異世界リベンジャー

チョーカー

魔法理解度と脱出

 俺は兵士たちの会話を反芻させていた。

 『魔人』

 それが今の俺だ。
 人間ではない、別のナニカに生まれ変わっている……かもしれない。
 確かに、そうかもしれない。俺の体は以前とは違っている。
 俺は、腰まで伸びた髪に触れる。
 髪の毛を弄りながら「長いなぁ」と呟く。
 自分の体がどう変化してるのか、自分でも把握しきれていない。
 例えば、体中に浮かび上がっている模様。
 どうやら規則性はあるみたいだけど、鏡がないから全身を見る事はできない。
 一体、これは何なのだろうか?
 そうやって自分の体をじっくり観察すると、気がついた事がある。
 筋肉が発達している。確実に筋肉が増えている。
 それに脂肪も減っていて、筋肉のラインがくっきりと見えている。
 まるでアスリートの体だ。
 しかし、そんな事よりも大きな変化があった。
 檻から脱出した直後に俺は転倒した。何もない所で転んだのだ。
 あの時は、長時間、同じ状態で座っていたからだと思っていた。
 ところが、そうではなかった。
 どうやら、俺は身長が伸びていたみたいだ。それも急激に……
 少なくとも10センチ以上は伸びている。
 成長期……なんて言葉で誤魔化せないほどの激変だ。
 こうなってみると、本当に鏡がないのが……いや、待てよ。なければ作ればいいのか。
 俺はイメージする。イメージは、こうだ。
 水道の蛇口から流れ出る水。水……水……水……
 水に必要な物ってなんだ?水素か?
 いや、それすら必要ない。理論も理屈も物理法則すら、無視してイメージを具現化させる。
 それが大量の魔力を保持する俺の、俺だけの魔法理論。
 手に光が溢れる。その光が収縮していき、輝きが失われると……
 「よしっ!成功だ」
 俺の手には水があった。
 次にイメージするのは、水のコントロール。
 形は長方形。俺の身長と同じくらいの大きさ。水の量は……うん、もう少し追加して……と

 「できた!?」

 水の魔法を使って作り出した、簡易式の鏡だ。
 たぶん、本当なら、四方八方から強烈な光が放たれている檻の中では、水を鏡代わりに使う事は出来ないのだろうけど、それはあくまで水で鏡を作った場合だ。
 ここにあるのは、水で作った鏡ではない。
 魔法によってできた鏡だ。
 水はあくまで、俺のイメージであり、この鏡に水の性質は持ち合わせていない。
 それに、この激しい光の中で鏡として使えるのは、俺がそういう魔法として水の鏡を作り出したからだ。
 俺は、できたばかりの鏡をのぞき込む。
 鏡に映し出されたのは、見間違う事なく俺の顔だった。
 まずは安堵の息を吐く。
 一番、心配してた事。それは、顔が別人になっている可能性だったりする。
 髪の毛が伸びていたり、全身の奇妙な模様が入っていたり、身長が激増してたり、半裸状態だったりするけれども、俺は俺だった。

 「うん、間違いない。俺、伊藤禅だ」

 自己が確認できない状況がここまで怖いとは思わなかった。
 『存在するとは知覚されていることである』と言ったのは誰だったけ?

 「やれやれ、危うく自分を見失うところだったぜ」

 さて―——

 「脱出の方法を考えてみるか!」

 脱出のために何が必要なのか? 
 今の俺には不可能なんて存在しないんじゃないかと思うくらいの自信に満ち溢れている。
 この魔法の力があれば、この場所からの脱出なんて朝飯前じゃないか!?
 そう思う反面―——
 「……う~ん 何だかしっくりこないな」 
  そんなに超凄い俺を、こんな牢獄如きに閉じ込めて放置しているか?
 「いや、何か裏があるな」
 無敵感にものを言わせて脱出しようとするのは悪手だ。
 まずは、自分が何ができて、何ができないのか……それを確認するのが先決だ。
 「よし」と気合を入れる。
 こうして、自己流魔法修行が始まったのだ。

 ―――そして数日後―——

 光の粒子が手に集まっていく。
 光がイメージした物体へと具現化していく。
 色は黒。素材は鉄。火薬による攻撃。
 光が消えた。俺の手の中には、無骨な金属の塊がある。
 拳銃。
 俺は虚空に向け、拳銃の引き金を引いた。
 部屋に炸裂音が鳴り響く。
 そして―——

