自己破壊衝動(タナトス)
第1章
 
  あれから、100年が過ぎた。
 僕は「本城 仁 (ほんじょう じん)」と名乗り、人間界での生活を送っていた。
 
 今日は一人の女の子と会う約束をしている。時計は12時20分をさしていた。
 
  「ごめん、待たせちゃったかな...?」
 
 ゆっくり後ろを振り向くと君が息を切らしてこっちを見ていた。その汗の量からかなりの距離を走ってきた事がわかった。
  「もっとゆっくりでも大丈夫だったのに。」
 
 僕がそういうと君はいつものように軽く微笑んだ。君のその申し訳なさそうな笑顔が僕はなぜか好きだった。
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 結論から言うと、この世界は廃れた。国家は意味を失い、法は灰になった。
 
 それでも不思議な事に農業従事者は農業を、医者は人を救うことをやめなかった。世の中はなんとも上手くいくようにできている。僕はそのことにひどく関心した。
 
 でも間違いなく、世界は変わった。そこは無法地帯の場と化していた。
 
 僕らが夜中に待ち合わせる理由は、この辺一帯のルールにある。
 《銃撃戦は9時〜20時、それ以外の時間は買い物や治療に当てられるため、一切の犯罪を禁止する。》
 
 もちろん、守るか守らないかは個人の自由だ。だがこのあたりで生活していくにはこの条件は都合がいい。もとサバゲー勢が本気で命を取り合うゲームを行っている以上、その他の、食べる寝るなどの時間は保証されるべきなのだろう。
 
 僕は100年間のあいだに4つの地域を渡り歩いた。最初のコミュニティはオタクの集まりだった。そこでは毎日のようにゲームが行われ、そこに賭けるものはお金だったり女だったりときには命だったりした。いい年したおじさん方が命より大事だと豪語するフィギュアをかけた闘い(ゲーム)があんなに盛り上がる理由がぼくにはよくわからなかったが、負けたおじさんがその少女を抱きかかえて自分に火をつけたのは非常に衝撃的だった。ともかく、そこは僕にはあわなかった。
 
 
 二つ目、三つ目ともなかなか素晴らしいところだったが、1つはゲイのまちでいつの間にか人がいなくなっていた。最後のひとりの言葉を僕は今でも覚えている。
  「子孫を残せなくてもあいつがいればおれは幸せだと、そう思って生きてきたが………今になって、男が男を愛せない世界を作った神様を俺は心底恨んでいるよ。」
 
 僕は思った。
 
 (失礼な。)
 
 その男はその日に死んだ。
 
 もう1つのところはまたひどくて、何故か哲学者たちがある日突然集団自殺をはかった。あの人たちの話を聞くのはなかなかの楽しみだったのに。
 
 
 「自由が人間に与えたのは孤独だ。」と、ある時あいつが言い出した。
 
 「自由な世界なんて僕には耐えられない。」とも…そして僕に向かって言ったんだ。
 
 「もし神がいるなら、聞いてみたい。なぜこんな自由で愚かな世界を作ったのか、と。」
 
 とても、反論したかった。
 
 (お前らのためだろーが。)
 
 僕は少し悲しくなった。だから、皮肉混じりに言ってやった。
 
 「何でもかんでも神のせいにするなよ。」
 君は少し間を開けて呟いた。
 
 「その通りだな。」
 
 その言葉はどこまでも悲しい響きをしていた。
 
 あのとき、君は何を言いかけたのだろう。
 僕には聞けなかった。いや、その言葉の先を僕は聞きたくなかったのかもしれない。
 
 たとえあの時君がその言葉を伝えたとしても、僕は腹立たしさで君の言葉を無視していただろう。何だ、これじゃあ人間と同じじゃないか…
 
 みんなに自殺をほのめかしたのは君ではないとわかっている。それでもこのどう使用もないイラダチを僕は誰にぶつければいいんだよ。
 「逃げるなんて卑怯だ…」
 
 僕の言葉は静寂の中にのみこまれた。
  僕はこみ上げてくる虚しさをかき消すように、去り際にこの街に火をつけた。
 
 
 独りで歩く道なんて慣れていたはずなのに、なぜかこの時を境に僕の目に映る景色がやけに寂しく見得るようになった。
 あの月は僕が作ったものなのに、どうしてだろう……綺麗すぎて泣けてくる。
 
