異世界リベンジャー

チョーカー

襲撃者の狂気

 治癒魔法を通じてモナルの容態が伝わってくる。
 どういう種類の攻撃かは不明。おそらくは魔法以外の攻撃方。
 意識な失われているのは、衝撃によるショック状態によるもの。
 患部は左胸の中心辺り、つまりは肺の位置。
 医療知識の持たない俺だが、ことの重要性は理解できる。
 呼吸器官である肺に穴が開き、その内部へ血液が入り込んでいる。
 このままでは気管がふさがれて溺死してしまう。
 これを治癒させるには、損傷個所をゆっくりと再生。それと同時に、内部に入り込んだ血液の排除。さらに、新鮮な空気の補充。
 一つ一つなら簡単。
 しかし、全てを同時に、迅速かつ正確に……となると難易度は跳ね上がる。
 さらに、俺の目前には襲撃者が姿を見せている状態だ。

 「シェル。お前が黒幕か?」

 俺は激情を演じてみせる。
 シェルに対して、怒りと殺意の入り混じった感情をぶつける。
 ハッタリだ。今、シェルとの戦闘に突入するとモナルの治療がままならない。
 内心は冷静にモナルの治療に集中する。

 「黒幕?私がですか?」とシェル。
 こんな時でも飄々とした態度を崩さない。

 「違うとでも言うのか?この状況で?」
 「ええ、違いますよ。これは総意なのです」
 「……総意?」
 「ふふふ、モナル王女はお優しい方です。魔人ですら、人間のように扱うべきと仰る。
 我々は、新なる魔人への懐柔策だと思い従いましたが……まさか、本心だったとは。
 これは全人類に対する。裏切りと同じ事なのです!」

 演技のつもりだったが、本気でイラついてきた。
 心の中で、唾を吐き捨てる。

 「それで……そんな事でモナルを殺そうとしたのか?それが許されるとでも?」
 「いえいえ、無論、許されませんよ。つまり……

 『モナル王女を殺害した魔人 伊藤禅は、この場で処刑された』

 明日になれば、世界中に知れ渡る事になるでしょう」

 シェルの様子が一変する。
 血走った眼。奇妙に吊り上がる口の端。
 精神状態に明らかな異常が見て取れる。
 しかし――――俺は――――

 「そうかい。話は、それだけなら行かせてもらう」

 治癒魔法はそのままに、モナルを抱きかかえる。
 そして、シェルに背を向けると一目散に駆け出した。
 城の空中庭園。その端まで一気に走り抜けると……飛び降りた。

 「まさか……だな。まさか、あの時は実行できなかった脱出プランを今更、やるとは思ってもみなかったぜ」

 この世界に来たばかりの頃、地下牢に閉じ困られていた俺が、最初に考えていた脱出プラン。
 それは、建物の最上階から加速し、強烈な風魔法を背中に浴びて、長距離飛行を行う予定だった。
 あの時は、モナルに出会い。行われる事はなかったが……

 今、俺は――――俺とモナルは、町の光を下にして空を飛んでいる。

  

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