異世界リベンジャー

チョーカー

クルスの父親 騎士として

 あの直後、俺の待遇はよくなった。
 俺の部屋は相も変わらず、地下の牢獄だが、鳥かごの檻は撤収された。
 代わりに俺の寝床は、豪華なベットになっている。
 幕だ。ベットの上部には天幕がついている。天幕付ベットだ。
 正直、ベットよりも早く服を用意してほしいのだが……
 いつまで俺は半裸のオムツ姿状態でいないといけないのか?
 そんな事を考えながらもリフォーム後の牢獄を見渡す。
 ベット以外は四方八方から、照らされる強烈な光がなくなった事か。
 たった、その程度の変化だが、それだけで、この牢獄は俺の部屋に変わった感じがしている。
 そんな部屋の中、ベット以外に増えた物がもう1つ。
 それは、木刀だ。木刀なんて修学旅行のお土産でしか見た事がない。
 しかし、俺のイメージしている木刀とは違いがある。
 日本刀をモチーフにした木刀とは違い、西洋風の木刀。
 ん?西洋風の剣を刀って表現するのはどうなのだろう?

 結局、あの後……
 俺は、金髪女―——じゃなかった。クルスだったけ?
 あの女と決闘する事が決まってしまった。期間は1か月後。
 剣を扱った事がないという俺の意見は、ほぼ無視された。
 1か月後にしてくれたのは、せめてもの恩賞だった。

 俺は木刀を手にして構える。
 構え方は適当だ。実は俺には剣道経験がある。
 剣道歴1か月でやめたけれども……。
 剣の正しい持ち方なんて、とっくに忘れている。
 だが、気合の雄たけびを上げ、木刀を振り上げる。

 「よっこいしょ!」

 空、高くに振り上げた木刀を裂帛の気合と共に振り下ろす。

 「どっこいしょ!」

 うむ……確かな手ごたえを感じ、もう一度、振り上げる。

 「よっこいしょ!」

 そして、振り下ろす。

 「どっこいしょ!」

 今度は連続で、リズミカルに……

 「よっこいしょ!どっこいしょ! よっこいしょ、どっこいしょ! よっこいしょ!どっこいしょ!」

 徐々に体温があがっていく。額は滴がいくつも浮かび上がっている。

 「……やめた」

 そう言えば、俺が剣道をやめた理由は、掛け声を馬鹿にされたからだった。
 ん~ 俺としては真面目にやっているつもりなのだが……どうしても、奇妙な掛け声が口から自然に出てしまう。
 どうやら、俺には剣のセンスが皆無らしい。
 どうすれば良いのだろうか?1か月後には真剣での決闘が行われる。
 せめて、戦える程度にはならないと……ならないと、たぶん死ぬ。
 たぶんと言うか、確実に死ぬわけだが……
 逃げるわけにはいかない……
 そこで思考が止まり、ある事に気がついた。
 ん?あれ?逃げてよくねぇ? 俺って脱走しようとしてたんじゃねぇ?

 そんな考えをかき消すように騒音が近づいてくる。
 一体、何が来ている?
 次の瞬間―——ドンドンドン!ドンドンドン!!
 扉を強打する音が鳴り響く。
 何だ?敵の襲撃か!?
 しかし、外から大声が聞こえてくる。

 「おぉ、魔人どの。ユズルどの。開けてくだされ」

 誰?俺はそっと、扉をひら……
 開く前に、伸びてきた腕が強引に扉を開いた。
 やっぱり、敵襲か。 俺は後方へ転がるように扉から離れる。
 扉からぬるっと顔を出した人間。
 その人物は老人だ。しかし、皺が刻まれている以上に多くの生傷が顔に存在している。
 確か、名前はオルド……だったか?
 先日、クルスに殺されかけた時に彼女を止めた3人の老人。
 大魔導士 ダージュ
 探究者 シェル
 そして、最後の1人が目の前にいる。
 騎士団長 オルド 

 彼はクルスの父親でもある。やっぱり、敵じゃないか?
 しかし、彼は
 「応、ユズルどの。酒をお持ちしましたぞ。一緒に飲みましょうぞな!」
 「……」
 一体、どういうつもりなのか?本当にわからない。

