異世界リベンジャー

チョーカー

狂気の階段2段飛ばかし

 病室から開放され、ようやく自室に帰れた。
 まるでターバンのように巻かれた包帯を取り外し、魔法で作った鏡で額を見る。

 「うわぁ、ザックリ切れてるなぁ」

 額には傷が残っていた。
 『魔人』の超回復。回復呪文の使用。そしてポーション。
 それらを用いても傷は完全に癒えることはなく、傷跡が痛々しく存在していた。
 その理由については、お偉いさんであるはずの大魔導士ダージュが直々に現れて、説明してくれた。
 クルスが放った最後の一撃。それには強い感情が込められていたという。
 その感情が呪詛という魔法的な効果まで引き起こした。
 つまり、俺はクルスに呪いをかけられている状態……らしい。
 逆に言えば、クルスが放っていた殺伐とした感情を傷が引き受けた代わりに、俺に対するクルスの敵意が消滅した。そう考えれば、随分と救われる話だぜ。
 さて、問題は傷の代償。つまりは呪いの効果だが……
 どうやら、運が悪くなるそうだ。
 額の傷から幸運が逃げていく。そう説明されると、まるで人相占いみたいで、途端に胡散臭く感じてしまう。多少、運気が上下する程度なら、実害と言えるものでもないだろう。
 それに効果は永続ではなく、時間と共に薄れていくそうだ。気にしないようにしよう。
 俺は慣れ親しんだベットへ飛び込み、体と心を休める。
 不思議なもので、天蓋付きの豪華ベットで寝てられるか!と駄々を捏ねてた時期もなったが、今となっては、心の止まり木のような存在になっている。
 人間は慣れるものだ。そして、慣れを心地いいと感じるものなのだろう。
 そんなこんなで、意識をまどろみに…… 視界をブラックアウトさせて……
 俺は眠りに落ちていった。

 しかし、乱入者が現れた。
 ドアを蹴破るように開け、騒がしく入ってきたその人物は……
 誰だ?見覚えはあるはずだが、うまく一致しない。
 ベットで蹲りうずくまりながらも、片目を開いて記憶を探っていく。
 えっと、誰だったけ。あ~そうそう。彼女だ。彼女はクルス……。
 クルスだった。
 姿を見た瞬間に眠気は飛び去り、脳は緊急信号を体に巡らせる。
 ベットから飛翔するが如く飛び上がり、着地と同時に距離を取る。
 この部屋にある武器は……一振りの木刀のみ。
 武器としては、ひどく頼りない。
 ……やれるか? 自分自身に問いかけていく。
 やれるからやる……ではない。殺すか、殺されるか……
 いざ尋常に―――勝負!

 「……いや、駆け込んできたのは悪かったが、なぜ貴殿は戦闘状態なのだ?」
 「え?そういわれてみると……」

 全く仕方がない奴だなとクルスは笑みを浮かべていた。
 ……本当に誰だよ。キャラがブレ過ぎてるぞ。
 「貴殿とは再び剣を交えたいが、今は頃合いではあるまい」
 そう言われ、俺は構えを解く。すると……
 「生憎あいにくだが一刻の時間も惜しい。失礼を許せ」
 クルスは俺に近づくと、その細腕を俺の腰に巻き付けた。
 「ん?あっ!え!?」と驚く俺に対して、そのまま……
 持ち上げた。

 「待て待て待て、何で人を荷物みたいに小脇に挟んでいるんだよ!?」
 「説明は後だ!」

 クルスは俺を小脇に挟んだまま、駆け出した。

 「ちょ!この体勢だと、胃袋が圧迫されて!揺れる!揺れる!」

 だが、クルスは俺の抗議の声を完全に無視。そのまま部屋を出る。
 部屋を出た所にあるのは階段なわけで……
 「お前!そのまま進み気か!?怖い!超怖えぇ!」
 地面の低めの視線に、階段の角が1つ1つ接近していく。
 恐ろしい事にクルスは2段飛ばしで駆け上る。

 「ひっ!ひえええええええぇぇぇぇぇぇぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 メンテナンスしてる分、絶叫マシンの方が安全性は上だ。
 ちょっとした手違いでクルスの手から落ちてしまうと……

 恐怖 恐怖 恐怖 恐怖!?

