異世界リベンジャー
脱出 そして空中庭園での出会い
扉を開けると階段が続いていた。
薄暗く、ジメジメとした空間。どうやら、俺がいた牢獄は地下にあったみたいだ。
階段は人1人がやっと通れる狭さ。上から誰かが来たら、すれ違う広さは皆無。
俺ができる事は、誰か来ない事を願うだけ。
息を殺し、音を殺し―——スピードだけは生かしたまま、慎重に階段を上がっていく。
不安というプレッシャーが襲いかかってくる。駆け上がりたい衝動を抑えながら、一歩、また一歩と歩みを進める。
やがて、終わりが見えた。
薄暗さに隠れ、行き止まりかと見間違うほどに薄汚れた扉。
俺は、それに手を伸ばした。
外に人が可能性も脳裏から消え失せ、勢いよく扉を開く……
外だ!?
……違った。当たり前だが、牢獄に続く階段を上がったからといって、即、外に通じてるわけもない。
しかし、外へと近づいたという事実を否定できる者はいないだろう。
扉の向こう側は廊下だ。
かなり広い。階段の薄暗さが嘘のように明るい。
巨大な窓と窓の間に柱がある(たぶん、大理石の柱だ)。
その柱に、ランプのような形状の物が吊るされていて、それが光源になっているようだ。
今は夜のようだ。
短時間であれ、時間が不要な生活を強いられていたのだ。日夜の感覚がなくなっている自分に驚いた。
そして―——
「うわぁ」と俺は驚きの声が漏らした。
踏み出した足が、地面に敷き詰められた絨毯で、僅かに体が沈んだのだ。
ゲスながら金の臭いを感じざる得ない空間。
ここは一体、どこなのか?
しかし、そんな思考もすぐに妨げられる。
人の話声。それも、こちらに近づいてきている。
脱出がバレたのか?
そうも考えたが、向かってくる声に緊迫感はない。内容まで聞き取れないが、ただの世間話だろう。
だが、どうする?聞こえてくる声の距離は近い。
俺は来た道を振り返り、扉を確認する。
また、この扉を開き、階段でやり過ごす……
「そんな選択肢は俺には存在しない!?」
なぜなら、俺が行うべきは外。
来た道を戻るという選択はあってはならない。
俺は窓を開き外を確認する。
さっきまで俺がいた牢獄が地下だとすると、現在地は1階。
そのはずだが、予想外に窓と地面との距離は遠い。
もしかしたら、敵に攻められた事を想定して、1階部分を高く作っているのかもしれない。
そんな事を考えながらも暗闇に目を凝らす。
闇の中でもわかる広大な敷地。
ポツポツと揺れている光が見える。おそらく、光の正体は人間。
複数の人間が灯りを手に警邏に勤しんでいるのだろう。
そんな事を確認してる間に人の気配が濃厚に感じられた。
いる場所は廊下の曲がり角付近。接触まで僅か2、3秒。
俺は勢いをつけて、外へと身を躍らせる。
ただし―——
「ただし、行くのは下ではない。上だ」
壁には凹凸が存在せず、手をかける場所はない。
……俺はイメージした。
手にしてるのは透明なロープ。
それを片手で回すウエスタンのカウボーイ。
遠心力で勢いをつけたならば上に向けて投げる。
当然ながら、俺は手に何も持っていない。
それもそのはず。上に投げ飛ばしたのは、俺の腕そのものだ。
腕が伸びる。その長さは2メートル。
2階部分の窓の枠を掴むと、一気に手を縮めて、元の長さに戻す。
「やれやれってやつだ。肉体変化の練習もやってて正解だったな」
さらに腕を伸ばして、次の階へ。次々と上に向けて登っていく。
その途中で気がついた。
「……風魔法で、空飛べるじゃん」
そもそも、俺の脱出プランの肝はそれだった。
この建物の最上階。あるいは屋上までたどり着き、十分な高度を得てから飛び、風魔法で飛行距離を稼ぐ計画だったのだ。
カッコつけた分、恥ずかしさが倍増してきた……
俺は肉体変化を利用したロッククライミングをやめ、風魔法で上昇していく。
すぐ、最上階が見えてくる。
着地すると、そこは―——
「庭?この高さで?」
屋上庭園、あるいは空中庭園というやつなのだろう。
そこは様々な植物が見て取れる。
どうやら、見る者の立場から計算されて作られているみたいだ。
緑を基調に色とりどりの花が咲き誇っている。
その花々は植物園でしか見れないようなカラフルなもの。
そして、暗闇に浮かんでいる球体状の光源。魔法のアイテムみたいなものか?
