり。他には誰もいないようだ。
 「ねえ、このフローリングとても良質な材料で作ってあるわよ」
 どうでもいい。お前はフローリング博士か。
「ほんとですね犬川さん触っただけでわかります」
 お前もかよ、猿吉。
 「失礼だろ俺達は仕事を探しにきたんただろう」
 おばあさんの視線が二人の方に向いている。しかも目をものすごく細めて。
 「そのフローリングは隣の店で買えるよ」
 いや知らないよ。というかフローリングだけ買っても意味ないよ。
 「どんな仕事をお探しで?」
 おばあさんの表情がきりりと真剣そのものになったので俺も背筋を伸ばす。
 「できるだけ日雇いがいいかなって」
 おばあさんはテーブルの横に積んである大量の資料を手に取った。
 「こんなのどうだい」
 おばあさんが俺に資料を差し出す。
 ええと。オグサンを討伐?
 「オグサンって何ですか?」
 「オグサンって言うのは近くの山にいる小動物でこの季節な夏眠をするために食料に飢えるんだよ。それでこの街の食料や人が襲われるから退治してくれる人を探してるのだ」
 「これやります」
 「どんな仕事?」
 犬川と猿吉が歩み寄ってきた。
 「オグサン退治だってよ」
 「奥さん退治?」
 いやダメだろそっちは退治しちゃ。
 「おぶさん退治ですか」
 猿吉お前もかよ。というかおぶさんって誰だよ。
 「そんなことより早く終わらせようぜ」
 そしてこのあと誰も知らなかった、思いもよらなかった悲劇に遭うことになるとは。

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