異世界リベンジャー

チョーカー

祝勝会からの死闘

 それから、俺とクルスはいろいろな話をした。
 内容は、とりとめのない話だった。
 そんな中、不意に俺は気がついた。

 「その剣か?」
 「……ん?あぁ、そう言えばユズルは授与式に出ていなかったな」 

 俺はクルスが帯刀している剣に指を指した。
 柄が白い。鞘が白い。おそらく、刀身も白色なのだろう。
 『魔王』軍との戦争で、最も功績を上げたクルスに対しての恩賞として送られた剣…… 
 ただの剣ではない。ナシオンに何百年と伝わる聖剣だという。

 「そうだ。これが聖剣 魔人殺しだ」

 クルスの言葉に頬が緩む。

 「ん?なんだ?」
 「いや……聖剣なのに『魔人殺し』なんて、随分と物騒な名前だと思ってな」
 「なるほど、なるほど。言われてみれば確かにそうだ」

 クルスが笑みを浮かべた。優しい笑みだった。
 うっかりと考えた事を漏らしてしまった俺だが、クルスの対応に違和感を感じた。
 折角の恩賞を、国から送られた名誉の中の名誉を、うっかりとは言え、茶化した俺に怒らないのか? 

 「なんなら、手に取って見てみるか?」

 そうクルスは言うと、立ち上がり腰から剣を取り外す。
 片手で鞘の部分を持ち、刀身を横にして、俺に進めてくる。

 「いいのか?」と俺は椅子から腰を上げかけ、動きを止めた。
 クルスから感じた違和感。それは、極僅かな変化。
 表情や視線。それを察知してしまうと、もう誤魔化しは効かなかった。
 それは殺気だった。

 俺が殺気を察知した事にクルスは気づいたのか?
 僅かな違和感でしかなかった殺気が爆発的に巨大化した。
 反射。
 俺は椅子から少し腰を上げた状態のまま、椅子ごと横へと倒れる。
 しかし、速いのはクルスの方だ。
 鞘を持つ手をそのままに、柄に手をかける。
 体は既に半身。腰に捻りが加えられている。
 そのまま、鞘を横に投げ飛ばし―――― 抜き身の刀身を――――
 手首のスナップを効かせ―――― 
 一太刀を浴びかせてくる。 

 (速い。避けきれない)

 咄嗟に判断した俺は、頭部を守るように片手をあげ、魔力を放出させる。
 魔力を物質へ具現化。魔力で盾を作る。しかし――――

 (遅い!?)

 通常より、遥かに魔力の放出が遅い。盾が具現化する現象が完成する前にクルスの太刀が、俺の魔力を切り裂いた。
 いや、切り裂いたのは魔力だけではない。
 俺の右腕を切断。 そのまま、俺の側頭部へ刀身が到達していた。

 俺の頭部で反響するのは、頭蓋骨が砕けた破壊音。
 一瞬のブラックアウト。 
 覚醒。
 混濁する意識。
 空中へ切り飛ばされた俺の右腕は、周囲に鮮血のシャワーを振りまいて、まだ落ちてこない。

 俺は生きていた。 クルスが手心を加えてくれた……わけではないようだ。
 明暗を分けたのは両者の位置。
 俺とクルスの間にあった円卓の机と椅子。
 それを蹴散らすか、飛び越えるか?その選択肢がクルスに刹那の躊躇を生み、俺の生存率を上げたのだ。
 しかし、流石はクルスか……やはり躊躇は一瞬のみ。
 左手を机に力強く叩き付け、体重を預ける。
 そして跳躍。
 その動きを上から俯瞰してみれば、まるでコンパス。
 円卓の形状に沿って、クルスの足は正確な円を描いているだろう。
 そして、それは最速最短で、俺に向かっている。最速最短で俺の命を奪おうとしている。
 クルスは逆手に持ち替えた聖剣を俺に突き立ててくる。
 それは、まるで怪物に杭を打ち付けるが如く……
 しかし、クルスの一撃は空を切る。
 そこに俺は既にいない。
 机を踏み台に高く飛び上がっている。
 まだ、宙を彷徨う右腕を掴み取り、元の位置へ――――腕があった場所へ押し付ける。

 (やはり、回復が遅い)

 魔力の調整がうまくいかない。
 あの聖剣のせいか?それともクルスが持ってきた飲食物に毒が含まれていたか? 
 おそらくは、その両方。
 俺は軽く舌打ちをする。最初から、俺を殺すために来たのか。

 空中へ逃げた俺は、そのまま体を反転。天井へ両足をつける。
 重力が働くまでのタイムラグ。無酸素運動を止め、呼吸を――――取れなかった。
 地面でクルスが見せる構え。それは対空の構え。
 両ひざを大きく曲げ、腰を落としている。十分に捻られた腰。
 剣先と視線は、天井に張り付く俺を狙っていた。

 「……ヤバい」

 あまりの危険度から、心情が言葉に漏れる。
 次の瞬間、クルスは動く。


 

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