様々な光で辺りを照らして、幻想的な光景に一役買ってる。
「コイツは凄いなぁ……」
よく見ると、初めて見る奇妙な植物が所々に混じっていて、ここが異世界だという事を思い出される。
思い出される……そうだ!植物観賞をしてる場合じゃない。
俺は勢いよく振り返る。このまま、飛び去ろうとした。
だが、その風景に足を止める。
「なんだ?これ?」
その風景は異常の一言。
遥か遠く、山々の奥に見えるのは巨大な火柱だ。
轟々と天空を貫く火柱は、周囲を照らしている。
火柱の隣は……と言っても距離があるのだろう。
氷柱に覆われた城が存在している。
隣の火柱同様に、離れたこの場所から肉眼で見えるほどの巨大さだ。
さらにその隣―——
巨大な樹木が、やはり空を貫いている。
異常。
物理法則を無視した、それぞれの物体は俺の理解を超えている。
火柱、氷柱、樹木。
目を凝らせば、それらを覆うように壁が存在している。
まるで万里の長城だ。
「ようやく、来てくれましたね」
不意打ち気味に声をかけられ、悲鳴を上げそうになる。
驚いて振りむくと、そこには少女がいた。
15歳くらい?もう少し下の年齢くらいだろうか?
金髪碧眼の少女、あの金髪女とは違って天然のように見える。
着ている服装も高そうなドレスで高貴な雰囲気を身にまとっている。
幻想的な周囲の光景に、俺は息を飲む。
少女は俺に近づいて、そのまま跪いた。
そして―——
「どうぞ、私の命でお怒りを鎮めれるなら、それでお許しください」
「はぁ?」
予想外の言葉にマヌケな声を上げてしまった。
それに反応して、少女は不思議な表情を浮かべる。
「私を殺しにきたのではないですか?」
「いやいやいや」と片手を振り、首を左右に振る。
「なんで、俺が君を殺すって思ってるの?というか、初対面だよね?」
「それは……この世界に貴方を呼んだのは、私だから……」
その言葉に、俺は心底驚かされた。
確かに、俺はこの世界に召喚されたらしい。
……らしいというのは、例の見張りの兵士達がしていた噂話で聞いたからだ。
真偽不明の話で信憑性はどのくらいあるのか、わからなかったのだが……
「ですから……ですから……私の命の代わりに、この国を救ってください」
「待ってくれ!?」と俺は悲鳴を上げる。
「俺は、別に君を殺そうとしてないよ。思ってすらない」
「本当に?本当ですか?」と少女は上目づかいに聞いてくる。
「お、おう」と返事を返しながらも、彼女に対してドキドキと心音を上げていたのだ。
「まずは……説明をしてくれよ。まだ、ここに来て数日しかたってない。それに閉じ込められていたから、情報が0なんだよ」
「わかりました。では、こちらに」と彼女は俺を先導して庭園の案内を始めた。
しばらく、庭園を歩くと、テーブルとイスがある。
「お茶はまだ温かいはずです。よければお菓子もどうぞ」
「それじゃ……」
俺は停止した。
お茶は明るい色の液体。紅茶に近いものらしい。
しかし、お菓子は見た事のない形状をしていた。
拳大の球体。マーブル柄で赤、白、黒の三種類の色。
(これは……ケーキ?外部をチョコで固めているのか?)
どう食べるのか、そこの段階で悩んでしまう。
そんな俺を気遣ってか、少女は見本を見せるようにフォークを手にした。
彼女はナイフで球体を抑え、振り上げたフォークを勢いをつけて振り落した。
!?
