異世界リベンジャー

チョーカー

火野烈弥VSクルス

 俺は半壊した屋敷へ飛び込む。
 今まで、どこに潜んでいたのか?俺と同時に味方の騎士たちも雪崩込んでいく。
 屋敷の内部は破壊の後が深く爪痕を残していた。
 味方騎士達は散開し、内部の制圧に向かった。完全な統制が取れた彼らは、自分の役割を果たそうと動く。
 残された俺に、自分たちの司令官を頼んだと視線で合図を送り、俺は無言で答えて、足を進める。
 屋敷の深層部へ進むにつれ、静けさが増していく。それに比例して、感知するのは異常な魔力量。
 不安が募っていく。その根元は近い。
 クルスの姿を捉えた。 そしてもう1人―——おそらくは彼が火野烈弥。
 黒く薄い着物のような服装。その姿は、まるでサムライ。
 体は線が細く見えるも、それは長身ゆえ。 乱れた胸元から鍛えられた筋肉が見えている。
 クルスと烈弥。ぶつかり合っている両者から外部に向けて魔力の余波が放出され、近づくことすら困難。
 クルスの魔力を使用した一撃。建物すら破壊するソレを烈弥は受けていた。
 素手、それも片手……
 それでクルスと烈弥の魔力は拮抗。行き場を失った魔力が両者を中心に渦巻いている。
 拮抗が崩れた時、その魔力の吹き溜まりが片方へと襲い掛かってくるだろう。
 だが、結果は見えている。
 クルスの体にいくつもの裂傷が見え、血が流れ出ている。軽装の鎧も崩れ落ちている。
 おそらく、クルスがボロボロなのは、烈弥の攻撃によるものではない。
 彼女は肉体強化や対衝撃の魔法を使用している。だが、それは最低限の魔力。
 ほとんどの魔力を、自身の推進力へ転換。
 それにより与えられた恩賞は、空気を切り裂き、音速を超える最速の一撃。
 その代償が傷として体にいくつも刻まれている。
 しかし、そこまでして放たれた一撃を烈弥は涼しい顔で受け止めている。
 到底、信じがたい光景だ。
 クルスの突き技。
 通常時―——つまり魔力を使用していない状態での一撃で、死にかけた経験を俺は持っている。
 だから、こそ、その威力に想像がつく。さらには10人分の魔力によってブーストされ、加速されたソレを受け止めれる生物。
 それが火野烈弥……
 不意に彼がこちらに視線を向ける。
 いままで無表情だった彼が突然に「ニタァ」と笑いを浮かべる。
 凶悪で獰猛な笑い。
 そして、クルスと烈弥の拮抗が崩れた。
 魔力というエネルギーのぶつかり合い。
 だからこそ、引けば、その場に留まる魔力が一気に押し込んでくる。
 引けば負け。だからこそ、クルスの行動が信じされなかった。
 彼女は自ら後ろに飛び、引いたのだ。
 「何!?」
 そう叫んだのは俺か?烈弥だったのか?
 魔力が猛牛のように暴れ狂い。やがてクルスへの通り道を発見する。
 だが、その直前……魔力がクルスに襲い掛かる直前に彼女は喋った。

 「秘剣イカズチは対魔人を想定した技。この技の真骨頂は―——―——ここからだ!」

 彼女の下半身。10人から支援を受けた魔力の残存は……
 それを確認した直後、俺は驚きの声を隠せなかった。
 「残り5割程度!?半分しか使っていない!」
 「その通りだユズル。よく見ておけ。これが私の突き技―——

