異世界リベンジャー

チョーカー

魔王VSダージュ

 『魔王』

 『魔人』達をまとめ、世界に反逆。
 人類が劣勢を強いられる元凶となった男。
 ソイツが国境の壁に立っている。手には拡声器らしい道具を持っている。 
 そして―——
 『あーあー。本日は晴天なり、晴天なり』
 マイクテストを始めた。
 「えっと、あれが本当に『魔王』なのか?」
 段々と不安になり、周りに確認を取る。
 全員が微妙な顔で頷く。どうやら、本物の『魔王』らしい。

 『ナシオン諸君!?ご無沙汰振りである。私が魔王である!?
 皆様の、皆様の魔王が恥ずかしながら帰ってまいりました。
 このたびは、不信任案によって魔王の座から剥奪されていましたが、私は不死鳥の如く舞い戻ってきました。私の願いは、平和であり、私の目的は無血開城であります。ナシオンのみなさまは、自発的な投降をお願いします。
 私が目指す国家は、能力主義。
 できる者が上へ、できない者は下へ。当たり前の事を当たり前にするために、私は日夜、努力を惜しまず邁進しております。嫉妬、僻み、差別こそが悪。
 才有る者がその才のままに、それこそが自然の摂理では、ありませんか!?』

 演説……いや、投降勧告なのか?
 というか、いつまでこれを見なければいけないんだ?
 そんな事を考えていた次の瞬間。『魔王』の背後に人間が現れた。
 まるで瞬間移動のように出現し、持っていた杖で『魔王』へ奇襲をかける。
 それを『魔王』は「うひゃひゃひゃ」と笑いながら、壁から落下する事で避ける。
 『魔王』への奇襲を強行した人物。
 それは———大魔導士ダージュ

 俺はこの室内にいるはずのダージュへ視線を向ける。
 彼はいた。
 そうか、この動画は昨日のものだと事前に言っていたではないか。
 しかし、俺が知らない間にこんな事が起こっていたなんて……

 『魔王』は地面衝突の直前、猫のように体を捻って着地した。

 「ダージュのジジィか。元気そうじゃねぇか」

 着地と同時に『魔王』はダージュに呼びかける。その態度は、あまりにも馴れ馴れしく、旧知の間だという事がわかる。

 「巫山戯ふざけるな! ―——否。巫山戯たまま、世界を支配しようなどたわけが」
 「くっくっくっ、俺様は自分で『魔王』を名乗る男だぜ?俺が巫山戯ないで、誰が巫山戯るんだ?」
 「その態度を改めよと言っておる!」

 ダージュは怒鳴り声と共に腕を突き出す。すると空中に複数の火球が現れる。
 (無詠唱呪文!?それも速い!)
 ダージュから放たれた火球は、まるで赤い彗星の如くスピードで『魔王』へ放出された。
 6発、7発…… カウントできたのはそれだけ、後は肉眼では追いつかない数。
 それらが全て『魔王』へ接触……いや、その直前で『魔王』の手が光る。
 いつの間に手にもっていたのは剣。真っ黒で禍々しく、魔剣と呼ぶ以外の選択肢を与えさせない。
 それも見えたのは一瞬。次の瞬間には黒い線としか認識できない。
 (剣で魔法を切断しているのか!?)
 俺は驚きを隠せなかった。あの数の、あの速度の火球を切っているなんて……
 火球は切断した衝撃か、爆風か、原因は分からないが動画にノイズのようなものが走る。
 動画の映像が回復するとダージュと『魔王』は対峙していた。