意外と硬いのか、それでようやくフォークの先端が埋まるくらいだ。
少女は、そのまま切り分ける事もなく、その球体を持ち上げ、口に運ぶ。
なんというか……豪快な食べ方だ。
俺も真似をしてフォークをお菓子に突き立てる。
そのまま、口に運ぶと……
(あっ!美味しい)
洋菓子のようなものかと思ったけど、むしろモチのような食感。
モチモチする。そして、遅れてやってきた甘味に驚いた。
(甘い!)
表面にコーティングされているマーブル柄の物体。
てっきり、俺はチョコレートのような物だと思い込んでいたが、その味は未知のもの。
内部の甘さを生かすため、多少の苦味を有しているのだろう。
そのバランスは、綱渡りのように危なげであるが、ギリギリの絶妙な調整が行われていた。
「お口にあいますか?」と少女に聞かれ「うん。美味しい!?」と素直に答えた。
「数日、まともな物を食べていなかったからな」と自然と呟いた。
「……ごめんなさい」
何に対して謝れたのか分からず困惑する。
「たぶんですが、貴方の食事には……毒が……」
「え……えぇ!?ゲホッ?!ゲホッ!?」
思わず、咳き込む。
あの腐ったような味の正体は毒だったのか!?
……あれ?俺って、ひょっとして……死んじゃうのか?
「ごめんなさい。でも、体内の魔力を狂わすための物で、体には、命には問題がないと聞いてします」
流石に毒を盛られ続けていたと言われて、一瞬パニックになったが、命に別状がないと聞いて、取りあえずは冷静さを取り戻した。
「そ、そっか、と、取りあえず大丈夫だから、い、いいよ。気にしなく」
冷静さを取り戻したつもりだが、動揺が完全に抜け去ったわけではなかったみたいだ。
俺は動揺を誤魔化すためにお茶を一気に流し込んだ。
さて―———
「……さて、それじゃ……」
と前置きをして、俺は本題に入ろうとする。
まず、何から質問すればいいのか、いろいろと思い浮かんでくる。
『俺はここから帰れるのか?』
『俺を召喚して、どうしようとしてるのか?兵器として使うとはどういう意味なのか?』
『この世界を救ってくれとは?』
それより、何より……まず、初めに聞いておくべきことは何か?
「まず、君の名前を教えてくれないか?」
俺は最初にそれを聞くことにした。
薄暗く、ジメジメとした空間。どうやら、俺がいた牢獄は地下にあったみたいだ。
階段は人1人がやっと通れる狭さ。上から誰かが来たら、すれ違う広さは皆無。
俺ができる事は、誰か来ない事を願うだけ。
息を殺し、音を殺し―——スピードだけは生かしたまま、慎重に階段を上がっていく。
不安というプレッシャーが襲いかかってくる。駆け上がりたい衝動を抑えながら、一歩、また一歩と歩みを進める。
やがて、終わりが見えた。
薄暗さに隠れ、行き止まりかと見間違うほどに薄汚れた扉。
俺は、それに手を伸ばした。
外に人が可能性も脳裏から消え失せ、勢いよく扉を開く……
外だ!?
……違った。当たり前だが、牢獄に続く階段を上がったからといって、即、外に通じてるわけもない。
しかし、外へと近づいたという事実を否定できる者はいないだろう。
扉の向こう側は廊下だ。
かなり広い。階段の薄暗さが嘘のように明るい。
巨大な窓と窓の間に柱がある(たぶん、大理石の柱だ)。
その柱に、ランプのような形状の物が吊るされていて、それが光源になっているようだ。
今は夜のようだ。
短時間であれ、時間が不要な生活を強いられていたのだ。日夜の感覚がなくなっている自分に驚いた。
そして―——
「うわぁ」と俺は驚きの声が漏らした。
踏み出した足が、地面に敷き詰められた絨毯で、僅かに体が沈んだのだ。
ゲスながら金の臭いを感じざる得ない空間。
ここは一体、どこなのか?
しかし、そんな思考もすぐに妨げられる。
人の話声。それも、こちらに近づいてきている。
脱出がバレたのか?