 魔装二陣限定解除 秘剣イカズチ 第二之太刀発動」

 その声が俺の耳に届いた時、クルスの姿は消えていた。
 いやクルスだけではない。烈弥の姿もない。
 残ってるは、その場に留まっていた魔力。それが質量を手に入れて、クルスの立っていた場所を押しつぶしていた。
 一体、何が起こったのか?
 クルスは何らかの技を発動した。その後は、俺の認識を越えた超スピードによる何かが行われた……はず。
 辺りに散らばった膨大な魔力。その中から、僅かに残るクルスの魔力を探す。
 そして推理を開始した。
 おそらく、あの技だ。『魔王』が大魔導士ダージュの魔力を剣で切り裂いた技。
 それと同じことをクルスはやって見せたのだ。
 自分に向かう魔力を切り裂き進んだ。
 音を―—— 空気を―—— 魔力を―—— あるいは空間そのものを―——
 クルスが通過した背後、切断された空間が元に戻ろうとする力が生じる。
 そのエネルギーを背後に受け、さらなる加速を得てクルスは―——
 火野烈弥に到達した。……そのはずだ。
 ならば、2人はどこに?どこに消えた?

 近くで何かが崩れる音がする。
 半壊した屋敷内で瓦礫と化した壁の一部がバランスを崩し、剥がれ落ちたのか? 
 いや、違う。下に人がいる。
 瓦礫の下敷きになっていたソイツは力ずくで瓦礫から脱出。
 俺に姿を見せる。
 ソイツの正体は、烈弥だった。
 胸を抑えている手。その掌から薄緑の色が零れている。
 治癒魔法の光。しかし、治癒魔法の効果も虚しく、手の隙間から大量の血液が流れ落ちている。
 そう、彼の胸、その真ん中にポッカリと穴が開いている。
 クルスが放った突きが彼の胸を貫いた証拠だった。
 よく人間の心臓の位置は体の左側と言う。そのためか、多くの人が左胸に心臓があると勘違いしている。しかし、実際に心臓の位置は体の中心。
 烈弥は心臓を貫かれて、生き続けている。治癒魔法や『魔人』の生命力だけによるものではない。
 肉体変化で新たな心臓を作っているのか?
 いや、考察はもういい。クルスはどこへ?
 ―――ゾッと悪寒が走る。
 あのぶつかり合いで、烈弥はなぜ瓦礫の下敷きになっていたのか?
 なぜ、クルスの一撃で吹き飛ばされていないのか?
 すぐ近場に立ち上がっている彼を見る。次に見上げたのは空。
 屋敷の天井は吹き飛んでいた。見えるのは巨大な月。
 地上に降り注ぐ、月明かりの中に何かがいる―——否。何かが落下している。
 その存在に気がつくと同時に風魔法を発動。全てを忘れ、月へ向かい飛び上がった。
 やはり、というべきか。上昇していくにつれ明らかになっていくソレ。
 ソレはクルスだった。
 烈弥が吹き飛ばれていなかったのは、クルスの突きに耐えきったからだ。
 俺がクルスと戦った時、俺は、彼女の突きを弾いて強引に軌道を変える事でカウンターを放ったが……
 この戦いで行われた事も同じなのだろう。
 クルスに胸を突かれた烈弥。だが、その最中―——
 心臓を潰されても、動き続けてクルスの一撃を、その軌道を上部へ向けて逸らす事に成功したのだろう。
 全ての力を使い果たしたクルスは、意識を失っている。
 俺は空中で―——できるだけ優しく―——彼女を受け止めた。
 ダメージが酷い。それよりも体力を使い果たし、あらゆる面で彼女は弱っている。
 ゆっくりと自由落下よりも遅く。彼女を気遣いながら地面へ向かう。
 できるだけ着地の衝撃をなくす。
 浮遊中、さっき見た烈弥の治癒魔法を再現し、クルスに施してみたが彼女の意識は戻らない。
 治療の専門家。せめて、サポートの味方に見せないと……
 だが、その前に……
 俺は火野烈弥を見る。
 彼が浮かべるのは獰猛な笑み。貫かれた胸は、既にふさがっている。
 もう、心臓がどうなっているのかは分からない。
 完治したのか、それとも擬似的な心臓を作ったのか?
 そんな事はどうでもいいだろう。
 どうやら、彼を倒さない限り、ここから出れないみたいだ。

 

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