異世界リベンジャー

チョーカー

そして始まる剣戟

 俺はベットに横になり、天井を見つめる。
 クルスとの決闘まで、1日後。
 しかし、俺は日課であった修練を行う気にはなれなかった。
 思い浮かぶのは、モナルと城下町で遊んだ、あの日の事―—— 

 モナルは凛とした態度を崩すこともなく、ハッキリとした口調で叫ぶ。
 「貴方は間違っている。私が皆の犠牲になるのがいけない事ならば、ユズルを犠牲にしようとした私たちに非はないのいうのですか!それは許されるという事なのですか!」
 クルスはモナルの言葉に動揺の色を見せる。
 しかし、クルスも譲らない。
 「モナルさまと、そこの魔人は違います!」
 「いいえ、違いません。私たちは彼に―——ユズルに謝罪し断罪を受けてしかるべきなのです!」
 「それでも、それでも……彼は―——魔人は私たちの敵です」
 クルスは捨て台詞のように言葉を吐き捨て、背を向けた。
 その後の記憶は曖昧だ。
 どうやって城まで戻ったのか?その時、モナルとは何と話をしたのか?
 記憶が抜け落ちていて分からない。

 私の敵……ではなく、私たちの敵か。
 クルスの言葉が頭の中でグルグルと回る。
 そう……知ってはいた。
 この世界では簡単に魔人を召喚できるはずなのに、現時点で俺しかいないのか。
 この世界の人々が戦っているモノは何者なのか?
 クルスが魔人を忌み嫌う理由。クルスが幼少期から魔人を倒すために鍛錬をしていた理由。
 そう……召喚された俺が戦う敵の正体。
 それは―——

 『魔人』

 つまり、俺から見たら……普通の人間だ。
 魔人や魔物。
 俺はそんなファンタジーの存在と戦うのだろう。
 そう漠然と考えていた。
 しかし、戦うのは『魔人』と呼ばれる人間。人間と人間との殺し合い。
 それが―—— それこそが―——
 モナルが俺に対して持っている罪悪感の正体。
 俺に対して「犠牲にしようとした」と言った言葉。
 嗚呼……ダメだ。
 ならば、俺にも罪がある。
 なぜなら、俺はその事を既に知っていた。
 知っていて知らないフリをしていたのだ。
 彼女の、彼女たちの罪の意識に甘えていた。 

 それは、数日前にアセシから聞き出していた。
 強烈な魔力を持った人間たちの召喚。
 それは当初、この世界では歓迎されていた。
 魔人として召喚された者も、最初は困惑していたが、その歓迎に答え、人々のために働いていたという……
 しかし、強力な魔力。
 国の兵力に匹敵する個人の存在は、国家として好ましくないという層が生まれた。
 ある意味では生まれるべきして生まれた反魔人組織。
 やがて、魔人たちは多くの人々から恨みや妬みを受ける事になった。
 そして―——
 そんな魔人たちは、ある人物を中心に、世界に対して反旗を覆したのだ。
 各国でバラバラに存在していた魔人たちを集め、組織化させた魔人がいる。
 いや、魔人と言われているが、正体は一切不明の存在だ。
 ゆえにソイツは『魔王』を言われている。
 経歴、一切不明。どこで誰が召喚したのか、記録は残っていない。
 だが、『魔王』は世界に10人ほどの魔人を従い、世界の侵略を始めた。
 その戦い。その戦いでモナルは父親である、このナシオンの国王を失っている。
 そして、クルスもまた、母親を失っていた。
 2人とも魔人に対して恨みを持っている。
 ……そのはずだ。
 しかし、モナルは、俺に対しての罪悪感から恨みを個人的な感情へ変換させていて……
 クルスは単純な恨みを俺に対する敵意に変換させている。

 全ては幻。
 彼女達から俺に向けられる感情は、幻想に過ぎない。
 身近にいる『魔人』が俺だけと言うだけの話。
 俺はそっと瞳を閉じ、明日へ備えて惰眠をむさぼり始めた。

 城内の鍛錬場。
 決闘の儀式が行われた場所。
 しかし、儀式が行われていた時の静けさは消え失せていた。
 ドン ドン ドン ドン ドン!?
 地面を踏みしめる音が周囲に響いている。
 観客がいる。
 一般公開されているわけではなく、この城の兵士たちが観客として集まっているのだ。
 この城の兵士のほぼ全員が集まっているのではないか?
 やがて、俺の名前が呼ばれ、鍛錬場へ呼びこまれる。
 歓声が波のように俺を迎えてくる。
 次にクルスの名前が呼びこまれ、彼女が姿を現す。

 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……ブツブツ」

 殺意を十分に俺に放っていく。
 そして、彼女が手にしている武器。それは、俺が手にしている武器とは違っていた。
 彼女の武器は大剣。
 小柄な彼女の身長よりも僅かに小さいサイズ。
 刃は俺の剣の数倍の幅がある。
 クルスは軽々しく片手で持っているが……一体、どのくらいの重さがあるのか?
 審判役には騎士団長のオルドは選ばれている。
 彼は、俺とクルスを鍛錬場の中央へ呼ぶ。
 「正々堂々」とか「力を尽くして」とか
 これから行われる殺し合いを前に虚しい言葉を投げかけてくる。
 俺は深く頷き終えると、両者は円状の端へ移動する。
 そして、決闘が行われる。