 「……つくづく愚かな。火球を切断した所で魔法が消滅するわけなかろう」
 「ふん、美学も分からぬほど耄碌もうろくしたか?ジジィ?」

 え?あの火球。意味もなく切っただけなのか?
 それって、全弾命中していたって事じゃ……
 しかし、どう見ても『魔王』はローブの一部が焦げたようにしか見えない。
 肝心の『魔王』自身はノーダメージのように見える。
 だが、そんな『魔王』に対して、ダージュは……
 「いや、わかるさ。貴様は貴様の美学とやらで避けぬという事は読んでいたわ!」
 「むっ!」と、ここに来て、初めて『魔王』が真剣な声を上げる。
 何が起きているのか?一瞬分からなかった。
 しかし、次の瞬間、『魔王』の足元に文字が浮かんでいた。
 魔法陣だ。『魔王』が火球を切断している隙に、魔法陣を仕掛けていたのだ。
 俺は映像越しに魔法陣を分析し理解する。
 巨大な魔力を足元から放射して、焼き払うためのもの……いや、だけではない。
 すぐさま、退避しようとする『魔王』が空中で弾かれた。
 結界だ。攻撃のための魔法陣の作成と同時に、獲物を逃がさぬように魔法陣内に封じ込める結界も作られ、既に発動している。
 俺の魔法分析能力と魔法理解能力すら読み切れない戦略。
 これが大魔導士ダージュの戦い。

 魔法陣が発動する。
 それは光の柱。
 魔力を炎の性質に変化させたり、氷の性質を変化させたりする事すらせず、純粋な魔力を物理的衝撃へ変化させた攻撃。
 しかし、純粋だからこそ威力は膨大。ただ、敵を灰燼に帰すだけが目的の一撃。
 その一撃が『魔王』を飲み込んでいった。
 ……誰しもが、そう見えたはずだ。
 だが、目撃する。『魔王』は光の中、その魔剣を地面に向けて振るうのを……
 その『魔王』の行動、目的を、俺は理解する―——否。理解できてしまった。

 (この魔法を切断するつもりだと!?)

 その思考は発想すら馬鹿馬鹿しく、無謀にしか思えない。
 それをこの男はなやり遂げてしまった。
 まるでモーゼの十戒を取り扱った映画のワンシーン。
 神への祈りで海を真っ二つにするが如く―——
 『魔王』はその魔剣を持って、魔法を切断した。
 魔剣の先端から二つに切られ、『魔王』を避けるように放射された魔力。
 そして、その魔力も時間と共に尽き果て……
 『魔王』は無傷のまま。
 結界を切り裂き、破壊した。 

 「に、人間技を超えてる」
 シーンと静まり返った室内に、ポツリと呟いた俺の声のみが広がっていく。
 しかし……しかしだ。
 遠く離れ、翌日に鑑賞している俺の言葉に反応したかのよう『魔王』は言う。
 「これは、まだ人の業ぬ過ぎぬ。ダージュ、お前なら理解できるであろう?」
 ダージュは無言。その額から流れる汗から疲労を隠せずにいる。
 「貴様……!?貴様は、ワシを相手に魔法なしで倒そうとしているのか?」
 その言葉にハッ!と気づかされる。
 『魔王』は剣技のみで戦っていた。その巨大であるはずの魔力を使用せずに―——

 「その通りだ。いい加減、冥土で隠居生活を楽しみやがれ!」

 『魔王』の踏み込みは、飛翔するが如く速い。
 今までの戦い、魔法を切断する事にしか使っていなかった魔剣を振りかざし―——
 一瞬で剣の間合いに入り込む。そして、剣を振り下ろし……

 「うわあぁぁぁぁぁぁ!?」

 その叫び声が誰のものか、瞬時に把握できなかった。
 その間抜けた叫び声は『魔王』の口から発せられ、『魔王』自身は吹き飛んでいた。
 そのまま、『魔王』は国境の壁を越え、自陣まで飛んで行った。
 一体、何が起こったのか?
 「やれやれ、危ない所じゃったよ」
 映像のダージュは誰かに話しかける。
 そして新たな人物がフレームインしてきた。
 その人物は、探究者シェルだった。
 どこか、バイクの形状に近い乗り物に跨り、肩にはバズーカのような武器を担いでいた。
 あのバズーカで『魔王』を吹き飛ばしたのか?

 そこで動画は途切れた。
 混乱する。まるで悪夢のような映像だった。

 

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