異世界リベンジャー

チョーカー

VSシェル戦 決着

 
 『対魔人型起動兵器試作品シェル Ver1.09』

 シェルの声がスピーカーを通じて聞こえてくる。

 『先の戦闘を元に、弱点を補強。事前に数人分の魔力を注入。もはや、魔人が単独で破壊する事は不可能な存在へ昇華させたぞ!』

 確かに、パワードスーツには大量な魔力が内蔵されている。
 妙にシェルのテンションがハイになっているのは、周囲に漏れている魔力の影響か?
 しかし――――確かに――――
 前回とは別物だ。 
 パワードスーツから溢れ出ている魔力は禍々しく思える。

 『いくぞ!いくぞ!ユズル!貴様ら魔人は、人間様の下を這って生きればいいのだよ!』

 「……」

 俺は、懐に手を入れる。確認して、胸をなでおろした。
 事前に用意していた対パワードスーツ用の切り札は壊れていなかった。
 もちろん、今までの戦闘で壊れる事も想定していて、いろいろな場所に隠しおいていたのだが……
 それが徒労に終わったのは良い事か?悪い事か?

 「……さて」と俺は懐から切り札を取り出した。
 シェルは既に俺に迫ってくる。
 そのスピードは前回よりも速い。さらに、3本の腕が伸びてきた!
 その動きは、まるで軟体動物。タコやイカの足のようにグニャグニャをして軌道が読めない。
 しかし――――

 「オルドよりは速くない」

 パワードスーツの攻撃を全て避け、ジャンプしてパワードスーツとすれ違う。
 すれ違いざま、懐から切り札を取り出し、パワードスーツのコクピットへ投げつけた。
 それは陶器に近い。しかし、陶器とは違い、衝撃に強く弾力性があるようだ。
 それでも、本気で投げれば砕け散る。

 中身のドロッとした半液体がパワードスーツのコクピットを白く染めた。

 『……何のつもりですか?言いましたよね?弱点は補強した……と!』

 最初に見た時から気づいていた。
 車のワイパーのような装置がコクピット付近に追加されている。
 前回の戦い。視界を遮られた事で撤退を余儀なくされた経験上、視界の維持に力を入れたのだろう。
 コクピットの上部から少量の水が流れ、勢いよくワイパーが左右に動く。
 そして、コクピットを白色に染めていた汚れは……
 落ちることなく、むしろコクピット全体を白く汚していた。

 『なっ!何だこれは!何をした?』 

 予期しない出来事に遭遇したためだろう。
 シェルの声には余裕というものがなくなっていた。もはや、シェルには敵としての脅威がなくなった。
 折角だから俺はシェルの疑問に答えてやる。

 「ソイツはマヨネーズだよ」
 『マヨ……?なんだって?』
 「マヨネーズ。俺たちの世界のドレッシングだが……そいつには油がたっぷりと含まれている。水じゃ落ちないし、ワイパーなんて使ったら、ご覧の通りだ」

 ここまで、精度の高そうな機械なら、熱源探知も想定して用意してきたんだが……
 シェルの様子では、それもないみたいだ。

 やれやれっと
 「俺は、お前を倒すために修行をしていたんだ。お料理修行ってやつだな。
 ただ、てめぇを倒すためだけに好きでもない料理を我慢してやってたんだぜ。月並みな言葉だけれども……お前をこれから料理してやるぜ!」

 
 俺は軽く跳躍。パワードスーツの頭上へ着地した。

 それにシェルも気づいたのか……
 『まて!まて!貴様。どこにいる。何をするつもりだ』
 と、パニック状態は静まる様子もない。

 俺は懐から切り札その2を取り出した。
 マヨネーズとは違う液体が入った陶器だ。
 その液体をパワードスーツの上に振りかける。もちろん大量にだ。

 『だから、ユズル!何をしている』

 パワードスーツが暴れだした。俺を振り落すつもりらしい。
 俺は足元から魔力を流し、パワードスーツと足をくっ付ける。
 それでも、気分はロデオだ。上下左右と縦横無尽にランダムな動きを続ける。
 それでも振り落されてやる義理はない。
 大量に上から液体を撒き終えるまで、それは続いた。
 そして、その作業が終わると――――

 「そのパワードスーツは、魔法は効かなくても魔法により物理現象までは無効化できなんだよな」
 『なにをッッッ!?』

 そう言って、パワードスーツの頭上から飛び降りた。
 それと同時に小さな火種を魔力で作り、パワードスーツに振りかけた可燃性の液体に向かって投げた。

 「あの時は、惜しい所までいってたんだよな。なんで思いつかなかったんだろ?」

 その直後、火種は液体に接触。パワードスーツは火柱に覆われ、姿が見えなくなる。
 「……つまり、そのパワードスーツは熱まで遮断できない。出てこいよシェル。そのままじゃ蒸し焼きコースだぞ?」

 やがて、火の中から飛び出してくる人影が見えてきた。
 間違う事もなく、シェル本人だった。
 必死の形相。そりゃ、そうだ。火は酸素も消費する。
 当然、呼吸もできなかったんだろう。

 「はい、ご苦労さん」

 俺は、そんなシェルに労いの言葉と共に剣を振るった。

 

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