異世界リベンジャー

チョーカー

目が覚めると牢獄からのスタート

 俺はどこにでもいる平凡な高校生。
 そう―――


 『つまり、俺は正義の味方だ!!!』


 ……何を言っているの分からないかもしれない。
 しかし、中国の儒学者である孟子は『性善説』でこう言っている。

 『子どもが井戸に落ちかけているとしよう。すると、人間は子供を助けようと走り出す。その行為に野心や名誉は存在しない。

 だから、全ての人間の本質は善である』


 だから―——つまり、俺は正義の味方なのだ!!!

 なるほど、なるほど。だったら、納得できる。
 落ち着いて考えてみると、今の状況も納得できる。

 場所は道路のど真ん中!? 目前に迫るは車!!

 よく見れば、運転手の手には携帯電話。
 視線はこちらに向いていない。絶賛!よそ見運転中だ。
 きっと、自分が運転する車の前に人間がいるなんて気がついてないのだろう。
 そして、僕の腕の中には小学生くらいの子ども。
 嗚呼……どうやら、俺の中に正義感なんてものが残っていたらしい。
 道路に転がったボールを追っかけて、車の目前に飛び出した子供を見てしまい、反射的に飛びついて抱きかかえるくらいのちっぽけな正義感。
 まさか、自分が他人を救うための自己犠牲を行うなんて予想外だった。
 いや、それは孟子の教えと矛盾してるのか。
 無意識に行う事だから善なんだよな。

 そんな事を考えるくらいの余裕はあった。
 なぜなら、俺は死の直前に見るという走馬灯の鑑賞中。時間は停止している。

 さらば、俺の人生。 さようなら~俺の人生~

 僅か16年分の記憶が走馬灯という映像となって襲い掛かってきたが―——(おかげで脳がパンクしそうだ)
 それもどうやら終わりが近い。
 懐かしい少年時代の映像も終わり、脳が映し出す記憶は、ほんの数日前の出来事になっている。

 そして―——
 死の直前に高まった集中力によって止まっていた時。
 そして時は動き出す。
 俺は腕の中の子どもは守るように体を丸めて衝撃に備える。
 しかし、そんな防御方法は鉄の塊には意味がない。
 なぜなら車の重さ、車両重量は大抵1トン以上だ。
 例えるなら、相撲取り6人の体当たりと同じ重量。しかし、スピードは、その2倍以上。
 その衝撃は、日常生活で体験する事は、皆無と言っていいかもしれない。

 「う、うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 肺から空気が押し出されると同時に、俺の叫び声が響く。
 全身がバラバラになりそうな衝撃と痛み。
 遅れて鳴り響くは、ブレーキ音。
 空中に舞う俺は……死を覚悟するしかなかった。
 そして、俺の視点は暗転する。
 暗闇が包む。やがて、俺の意識も……うすれ……て…いった……



 次に目を覚ますと

 「何じゃこりゃ!?!?」

 俺は予想外の光景を前に叫ぶしかなかった。
 目の前には鉄格子。ここは……牢屋か?
 いやいや、俺は子供を助けたんだぞ? 刑務所という豚箱に閉じ込められるいわれはない。

 「せめて、病院だろ? 病院で目を覚ますと『お兄ちゃんありがとう!』って助けた子供にお礼を言われる、ほのぼの暖か展開じゃねぇのかよ!?」

 思わず、声を荒げ、目前の鉄格子に掴みかかる。しかし―——
 「いてててぇ!?」
 思わず、鉄格子から手を放す。
 これは、電気を流している? 鉄格子から、そんな事を連想してしまった。
 まぁ、静電気だよな。俺は両手を確認しながら、安堵した。
 「……いや、待てよ」
 もう一度、両手を確認する。
 両手には鉄の鎖。じゃらじゃらと金属の擦れる音がした。
 手枷?いや、よく見ると足枷まで!?
 「なんの冗談だこりゃ?なんの冗談だ?」
 驚きのあまり、同じ言葉を2回繰り返す。
 これが刑務所だからって裁判もなしに牢獄&手錠なんてありえないだろ?
 少年法はどうした?それより、捕まるほどの悪い事した記憶はないぞ!?
 事故の衝撃が原因か、薄れていた現状把握能力が徐々に戻ってくる。
 間違いない。俺は意識を失ったあと、何者かに連れ去らわれ監禁されている。
 警察や病院みたいな公的機関が、こんな真似をするわけがない、
 誰が、何のために?わからない。
 目を凝らして、鉄格子の外がどうなっているのか観察する。
 どうやら、この牢屋に向けて光源が強いライトを向けられているらしい。
 それも八方向からだ。一体、何カンデラのライトを使ってやがる。
 おかげで鉄格子の外がどういう作りになっているのわからない。
 「畜生が、どうなっていやがる……痛っ!」
 立ち上がろうとした俺の頭部に何かがぶつかった。
 思わず、頭を押さえて上に視線を移す。すると―——
 「天井?」
 どうやら、俺が頭をぶつけた物の正体は天井だったようだ。
 あまりにも低い天井。立ち上がろうとしても中腰状態が精いっぱい。
 これなら、刑務所の方がまだマシだ。もちろん、俺は刑務所に入ったことはないけれども……
 いや、まてよ。 俺は自分が閉じ込められている鉄格子。
 檻の形をイメージする。四方八方が鉄格子に囲まれている。
 そして、上部は丸みを帯びていて、さらに上は……
 鎖で吊るされている!?
 余程、強く固定されているのだろう。この檻は天井に吊るされているにも関わらず、中の俺が動いても揺れらしい揺れは感じない。だから、気がつくのに遅れたのだ。
 しかし―——
 これは、これじゃまるで―——鳥かご?