 俺は抜き身の剣。その切っ先をクルスに向ける。
 それは間合いを読ませないための剣術の構えだ。
 俺は剣道を1か月で辞めたけれども、そのおかげで剣術に関する知識は普通の人よりも多く有していた。
 対するクルスは、常に濃厚な殺気を放ち続けているが、戦いに関して冷静であり、こちらを観察するように、ゆっくりと近づいてくる。
 その圧力から、思わず剣を落として逃げ出したくなる。
 だが、逃げるわけにはいかない。
 ……なぜだろう? なぜ、俺の選択肢から逃げ出すという事が抜け落ちてしまったのだろうか?
 クルスは、そんな心の隙をついてきた。
 大きく踏み込み、巨大な大剣を振りかぶり、一気に振り落してくる。
 俺はそれを横に飛びながら避ける。
 俺が避けた跡地。
 俺が立っていた場所は、まるで爆撃を受けたかのように砂煙と石つぶてが舞い上がっている。
 舞い上がった砂が煙幕ようにクルスの姿を消した。
 (ヤバい ヤバい ヤバい)
 砂に囲まれた場所からの脱出を計り、駆け出す。
 そして、砂煙から脱出。
 しかし、正面にはクルスが突きの構えで待ち受けていた。
 (読まれていたか……しかし―——勝機!?)
 俺はクルスの突きに対して、カウンターを狙う。
 まだか?まだ、こないか?こい!こい!こい!?
 だが、クルスの突きは来なかった。
 (読まれた!?)
 クルスは突きの間合いよりも大きく踏み込み、蹴りを放つ。
 体が浮き上がるほどの衝撃。後方へ吹き飛ぶ。
 そして、クルスは俺の地面の着地を狙い、追いかけてくる。

 「くそがッ!?」

 俺が宙に浮いた体を止めようする。
 体をできるだけ、小さく丸めて縮めると―——一気に両足を地面に叩き付ける。
 強引に体を止める。間合いを崩されたクルスに驚きの表情が生まれる。
 互いの間合いは極小。ならばクルスの大剣よりも、俺の小さな剣が小回りが利く分、有利。
 そのまま、俺は手にした剣で突きを放つ。
 しかし、クルスは大剣を手放し、素手で剣を弾く。
 (何と言う神業!?)
 そして、素手のままの彼女は間合いを詰める。
 ほぼ0距離。体に浮遊感。
 俺は咄嗟に投げられたと判断した。
 しかし、それは投げ技という言うには、もっと原始的な行為だ。
 クルスは俺の両脇に手を差し入れ、そのまま持ち上げられていたのだ。
 まるで、高い高いと子供をあやす両親の如く。俺の体は簡単に持ち上げられた。
 その細い体のどこから、そんな怪力を出しているのか?
 まるで、万力で抑え込まれたように体が固定され動かない。
 そのまま、持ち上げられた状態から、一気に地面へ叩き付けられる。
 (受け身。前受け身)
 頭部を地面に接触しないように頭をあげ、両手で地面を叩き衝撃を殺す。
 だが———
 受け身が通用しない!?
 受け身の意味がなく、頭部を地面に衝突する。
 脳のダメージから視界が乱れる。
 判断も乱れ、状況判断能力が大きく失われる。
 クルスはどこにいる? それだけは、彼女の姿を失うわけにはいかない。
 彼女を目に捉えた。クルスは大剣を俺に向けて振り下ろしてくる。
 立てないまま、前転のように体を回転させ、回避。
 背面に大剣が通った後に発生する衝撃が襲う。
 思わず、口から漏れそうになる悲鳴をかみ殺す。
 無様な姿であろうと生き残るのが優先。四つん這いのまま、走るようにクルスから逃げる。
 十分に間合いを取れたと判断。何とか、脳のダメージから回復して立てるようになっている。
 仕切り直しと言うには、一方的に俺のダメージのみが大きいが……
 戦う事が出来ている。どんなに無様であれ、まだ俺は生きている。
 この1か月の鍛錬は無駄ではなかった。
 それを認識した瞬間、俺の体が一斉に叫び出す。
 まだできる。まだ動ける。俺を使え。この技を出せ。
 そう、合唱を行っている。
 武の引き出し。そう言ったものが、いつの間にか俺に、俺の肉体に生じていたのだ。

 おや?どうした?クルス。
 そんな困惑した表情を浮かべて。
 そんな表情もできるんだな。いつも、いつも、俺に殺気だけを放っていたお前が……
 あぁ、ここまで追い込まれている―——否。
 自分が追い込んでいると思い込んでいるんだろ?
 それなのに、そのはずなのに、俺が笑っているのがおかしいんだろ?
 なんだ?お前も武人の前に人間なんだな。
 俺の中でクルスに対する恐怖。苦手意識が消えていく。

 だから、まだ戦う。戦えるぞ!?
 今度は俺から剣を振るった。

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