 「い、痛てぇ!? ―————やっぱり、失敗したか」

 拳銃は光に戻り、雲散霧消。消え失せた。
 さっきの痛みは、行き場を失った魔力のフィールドバックが起こり、俺の腕へ痛みを残したのだ。
 いつの間にか、魔力の流れを感じるようになっていた。
 これが魔力の理解度ってやつなのだろう。
 たぶん、俺は複雑で高度な魔法でも一度でも見ればコピーする事ができる。
 それが何となくわかる。感覚的なもので説明はできないけれども……
 それと同時に、俺が使えない魔法も有ると理解する。
 その1つは、特殊な条件下の元で使用できる魔法。
 つまり儀式的な事前準備が必要不可欠な魔法は再現できない。
 そして、もう1つ。
 俺が使えない魔法は、さっき失敗した拳銃の具現化魔法。
 俺が原理を理解していない物体。それを曖昧な知識で再現する事は不可能だ。
 拳銃の前に日本刀も具現化しようと試みたが、失敗に終わった。
 それは、俺が日本刀を使った事がない……どころか、触った事もない。
 知らないものをイメージだけで再現すると失敗してしまう。
 逆に知っている物。使い慣れている物は簡単に再現できた。
 俺が念じると同時に、手に包丁が現れる。
 日本刀は再現できなくても、包丁の再現は簡単にできるのだ。
 さらに、俺は包丁の刃の部分を指で摘まむ。
 そして、刃を伸ばした。
 そのまま、包丁を変化させて、剣を作ってみた。
 武器として使う事は出来るだろうが、あくまでベースは包丁だ。
 本物の剣で叩かれると簡単に砕けたり、折れたりするだろう。
 どうやら、自分で作った物を変形させるのは簡単にできるみたいだ。
 物を具現化させる魔法は、便利すぎていろいろと試してみた。
 どうやら、時間制限が存在していて、複雑な物体ほど持続時間が短くなっている。

 次は……
 五大元素系。

 「火」「水」「土」「金」「木」

 この五つで五大元素。ファンタジーでよく使われる魔法の基本。森羅万象を操る基本。
 これを具現化させ、放出する事で攻撃するのだ。
 もっとも、取り扱っているファンタジー作品によって違いはあったりするのだが……
 俺は、これを試してみて「なるほど」と唸らされた。
 誰もが知っていて、イメージし易い。
 イメージが簡単という事は、魔法としての効果が向上するという事だ。
 この密封空間で、最大威力を試した事はないが、本気で放出すれば……

 「さて、しかし……どうしたものかな?」

 どうやら、俺の魔法は『攻撃極振り火力重視系』って感じであった。
 建物をぶっ壊して、逃げる事は簡単だと思う。 

 「でも、人とか死んじゃうよな?手加減なんてできないし……なんとか、無事で安全に脱出できねぇもんかね?」

 例えば、金髪の馬鹿女。
 アイツは、嫌な奴だったけど、死んじゃったら……いや、俺が殺したって事になっちゃうか。
 それに、今も外で和気藹々(わきあいあい)とした兵士が死んじゃうのはなぁ……
 定期的に彼らの雑談を盗み聞いていた結果、彼らに情がわいてしまったみたいだ。
 いや、情がなくとも人殺しはダメだろ。……絶対!?

 ……となると、思いつく手段は―————

 俺は瞳を閉じて集中する。イメージの元は水。
 さらに水から無色透明のイメージを脳裏に浮かべ……
 自身の肉体を変化させる魔法。
 自分の体を想像だけで変えてしまうのは、気持ちが良いものではない。
 けど、やるしかない。
 俺から色が抜け落ちていく。
 無色透明。透明人間の出来上がり……と言いたいところだが、鏡を見ないと成功してるのか、失敗してるのか判別がつかない。
 幸い、水系の魔法として透明化しているためか、普段より簡単に鏡を作る事が出来た。

 「うん、まぁ、完璧?かな?」

 イマイチ、自信が持てない。なんせ、鏡に映っていないのだから……
 まぁいい。脱出してみるか。
 俺は、扉を僅かに開いて、外の様子を盗み見た。
 外に待機している見張りは3人。いつもの部隊長、ナンバー2、新米兵だ。
 彼らは、休憩も食事もここで行う。
 俺はそこに注目した。彼らの腰紐に飲み物がぶら下がっている。
 彼のの飲み物。その容器は水筒や瓶といった物より原始的だ。
 何かの生物の皮を編んで作った物で、形は腰巾着に近い。
 それに直接、飲み物を入れているみたいで、口を直接つけて飲んでいる。
 扉の隙間から盗み見て、都合が良い立ち位置にいるのは……
 新米兵だ。
 俺は彼の腰巾着に狙いを定める。
 集中、集中、集中

 「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

 新米兵の叫び声がこだまする。
 彼の腰巾着が破れ、中身の液体が地面に漏れ落ちた。
 腰巾着の中にある液体。その中に小さな……小石程度の大きさの氷を作った。
 それを操り、腰巾着を内部から貫いたのだ。
 他の2人は新米兵の叫び声に驚き、視線を新米兵へと向ける。
 その瞬間、俺が通れるギリギリの広さまで扉を開き、一気に外に出る。
 彼ら、部隊長とナンバー2は、ビショビショに濡れた新米兵と地面に注目している。
 「何やってるんだ馬鹿たれ!」
 「早く拭かないと風邪ひきますよ」
 それぞれが慌てて行動を起こす。
 彼らの見張るべき人間が、今まさに脱出しようとしてるとは、思いもつかないだろう。
 俺の体は透明状態。どのくらい透明なのか精度は不明。
 しかし、人間の目は曖昧なものだ。
 横目に映るスローな異物。僅かな違和感を感じるかもしれないが……
 違和感の正体までわからない。
 俺は、騒いでいる彼らの横を普通に歩いて、外へ続く扉に手をかけた。
 そのまま、ごく普通に外へ出る。

 「まずは、第一関門突破……と言うところか」
 

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