 「なるほど、酒はダメなのか……」
 俺が丁重に断りを入れると、予想以上にあっさりと引き下がった。
 もちろん、理由は酒が飲める年齢ではないからだ。
 「無論、他者の信仰による摂生を否定するつもりはないが……いやぁ、残念。残念」
 何か、勘違いしているようだが、修正するつもりもなかった。
 オルドは、普通に俺の部屋……じゃない。ここは牢獄だった。
 普通に牢獄に入り込む、勝手に酒を飲み始めた。
 「えっと……何しにこられたんですか?」
 「おっと、そうだった。そうだった。ユズルどのに頼みがあったのだ」
 さっきまでは、ただの酔っ払いだったオルドは、突然、素面のような表情になり、深々と頭を下げた。

 「ユズルどの、どうか娘を―——本気で倒してくだされ」

 俺はオルドの真剣な表情に息を飲む。 
 彼は本気だ。本気で自分の娘を倒してほしいと頼んでいるのだ。
 「育て方が悪かった」オルドはボソリと呟いた。
 「我が娘、クルスは騎士にしては自我が強すぎる。そこで貴殿に娘の鼻っぱしをへし折ってほしい」
 そんな言葉に俺が思った事は、ただただ凄まじさだった。
 自分の娘を真剣での殺し合いで、負かしてほしい。
 獅子は我が子を千尋の谷に落とす。いや、それ以上のものだ。
 だが、俺はこの頼みを断らないといけない。なぜなら、理由はシンプル。
 勝てるはずがないからだ。
 「すいませんが無理です。今まで剣を振るった事がない俺が、彼女に―——娘さんに勝てるはずがありません」
 オルドはどんな気分で俺の言葉を聞いていただろうか?
 その表情には、なんの感情もない。彼は無言だ。無言のまま、酒を口に運ぶ。
 やがて―——
 「羨ましいな」
 聞き逃してしまいそうな細く、小さな声。
 一瞬、オルドが発した声と認識すらできなかった。
 「今まで剣を振るった事がない……羨ましい」
 「えっと、何がですか?」
 「貴殿は、ユズル殿は、戦場に立ったことがない。そう言っているのも同様ではないか。
 そんな平和な世の中があるとは……この世界に住む者には夢物語と同じよ……」
 オルドはしみじみとした口調だった。
 羨ましいというよりも、そんな平和が信じられないのかもしれない。
 しばらく、オルドは無言で浴びるように酒を飲み、やがて、酒が切れたらしい。
 「さて、酒もなくなった事だし、帰るとしよう」そう言って立ち上がり、帰り際にこう言った。
 「ユズルどのは、もうお休みになられるか?まだならば、この城の正門よりも右側……そこにある噴水に行くと面白いものが見えますぞ」
 そう言い残すとオルドは千鳥足で、帰って行った。
 噴水?おもしろいもの?

 俺は暫く考えてみたが、オルドの言葉に従ってみる事にした。
 牢獄の外に出る。今まで、外にいた見張りの兵たちは、いなくなっている。
 それに若干の寂しさを感じている。
 しかし、今は都合が良い。
 いくら、自由が許されているからと言っても、それは制限付きのもの。
 何が許され、何が禁止されているは、俺に伝えられていない。
 中々、いい加減な制限だ。
 ひょっとしたら、こうやって夜間に出歩くのは禁止されていて、俺を殺すためにオルドが騙しに来た。
 その可能性は0ではないが……
 なんとなく、あの老人は裏表がない人物。そんな気がしている。

 (まぁ、ここで俺を殺さなくても、1か月後に高確率で娘のクルスに殺されるわけだけどね)

 ため息をつきながら、1階へ続く階段を駆け上がっていく。 
 1階につき、城の正門を探す。
 その最中に……「そう言えば、この施設って城だったんだな」と今更ながら気がつく。
 オルドの最後の言葉がなければ、ここが城だと気がつくのは、まだ後の事になっていただろう。
 この場所が城だと認識した瞬間
 お上品に振る舞わないといけない!と脅迫概念に襲われる。
 我ながら単純な人間―——いや、魔人である。
 誰が見てるわけでもなく、背筋を伸ばして歩いていると、やがて噴水が見えてきた。
 その噴水の前には誰かが立っていた。
 (誰だろう?)
 オルドが俺をここに来るよう勧めたのは、その人物に合わせるため。
 だから、俺は、警戒も懐かないまま呑気に歩いていた。 
 そして、魔力を使って暗闇でも、目が効くよう調整し終えて……
 逃げ出した。

 噴水の前に立っていたのはクルスだったのだ。

  

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