 「ふざけやがって!?」

 俺は怒りのまま、両手を鉄格子に叩き付ける。
 「痛って!?」と、再び静電気がビリっと痛みが走った。
 力強く、鉄格子を殴ったせいか、髪が顔にかかる。
 普段なら気にもしないような事にもイラッとしてしまう。
 ん?普段なら?
 いやいや、再確認するが……俺はどこにでもいる平凡な高校生なわけだ……よな?
 平凡で凡庸で十人並み、平平凡凡たるなのが俺?だよな?
 もちろん髪も普通だ。前髪が目にかからない程度の長さ。
 そのはずだ。しかし、今の俺の髪は腰まで届くほどのロン毛になっていた。
 「ウイッグ?カツラ?いや、何のために???」
 本気でわけがわからない。
 他に、俺の体に異常は……あった。
 俺の上半身は裸だった。下は腰に白い布を巻かれている。それは、まるでオムツみたいだ。
 そして、体中に何か模様が書かれていた。
 左右均等の模様。刺青?いやタトゥー?
 いや、刺青やタトゥーなら、直接的に体を彫られる。つまり、激しい痛みを伴うのだ。
 俺が気を失ってる間にできる事ではないだろう。
 たぶん、油性ペンか、何かだろう?一体、何のために監禁者はこんな真似を?
 ひょっとしたら、監禁者は異常者なのかもしれない。
 考えてみると俺の状況は特殊な儀式を連想させる。
 閉じ込められた場所は鳥かご。半裸状態で体中にラクガキ。髪はウイッグでロン毛状態。

 「ヤバい……マジでヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。これはヤバい」

 体の震えが止まらない。
 頭に浮かぶのは最悪の映像。スプラッターシーンの無限ループだ。
 どうする?どうやって脱出する?
 頭に恐怖がくるくる回って、パニック状態に陥っていく。
 だが———
 ドンと衝撃音が響き、意識がそっちに持っていかれた。
 どうやら入口が勢いよく開けられた音のようだ。
 周囲に囲まれていたライトの一つが消え、乱入者の姿が浮かび上がっていく。
 もしかしたら、警察かも!?
 そんな淡い希望も、乱入者の姿がクッキリと見えるようになり、消え去った。
 入ってきたのは警察などと言った公僕には見えない。
 乱入者は女性だ。金色に染められた髪が目立っている。
 染められている。それは俺の印象だが、地毛ではないだろう。
 いや、金髪は染めるのではなく、黒い色素を抜くのか?
 ……この場合だと、どうでもいい知識だ。
 どう見ても彼女は日本人顔で金髪が似合っていない。よく見れば眉毛は金色ではなく黒色だ。
 しかしながら、落ち着いて観察してみると、案外、整った顔の少女だという事に気がつく。
 歳は俺と同じくらいか、もっと下か……
 「・・・・・・」
 彼女は無言だ。無言で鋭い目つきで俺を睨み上げる。
 もしかしたら、近所の異変に気がついたヤンキー少女が救出に来てくれたという可能性ががが。
 いや、それはない。彼女の視線からは敵意しか感じられない。
 間違いなく、俺を閉じ込めている犯人は彼女だ。
 もっとも、彼女がギリシャ神話に出てくる女性のような服装をしてる時点で疑いようはない。
 俺の腰に巻かれている布と素材が酷似している。
 彼女の視線を受け、俺も睨み返す。
 もちろん、この不可解すぎる出来事に恐怖はある。しかし、それ以上に俺の中にあるのは理不尽に対する怒りだった。
 どれくらいの時間、睨み合いが続いただろうか?
 不意に彼女の唇が動く。そして、彼女は俺に向けて言葉を発した。

 「囚われた気分はどうだ。魔人よ!?」

 「……ヤバい。本物のメンヘラさんだ」
 思わず、空気の読めない言葉が俺の口から飛び出した。

 メンヘラさん。

 メンタルヘルス(心に健康)的に問題がある人。略してメンヘラだ。
 いや、落ち着け俺。少なくとも異常殺人鬼が相手よりは安心……のはず。
 しかし、彼女は俺の言葉を侮辱と判断したのか(事実、侮辱で正しいのだが)
 更に怒りの表情を向ける。言葉で例えるなら修羅とか、憤怒とか、そういう表情だ。

 「貴様!?立場がわかっているのか?封印したお前如き、この場で切り捨てるのは簡単なんだぞ!」

 それでも芝居がかった口調を保ち、俺を怒鳴り上げる。
 そして、彼女の手には剣が有った。
 一体、いつの間に?
 そう思う間もなく、彼女は跳躍。
 一瞬で俺と彼女の間合いは剣一振りで事足りる距離になる。
 彼女の剣は俺に向けられ、そして―——突きが放たれた。
 その切っ先が俺に触れるか否かの距離で止められる。 
 いや、実際に触れていたのだろう。俺の額から赤い液体が垂れ落ちた。
 まるで反応ができなかった。彼女が剣を鞘へ納めて、自分が攻撃されたとわかる。そんな攻撃だった。 

 「貴様ら、魔人は存在そのものが万死に値する。大いなる慈悲ゆえに生かされていると肝に銘じておくんだな」

 それだけ言うと、彼女は踵を返し、扉から出ていった。

 「くそぉ、なんだよアイツ。なんなんだよコレはよぉ!?」

 俺は彼女が出ていった方向に怒鳴り声を上げる。
 今の俺ができる事はそれだけだった。


 そう、俺は気がついていなかったのだ。
 今、俺がいる場所は異世界という未知の世界であり、そこに迷い込んでしまったという事に……
 俺、伊藤いとうゆずるは、気がついていなかったのだ。


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