自己破壊衝動(タナトス)

みいくらげ

第6章

 君が作ったのは、銃じゃない。


 僕は最初にそれを伝えた。


 それは言うなら、銃よりたちの悪い代物。


 君の作った「ソレ」は、人間の自己破壊衝動……すなわち僕らが「タナトス」とよぶ細胞を活性化させる電波を流すんだ。僕は「ソレ」を禁器だと知っている。


 つまり、君は禁忌を犯したことになる。


 君自身は何も知らなかったみたいだけど、きっとお姉さんは知ってたね。どこでそれを知ったか今となってはわからないけど、それは人間が足を踏み入れていいことじゃない。


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 僕は、すべてを君に語った。



 君が犯した罪のことも、僕が作った世界のことも全部…そして、1つの提案をした。
 


  「一気に話しちゃったね。こんなんで、わかってもらえたかな…?」



 君が小さく頷いた。



 「僕の提案を受けるかは、君の自由だよ。でももし、君が『この世界を壊す』ことを望むなら、今日の夜12時に、あの場所で待ってる。」



 僕はそのままその場を去った。



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 夜、11時…僕は、あの場所で君を待った。


 
  僕は、すべてを君に伝えた。


 だから、君ならきっと来る。


 その確信がどこかにあった。


 11時50分...僕はやけに落ち着いていた。


  (僕の作った世界を壊そうっていうのに、なんだろう…この穏やかな気持ちは。)


 10分、20分……僕はじっと君を待つ。


 そして、30分後…君が来た。
 


 時計は12時20分を指していた。



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 「簡単な話だ。君が作った『ソレ』を全世界に流す。つまり、自己破壊衝動を活性化させる電波を、全人類に流すんだ。この意味は、わかるよね?」


 僕は丁寧に言葉をつないだ。


 「残念ながら、この世界も失敗だ。いくら知能を与えても、いくら規制を与えても、いくら自由を与えても、人間は結局愚かだった。」


 君は、俯いたまま動かない。


 「僕は神様だ。だから、君だけはその電波を受けないようにすることももちろん可能だ。でもそれを、君は望まないだろ?」
 


 君の顔が緩んだ。


 「うん、望まない。」


 そう言って笑った君は今までにないほど綺麗で、覚悟を決めた目をしていた。



 「じゃあ、いくよ。」


 僕は「ソレ」の引き金を引いた。





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 目の前が真っ暗になった。


 どこかで声が聞こえる。


 突然目の前に、「僕」が現れた。


 「僕」が語り出した。


 (どうして、終わらせちゃったの?どうして、また逃げたの?どうして…?)


 僕は、答えた。


 「君なら、わかるだろ?もう、疲れたんだ。願ったのは「君」だろう?『消えてしまいたい。』と。僕はそれを叶えただけだよ。僕が作った世界と一緒に僕も消えて、何が悪い?」



 君が悲しそうな顔を見せた。その哀れむような表情僕は感情を抑えられなくなった。



 「じゃあ、どうすればよかったんだよ!人間なんて、愚かで、弱いヤツらを…僕はどうすれば救ってやれた?…何をしても無駄だった。だったら最後くらい、僕に助けを求めた少女を、救ってやるくらい、許されたっていいじゃないか。」


 …………。


 「僕」が言った。


 (うそつき。)


  え………?


 僕は、言葉を失った。



 (君が望んでたのは、本当に人間の幸せかい?違うだろう。君は、いつの間にか「人間」である自分の幸せを望んでいたんじゃないのかな。だって、そうでしょ?君が最後に望んだのは、「あの子」の幸せ。……君は、「あの子」のために、人類を犠牲にしたんだ。しかも、タナトスなんてものに手を出して。)




 図星…だったんだと思う。


 僕はそれ以上の言葉を拒んだ。


 目を覚ました時僕の目の前にあったのは、デカイ画面だった。






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 「はーい!お疲れ様でしたー!!!」



 その声が無理やり僕の目を覚ました。



 「いやあ、大奮闘でしたね〜。それでは、『ちきゅう』の実験を終えたアイクさんにインタビューと行きましょーう!!!」


 僕は記憶が戻っていた。



 そうだ、これは僕らのゲーム。


  ………。


 ……………………。


 そうして、報告会がはじまった。



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  「まず、アイクさんに質問です!途中、いきなりルールを変えたり、1人の「人間」に熱心になったり、こちらの世界ではハラハラドキドキだったのですが、実際その体験はどういったものだったのでしょうか!」


 
 僕は、答えた。



 「わからない。」と。



 観衆がざわついた。


 「わからない、とは?」



 そうだ、僕たちの世界には「わからない」という概念は存在していない。



 「僕は、初めて『答えが出ない』ことを経験をしました。人間とは、実に面白いものだった。服従を望むように脳を作ったのになぜか自由を望みだすし、かと言って自由を与えたら人間は誰かといることを選びました。でも僕は不思議とそれを疑問に思わなかった。それどころか僕まで、そんな感情に陥っていました。僕は自分の行動に理由をつけられない。だから、わからない…そう言ったんです。」



 司会者は唖然としていた。



 「なるほど。アイクさんは今回のゲームで、多くのことを学んだ。そういうことですね!」



 司会者はよくわからないまとめ方をした。



 「では、アイクさん!アイクさんはみごと2000年以上世界を維持することを成し遂げました。ということで、もう一度挑戦する権利が与えられますが、どうされますか?」


 司会者は大袈裟に叫んだ。


「さあ、アイクさんはこの経験を活かして、さらなる高まへと突き進むか!!」



 僕は言った。




 「遠慮しとくよ。」



 盛り上がっていた会場が固まった。



 「もう、たくさんだ。」

 

 僕は部屋をあとにした。画面に背を向けた僕の顔には笑顔が浮かんでいた。
 



 


ーーーーーーーーーーーーーーーー








 僕は今でも夢を見る。




 そこは、とても綺麗な世界。




 みんな幸せそうに笑ってる。




 そこには、君が立っていて




 僕に静かに腕をふる。




 なんて、優しい世界だろう。



 
 僕には作れなかった美しい場所。



 もしそんな世界を誰かが完成させたら



 僕は神様をやめてそこに住みたい。




 誰も傷つかない物語があるなら




 僕は君に届けるよ。




 でも、僕は思うんだ。



 もし君ともう一度会えるなら



 そんな真っ白な世界より



 あの夜みたいな世界がいいなって。




 暗闇の中で探す星ほど



 美しいものを僕は知らないから…


 

                                      自己破壊衝動タナトス   完

コメント

  • ノベルバユーザー603722

    この先まだ何かしらの山やら谷やらがあるのかもしれないけど
    どんなことが起こっても絶対乗り越えてくれると思う。

    0
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