異世界リベンジャー

チョーカー

襲撃、そして決闘へ

 何となく理解した。この国、ナシオンがおかれている状況を……
 この国は最前線でありながら、他国から支援が得られず、時と共に滅ぶのが決定している。
 だから、彼女は、自分の命を捧げる覚悟で俺を呼んだのだろう。
 自分の命の代わりに国を、国民を救ってほしい。
 そんな彼女の覚悟を見せられ、俺はどうすればいいのだろうか?
 簡単に、安易に、『俺が救ってやる』と言えればいい。
 しかし、俺には言えない。
 ―——いや、誰だってそうだ。
 この戦況をひっくり返すような人間が人類の有史を遡っても何人いるのか?
 この状況を前に誰だって、才を振るう事は叶わない。
 でも……だったら……
 俺でもいいじゃないか?どうせ無理なら俺がやると言ってしまっていいじゃないか?
 成れるなものなら……俺が、この国を救う救世主ってやつに成ってしまえばいい。
 彼女の覚悟に対して、なんて無責任な事を考えているのか?俺は?
 「……やる」と気がつけば呟いていた。
 「えっ?」とモナルは聞き返してきた。
 「俺は、この世界の事を何も知らないし、わからない。けど、こんな俺でも役に立てるなら使ってくれ」
 「それは……救ってくださるのですか?」
 「救うとか、救わないとか……まぁいいや。うん、救うよ」
 そんな軽い感じで俺は宣言したのだ。
 この国を救う救世主になってやる……と。

 「貴様!モナル様から離れろ!!」

 急な怒声を叩きつけられた。
 声の主は金髪女。 
 その目から巨大な殺意が、まるで質量を得ているかのように俺を叩いてくる。
 そして、手には抜き身の剣。
 この金髪女は、本気で俺を殺すつもりで来ている。
  モナルの口がら「お止めなさい!?」と悲鳴のような声が聞こえる。
 しかし、金髪女はモナルを一瞥するだけに留まる。
 金髪女の殺意は衰えるどころか、ますます勢いがましている。
 俺が椅子から立ち上がるタイミングで金髪女が前に出る。
 その動きは速い。一瞬で剣が届く間合いまでたどり着く。
 鋭い切っ先が俺に向け、伸びてくる。
 ギリギリのタイミング。俺は土魔法を瞬時に使用。
 無骨な岩の盾を生みだして、金髪女の剣を防ぐ。
 しかし、防げたの一撃目のみ。二撃目で振り落された剣は、盾を一刀両断。
 形状を失った盾は光の粒子へ戻っていく。
 「我が剣を貴様の魔法程度で防げると侮ったか!?さあ、死ぬがよい」
 金髪女は怒声を上げながら、殺意をばら撒く。
 彼女はさらに一歩、踏み込み、間合いをさらに詰める。
 そして、下ろした剣を上へ跳ね上げてくる。
 回避?不能。 防御?不能。 反撃?不可能だ。
 あの感覚が湧きがってくる。 時の流れが徐々に遅くなっていく。
 あの現象だ。俺にとって、生涯2度目の走馬灯。
 死を運ぶ刃がゆっくりとした動きで近づいてくる。
 感覚が緩やかでも、俺が素早く動けるようになるはずもなく……
 ただ、迫ってくる死がせまってくる。
 『魔人』と化した俺の肉体は、身体能力が大幅に跳ね上がっている。
 背後へ、大きく飛び回避運動を取る。

 しかし―——金髪女の前進がスピードで上回る。

 ならば、と風魔法を利用。背後へ飛ぶ速度をブーストさせる。

 しかし―——金髪女の前進がスピードで上回る。

 こいつも、何らかの魔法を使用しているのか?
 あまりにも異常な速度。だが、魔法を使っているなら俺に分からないはずがない。
 鍛錬のみで、人間はここまで速く動けれるようになるという事か?
 嗚呼、狙われている。後方に飛んだ俺が地面に着地した瞬間。
 その時に起きる硬直を狙っている。
 そして着地。彼女の剣が唸りをあげ、襲い掛かってくる。
 その剣は俺の胸部へと吸い込まれていく。 
 剣は俺の肉体へ接触し、皮を突き破り、肉を切り分けて、俺の内部へと入り込もうとする。
 しかし、そこで剣は止まる。
 急激に彼女は遠ざかっていく。まるで、何かに弾かれようにすら見える。
 「―——助かった……のか?」
 俺の胸には一筋の血が流れ落ちていた。
 一体、何が起きたのか?なぜ、彼女は刃を止めたのか?
 間合いを外した金髪女。その瞳には強い怒気と殺意が健在している。
 どうやら彼女が剣を禁めたのは、彼女の意思ではないようだ。
 では、なぜ?
 そんな疑問に答えるように、彼女の視線が俺から外れる。
 そして……