そうも考えたが、向かってくる声に緊迫感はない。内容まで聞き取れないが、ただの世間話だろう。
だが、どうする?聞こえてくる声の距離は近い。
俺は来た道を振り返り、扉を確認する。
また、この扉を開き、階段でやり過ごす……
「そんな選択肢は俺には存在しない!?」
なぜなら、俺が行うべきは外。
来た道を戻るという選択はあってはならない。
俺は窓を開き外を確認する。
さっきまで俺がいた牢獄が地下だとすると、現在地は1階。
そのはずだが、予想外に窓と地面との距離は遠い。
もしかしたら、敵に攻められた事を想定して、1階部分を高く作っているのかもしれない。
そんな事を考えながらも暗闇に目を凝らす。
闇の中でもわかる広大な敷地。
ポツポツと揺れている光が見える。おそらく、光の正体は人間。
複数の人間が灯りを手に警邏に勤しんでいるのだろう。
そんな事を確認してる間に人の気配が濃厚に感じられた。
いる場所は廊下の曲がり角付近。接触まで僅か2、3秒。
俺は勢いをつけて、外へと身を躍らせる。
ただし―——
「ただし、行くのは下ではない。上だ」
壁には凹凸が存在せず、手をかける場所はない。
……俺はイメージした。
手にしてるのは透明なロープ。
それを片手で回すウエスタンのカウボーイ。
遠心力で勢いをつけたならば上に向けて投げる。
当然ながら、俺は手に何も持っていない。
それもそのはず。上に投げ飛ばしたのは、俺の腕そのものだ。
腕が伸びる。その長さは2メートル。
2階部分の窓の枠を掴むと、一気に手を縮めて、元の長さに戻す。
「やれやれってやつだ。肉体変化の練習もやってて正解だったな」
さらに腕を伸ばして、次の階へ。次々と上に向けて登っていく。
その途中で気がついた。
「……風魔法で、空飛べるじゃん」
そもそも、俺の脱出プランの肝はそれだった。
この建物の最上階。あるいは屋上までたどり着き、十分な高度を得てから飛び、風魔法で飛行距離を稼ぐ計画だったのだ。
カッコつけた分、恥ずかしさが倍増してきた……
俺は肉体変化を利用したロッククライミングをやめ、風魔法で上昇していく。
すぐ、最上階が見えてくる。
着地すると、そこは―——
「庭?この高さで?」
屋上庭園、あるいは空中庭園というやつなのだろう。
そこは様々な植物が見て取れる。
どうやら、見る者の立場から計算されて作られているみたいだ。
緑を基調に色とりどりの花が咲き誇っている。
その花々は植物園でしか見れないようなカラフルなもの。
そして、暗闇に浮かんでいる球体状の光源。魔法のアイテムみたいなものか?
様々な光で辺りを照らして、幻想的な光景に一役買ってる。
「コイツは凄いなぁ……」
よく見ると、初めて見る奇妙な植物が所々に混じっていて、ここが異世界だという事を思い出される。
思い出される……そうだ!植物観賞をしてる場合じゃない。
俺は勢いよく振り返る。このまま、飛び去ろうとした。
だが、その風景に足を止める。
「なんだ?これ?」
その風景は異常の一言。
遥か遠く、山々の奥に見えるのは巨大な火柱だ。
轟々と天空を貫く火柱は、周囲を照らしている。
火柱の隣は……と言っても距離があるのだろう。
氷柱に覆われた城が存在している。
隣の火柱同様に、離れたこの場所から肉眼で見えるほどの巨大さだ。
さらにその隣―——
巨大な樹木が、やはり空を貫いている。
異常。
物理法則を無視した、それぞれの物体は俺の理解を超えている。
火柱、氷柱、樹木。
目を凝らせば、それらを覆うように壁が存在している。
まるで万里の長城だ。
「ようやく、来てくれましたね」
不意打ち気味に声をかけられ、悲鳴を上げそうになる。
驚いて振りむくと、そこには少女がいた。
15歳くらい?もう少し下の年齢くらいだろうか?