 僕は川辺に寝転んだ。僕はどこに向かえばいいのだろう。
 
 
 次のコミュニティを求める反面、僕はもう疲れていた。もういっそこの世界もろとも朽ちてしまおうか………そう思った矢先に、僕は君を見つけた。
  あれから、100年が過ぎた。
 僕は「本城 仁 (ほんじょう じん)」と名乗り、人間界での生活を送っていた。
 
 今日は一人の女の子と会う約束をしている。時計は12時20分をさしていた。
 
  「ごめん、待たせちゃったかな...?」
 
 ゆっくり後ろを振り向くと君が息を切らしてこっちを見ていた。その汗の量からかなりの距離を走ってきた事がわかった。
  「もっとゆっくりでも大丈夫だったのに。」
 
 僕がそういうと君はいつものように軽く微笑んだ。君のその申し訳なさそうな笑顔が僕はなぜか好きだった。
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 結論から言うと、この世界は廃れた。国家は意味を失い、法は灰になった。
 
 それでも不思議な事に農業従事者は農業を、医者は人を救うことをやめなかった。世の中はなんとも上手くいくようにできている。僕はそのことにひどく関心した。
 
 でも間違いなく、世界は変わった。そこは無法地帯の場と化していた。
 
 僕らが夜中に待ち合わせる理由は、この辺一帯のルールにある。
 《銃撃戦は9時〜20時、それ以外の時間は買い物や治療に当てられるため、一切の犯罪を禁止する。》
 
 もちろん、守るか守らないかは個人の自由だ。だがこのあたりで生活していくにはこの条件は都合がいい。もとサバゲー勢が本気で命を取り合うゲームを行っている以上、その他の、食べる寝るなどの時間は保証されるべきなのだろう。
 
 僕は100年間のあいだに4つの地域を渡り歩いた。最初のコミュニティはオタクの集まりだった。そこでは毎日のようにゲームが行われ、そこに賭けるものはお金だったり女だったりときには命だったりした。いい年したおじさん方が命より大事だと豪語するフィギュアをかけた闘い(ゲーム)があんなに盛り上がる理由がぼくにはよくわからなかったが、負けたおじさんがその少女を抱きかかえて自分に火をつけたのは非常に衝撃的だった。ともかく、そこは僕にはあわなかった。
 
 
 二つ目、三つ目ともなかなか素晴らしいところだったが、1つはゲイのまちでいつの間にか人がいなくなっていた。最後のひとりの言葉を僕は今でも覚えている。
  「子孫を残せなくてもあいつがいればおれは幸せだと、そう思って生きてきたが………今になって、男が男を愛せない世界を作った神様を俺は心底恨んでいるよ。」
 
 僕は思った。
 
 (失礼な。)
 
 その男はその日に死んだ。
 
 もう1つのところはまたひどくて、何故か哲学者たちがある日突然集団自殺をはかった。あの人たちの話を聞くのはなかなかの楽しみだったのに。
 
 
 「自由が人間に与えたのは孤独だ。」と、ある時あいつが言い出した。
 
 「自由な世界なんて僕には耐えられない。」とも…そして僕に向かって言ったんだ。
 
 「もし神がいるなら、聞いてみたい。なぜこんな自由で愚かな世界を作ったのか、と。」
 
 とても、反論したかった。
 
 (お前らのためだろーが。)
 
 僕は少し悲しくなった。だから、皮肉混じりに言ってやった。
 
 「何でもかんでも神のせいにするなよ。」
 君は少し間を開けて呟いた。
 
 「その通りだな。」
 
 その言葉はどこまでも悲しい響きをしていた。
 
 あのとき、君は何を言いかけたのだろう。
 僕には聞けなかった。いや、その言葉の先を僕は聞きたくなかったのかもしれない。
 
 たとえあの時君がその言葉を伝えたとしても、僕は腹立たしさで君の言葉を無視していただろう。何だ、これじゃあ人間と同じじゃないか…
 
 みんなに自殺をほのめかしたのは君ではないとわかっている。それでもこのどう使用もないイラダチを僕は誰にぶつければいいんだよ。
 「逃げるなんて卑怯だ…」
 
 僕の言葉は静寂の中にのみこまれた。
  僕はこみ上げてくる虚しさをかき消すように、去り際にこの街に火をつけた。
 
 
 独りで歩く道なんて慣れていたはずなのに、なぜかこの時を境に僕の目に映る景色がやけに寂しく見得るようになった。
 あの月は僕が作ったものなのに、どうしてだろう……綺麗すぎて泣けてくる。
 
 僕は川辺に寝転んだ。僕はどこに向かえばいいのだろう。
 
 
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