 「なぜ、邪魔をなさいますか?元老院の方々」

 彼女の視線の向こう。
 いつの間にか、複数の影。その中心には3人の老人。

 「……邪魔だと」

 そう言ったのは3人の内、その真ん中にいた老人だ。
 エビのように大きく腰が曲がって、杖を持っている。
 禿げあがった頭部。目を隠すほど伸びた眉。ひげも長く、整えている。
 西洋の魔法使いよりも東洋の仙人といった感じだ。
 「騎士クルスよ。なぜ、モナル殿の静止を振り切り、魔人を殺そうとした」
 ギロリと老人が金髪女を睨み付ける。
 眉で隠され、僅かしか見えないはずの眼光が鋭く光って見える。
 その怒りによる圧迫感はすさまじく、離れている俺ですら逃げ出したくなるほどだ。
 しかし、金髪女は一歩も引くつもりはないらしい。
 「大魔導士ダージュ。私は魔人脱走の速報を受け、いち早く姫さ……失礼、モナル王女の身を案じ、ここへ参りました。すると、脱走したはずの魔人がモナル王女を一緒にいたのです。慌てて、この魔人を排除しようとして当然ではありませんか」
 ダージュと呼ばれる老人は、やれやれをため息をついた。
 その様子にさっきまでの、視線で人を殺せそうなほどの怒りは消え失せていた。

 「だが、この者はモナル殿がこの国を憂いて呼んだ魔人。モナル殿は、この国を救うべく『正義』の者を欲して呼んだのだぞ?」
 「そんな事は私に関係ありません。私は幼少期から魔人は打破すべき存在として学び、鍛え上げれました」

 「クックック」と含むような笑い声をあげる人がいた。
 3人の老人の1人で、立ち位置はダージュ老人の隣。
 体は細く、背は高い。白衣を身に纏っているせいか、学者や研究者といった人間に見える。
 笑いながらお道化た表情を見せる。
 「ご令嬢を幼少期から、そんな教育していたのですか?騎士団長オルド殿」
 そう言われて反応したのは、ダージュ老人の向う側にいる人物。
 最後の老人だ。しかし、その活力にあふれた立ち振る舞いは若々しく、安易に老人と評するには違和感が生じている。
 1人だけ黒い鎧を身につけている巨躯の持ち主。
 白い髪を束ねている。それは、まるでちょんまげのように見える。
 顔にはいくつもの傷がついている。
 古いものではない。どれも最近、つけられた傷が治り切っていないという感じだ。
 日常的に傷をつく戦いをこなしている……とその傷から読み取れる。
 「相変わらず手厳しいな。探究者シェル殿は……」
 オルドと言われた戦士風の老人は「カッカッカッ」と笑う。
 その様子に金髪女は……「父上は関係ありません」と下唇を噛みしめている。

 この2人、親子なのか?……似ていないな。
 俺は、さっきまで殺されかけていた事を忘却し、そんな呑気な感想を持っていた。
 しかし―———
 カッカッカッと笑っていたオルド氏は一変して怒鳴り声を上げる。

 「クルスよ。我ら騎士団は国家の剣よ。剣に感情は許されん。我らを武器として振るのは王のみ。使い手を無視して、意思を持つ剣など、害でしかないわ!」

 その言葉は金髪女にとって、重い言葉だったのだろう。
 どこか、言葉に打ちのめされたように見える。
 そんな彼女にモナルがそっと近づき、そのまま彼女を背後から抱きしめる。

 「心配させてごめんね。クルスちゃん。でも、でもね―——
 魔人って言っても、ユズルは私たちと同じで人間なの。
 そんな彼を私たちの都合で閉じ込めて、必要な時だけ使うなんて道具みたいな真似はしちゃいけない。 だから、だからね。きちんと話し合って、分かり合えないといけないと思ったの……」
 「……」
 金髪女―——いや、クルスは無言だ。
 俯いたままで表情は見えない。
 何を思い、何を考えているのか、わからない。
 そんな状態のまま、暫く動きはなかった。
 しかし……

 「……どうして?」とクルスがポツリと言葉を漏らす
  その意図が分からなかったのか、モナルは「え?」と聞き返す。
 「……どうして、私じゃダメなの?私は国家の剣じゃないの?
 それなら……それなら……どうして、魔人なんて必要なの!?」

 俺は、そんな彼女の叫びを聞いて、なんとなく理解した気になった。
 たぶん、さっきまでモナルとお茶とお菓子を楽しんでいた俺のポジション。
 それは、今まで彼女の役割だったのだろう。
 いや、違う。それだけではない。
 たぶん、きっと……
 俺が『魔人』として、この国を救おうという決意。
 そんなものは、クルスにとって、とっくの昔に済ませている決意。
 そう彼女は「魔人」ではなく、「人」として、この国を救おうとしているのだ。
 つまり、「魔人」として俺に与えられた役割の全ては……
 元々は彼女のものだったのではないか?
 だから―——

 そんな俺の思考を裂いて、クルスが叫ぶ。
 その言葉は俺に向けられていた。
 「決闘だ。決闘を申し込む。
 貴様など、なんの役にも立たぬという事を証明してくれる。
 正々堂々と剣で命を賭けた勝負だ!」

 「え?」

 待てコラぁ!何、ドサクサに紛れて剣の勝負にしてんだ、この金髪女!?
 そう主張する発言力など、俺には存在していなかった……    

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