金髪碧眼の少女、あの金髪女とは違って天然のように見える。
着ている服装も高そうなドレスで高貴な雰囲気を身にまとっている。
幻想的な周囲の光景に、俺は息を飲む。
少女は俺に近づいて、そのまま跪いた。
そして―——
「どうぞ、私の命でお怒りを鎮めれるなら、それでお許しください」
「はぁ?」
予想外の言葉にマヌケな声を上げてしまった。
それに反応して、少女は不思議な表情を浮かべる。
「私を殺しにきたのではないですか?」
「いやいやいや」と片手を振り、首を左右に振る。
「なんで、俺が君を殺すって思ってるの?というか、初対面だよね?」
「それは……この世界に貴方を呼んだのは、私だから……」
その言葉に、俺は心底驚かされた。
確かに、俺はこの世界に召喚されたらしい。
……らしいというのは、例の見張りの兵士達がしていた噂話で聞いたからだ。
真偽不明の話で信憑性はどのくらいあるのか、わからなかったのだが……
「ですから……ですから……私の命の代わりに、この国を救ってください」
「待ってくれ!?」と俺は悲鳴を上げる。
「俺は、別に君を殺そうとしてないよ。思ってすらない」
「本当に?本当ですか?」と少女は上目づかいに聞いてくる。
「お、おう」と返事を返しながらも、彼女に対してドキドキと心音を上げていたのだ。
「まずは……説明をしてくれよ。まだ、ここに来て数日しかたってない。それに閉じ込められていたから、情報が0なんだよ」
「わかりました。では、こちらに」と彼女は俺を先導して庭園の案内を始めた。
しばらく、庭園を歩くと、テーブルとイスがある。
「お茶はまだ温かいはずです。よければお菓子もどうぞ」
「それじゃ……」
俺は停止した。
お茶は明るい色の液体。紅茶に近いものらしい。
しかし、お菓子は見た事のない形状をしていた。
拳大の球体。マーブル柄で赤、白、黒の三種類の色。
(これは……ケーキ?外部をチョコで固めているのか?)
どう食べるのか、そこの段階で悩んでしまう。
そんな俺を気遣ってか、少女は見本を見せるようにフォークを手にした。
彼女はナイフで球体を抑え、振り上げたフォークを勢いをつけて振り落した。
!?
意外と硬いのか、それでようやくフォークの先端が埋まるくらいだ。
少女は、そのまま切り分ける事もなく、その球体を持ち上げ、口に運ぶ。
なんというか……豪快な食べ方だ。
俺も真似をしてフォークをお菓子に突き立てる。
そのまま、口に運ぶと……
(あっ!美味しい)
洋菓子のようなものかと思ったけど、むしろモチのような食感。
モチモチする。そして、遅れてやってきた甘味に驚いた。
(甘い!)
表面にコーティングされているマーブル柄の物体。
てっきり、俺はチョコレートのような物だと思い込んでいたが、その味は未知のもの。
内部の甘さを生かすため、多少の苦味を有しているのだろう。
そのバランスは、綱渡りのように危なげであるが、ギリギリの絶妙な調整が行われていた。
「お口にあいますか?」と少女に聞かれ「うん。美味しい!?」と素直に答えた。
「数日、まともな物を食べていなかったからな」と自然と呟いた。
「……ごめんなさい」
何に対して謝れたのか分からず困惑する。
「たぶんですが、貴方の食事には……毒が……」
「え……えぇ!?ゲホッ?!ゲホッ!?」
思わず、咳き込む。
あの腐ったような味の正体は毒だったのか!?
……あれ?俺って、ひょっとして……死んじゃうのか?
「ごめんなさい。でも、体内の魔力を狂わすための物で、体には、命には問題がないと聞いてします」
流石に毒を盛られ続けていたと言われて、一瞬パニックになったが、命に別状がないと聞いて、取りあえずは冷静さを取り戻した。
「そ、そっか、と、取りあえず大丈夫だから、い、いいよ。気にしなく」
冷静さを取り戻したつもりだが、動揺が完全に抜け去ったわけではなかったみたいだ。
俺は動揺を誤魔化すためにお茶を一気に流し込んだ。
さて―———
「……さて、それじゃ……」
と前置きをして、俺は本題に入ろうとする。
まず、何から質問すればいいのか、いろいろと思い浮かんでくる。
『俺はここから帰れるのか?』
『俺を召喚して、どうしようとしてるのか?兵器として使うとはどういう意味なのか?』
『この世界を救ってくれとは?』
それより、何より……まず、初めに聞いておくべきことは何か?
「まず、君の名前を教えてくれないか?」
俺は最初にそれを聞くことにした。
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