 クルスが階段を登り終えた頃には、体から魂が抜け落ちるほどに俺は衰弱していた。
 しかし、クルスは止まらない。
 地下から地上へとつながる階段を登り終えた彼女。
 今度は、城の上部へと続く階段へ向かう。
 「うわぁ!うわぁ!酔う酔う酔う!?視線が上下左右に!」
 俺の絶叫が城内に響き渡ったのは言うまでもあるまい。

 スピード感と言うのは視点が地面に近ければ近いほど、速く感じるという話を聞いた事がある。
 ならば、階段の角に鼻が擦れるほどの距離で進まされていた俺のスピード感とやらは、どのくらいだったのだろうか?
 短い間隔での失神と覚醒を数回繰り返し、ようやく城の最上階へたどり着いた。
 そこはモナルのプライベートルームと繋がっている空中庭園とは違う。
 巨大な門。左右には屈強な兵士が門番として、立っている。
 門の先は公的な場所。なんとなく、それだけはわかった。
 乱暴な扱いで乱れた服装を正し……いや、服装も何も、俺は今だに半裸状態なんだが……
 いい加減、誰か服くれないかなぁ?

 クルスが門の中心に移動する。それを見て、俺も慌てて追っかける。
 すると左右の門番が同時に声を張り上げた。

 「「騎士 クルス様 魔人 ユズル様 到着!!」」

 見事に重なった声ユニゾンは空間を響かせる。
 そして中からも

 「「入出は許された!!」」

 重なった声ユニゾンが返ってきた。
 暫くすると轟々と音を立てて、巨大な門が開かれていく。
 門の隙間から熱風が俺を襲う。
 内部に溜まっていた熱量が新たな行く場を得て、一斉に動いたような錯覚。
 内にいたのは見知った面々。
 大魔導士ダージュ 探究者シェル 騎士団長オルド
 彼ら3人を筆頭に、複数の騎士たちが背後についている。
 そして、その中心にはモナルがいた。
 玉座に座っているモナルは、俺の知っているモナルとは違っていた。
 まるで神秘的な何かに取りつかれているかのように神々しく、そして服従したくなるほどの権威を持ち合わせている。それは王族ならではのもので、生まれついてのカリスマ性と表現すればいいのだろうか?
 彼女と初めて会った時にも、それは感じていたが……それとは、まるで度合が違っていた。
 嗚呼と呟きながら俺は理解した。これが王女としてのモナルの姿なのだ。

 王女 モナル

 幼さを残す風貌でありながら、この国の支配者。
 それが彼女である。
 その小さな肩には潰れるほどの重責を負い。
 それを俺が理解し、共感しようとするだけで、きっと俺は押し潰されてしまうだろう。
 それが、それだけは理解できた。

 上座がモナルなら、下座は逆方向で門の付近か?
 俺は自分の立ち位置を把握して、移動しようとする。
 だが、それをクルスが俺の首根っこを掴んで阻止。
 「お前はこっちだ」
 そのまま連行された。
 連行された場所は、この部屋の中心。
 クルス共々、片膝をついて頭を下げる。
 やがて―——

 「クルス、ユズル、双方、頭を上げなさい」
 「ハァ!?」と勇ましい返事を上げ、クルスが面を上げる。
 それに釣られ―——
 「はぁ?」とマヌケな返事で顔を上げてしまったのが俺だ。

 「まずは、先ほどの決闘。素晴らしいものであったと聞いておる」

 モナルの言葉にクルスは
 「勿体ないお言葉、誠にありがとうございます」
 俺もたどたどしく、クルスの言葉を真似て重複させる。
 「うむ、褒美は後々取らせるとし、今は一刻を争っているゆえ……大魔導士ダージュよ。説明を任せる」

 ダージュが前へ出る。
 「双方、これを見よ」という老人の指先から魔力が上へ向かって放出される。

 「立体映像!?」

 小声ながらも思わず、驚きの声を出してしまう。横からクルスが睨んでいる。
 その映像は壁。つまり、この国ナシオンの国境付近が映し出されている。
 一体、何が映っているのか?しかし、壁には変化が行らない……
 そう思っていた、次の瞬間だ。
 カメラワークはズームを始める。壁のヒビすら見えるほど拡大された動画。
 不意に手が見える。壁に手をかけて登ろうとしている者がいるのだ。
 ついにソイツは壁をよじ登り、壁の上に立った。
 ソイツの顔は分からない。フード付きのローブを着ており、フードで顔を隠しているからだ。
 しかし、動画からでも伝わる魔力量。常人ではない。
 そいつは、自分が映像を取られていると気がついたのか……
 こちら側に向かって右手の指を2本向ける。続けて、左の指も2本向ける。
 ……何のつもりだ?
 暫くは意味がわからなかったが―——
 男の行動がダブルピースだと理解した瞬間、混乱と衝撃が俺を襲った。

 「ご覧の通り、ついに『魔王』がこちら側に接触してきたのが昨日の事だ」

 「『魔王』って!コイツが!?」

 

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