塵芥の塔〜Svres uoy thgir !  -The funeral hall of ruins-

ノコギリギリギリ

塵芥の塔〜Svres uoy thgir !  -The funeral hall of ruins-



 ツー ツー ツー チンッ
 ツー ツー ツー チンッ
 ツー ツー ツー チンッ



――ざくっ、ざくっ、
 シャベルが土を抉る、正にその音だけがこのゴミだらけの世界を満たしていた。
――ざくっ、ざくっ、
 ぼろぼろの衣服。真っ白な内巻の髪。深く沈んだ瞳。そして何より傷から見える、人間ならまずあり得ない木と金具。
「ふう……」
 最後に固めた土に半壊した、枝をロープで括っただけの十字架を刺し、そして汗をかいてもいないのに拭う動作だけをした。他に動いていた筈であろうモノの影はあるが動く様な影は、ない。ただ辺り一面、ゴミが散らばっていた。
 人間だって死んでしまえば役に立たない点では殆どゴミと一緒なのだ。ゴミはいずれ土に還る。死体もいずれ土に還る。
「次」
 余りにも幼く、かつ不自然な声と発音で、答える者も亡く、そうぽつりと呟いた。

  

 今から230年程前、天体望遠博物館が近辺を巻き込む大規模な爆発事故を起こした。死者数万人、約2,400オリク(1オリク=約1キロメートル)範囲内をよくて半壊、最悪無に帰させた前代未聞の大災害である。
 その中心がある複製品であると判明したのは近年、ある旅人がそこを訪れたことだった。 そしてその被害によりヒトの住めなくなった地域を『死者の国』と何時からか、本当に何時からかそう呼ばれるようになっていた。
 訪れる旅人も、少ない。

  *

 ごみ処理用機械人形はその死者の国を少しでもマトモにする為に開発された――訳ではない。結果的にそうなっているだけで、元々はその名の通り、ごみを処理するだけに作られたのだった。
 しかしマレ・シルワの『現代文語辞典』によると、『科学者に作られ、意思をもつ人形のこと。ロボット。』と記されている。
 その為意志を持ちすぎて仕事を投げ出すごみ処理用機械人形も後を絶たなかった。 そしてその後、あの天体望遠博物館の爆発事故に巻き込まれ、現状報告に行っていた機械人形以外が全て壊れた。否、吹っ飛んだ。その現状報告に行っていた機械人形が、即ちこの最後の機械人形なのだ。

  

約230年前
「…………」
 彼が報告から戻るとそこはゴミの山だった。
「……なにこれ……」
 自分の友人や幼馴染が木片と鉄塊となって、バラバラなって転がっていた。
 “親”も肉塊となって紅い水と肉を撒き散らして、バラバラになって転がっていた。
「……」
 叩いても、動かない。否、動くはずも無い。当たり前だ。彼らは完全に壊れてしまったのだから。
 あの爆発事故を直に受けたのだ。
 それでも彼にはそれを理解することが出来なかった。
「悪い冗談……?」
 感情がまったく込められていない、抑揚の無い声で呟く。しかし、そのガラス硝子の眸に見え隠れする深い黒は果てしなく、間違いなく絶望によるものだった。

――ツー ツー ツー チンッ
――ツー ツー ツー チンッ
――ツー ツー ツー チンッ

 心臓代理の鉦が、しかしインテンポで音を紡ぎ出す。
 そういえばそうだ。今日は何時に無く静かじゃないか。あの騒がしい鉦の音が今日は自分のものしか聞こえない。
「……そんな」
 つまり、それは自分以外の全て此処の機械人形が壊れてしまった、そのことに他ならない。
 何故?人間は心臓が止まれば死ぬ。それと同じことなのだ。
 機械人形にとって壊れるとは、つまり死んだのも同然。
「……ぼく……だけ…………?」
 体から力が抜けた。そのまま膝をすり、木がメキメキと音を立てて倒れこむ。
「…一人ぼっち……?」
 そして最期の機械人形は泣く事も出来ず、しかし、それでも泣き続けた。
 泣くというプログラムは機械人形には必要ない。それだけの理由で彼は泣く事ができなかった。

 泣きやんだ頃、彼は、一声、こう叫んだ。
「Svres uoy thgir !」
 今まで真剣に役目を果たしてきた自分を散々馬鹿にした目の前の残骸たちに向けて叫んだ。
「Svres uoy thgir !」
 醜く、口元が歪む。
「Svres uoy thgir !」
 ただ、彼らを罵り続けた。機械人形を動かすのは疎みか、憎しみか。


「…スヴェレス……ウォユ、……スギェアァァーーーー……ッッ!!」






 しばらく叫び、己の中の火も鎮火された頃、忌々しき、遠い天体望遠博物館を睨め付けた。
 ただ、そこには廃墟があるだけだった。
 それでも誰かの苦痛な嗚咽と叫びが――それも、人間等の生きたものではない何かのものが――嫌に風通しのよくなったその廃墟島から聞こえた気がした。 死に切れなかった、人間の御霊だろうか?それとも残された遺族のものか。ただ、自分にそれを知るすべが無いというのだけが事実なのだ。 
 自分は機械人形。
 ごみだけを処理していればいい。
 だから他人の心理の模索など、一般人が国家機密をさぐる、それ以上に無意味なことなのだ。
「…………」
 そして、自分のやっていることの滑稽さが、胸の中に、む、と沸いて出てきた。
 なんでこんなことに気がつかなかった?

 こんなことしたって、だれも褒めてくれはしない。
 だれも、見てはくれない。
 だれも、来てはくれない。
 何故?……だれも、自分のことなんて知らないからだ。

――じゃあ。
――じゃあ、今まで自分がやってきたことは?

 自分のやってきたこと。
 その意義と意味と意実を容量の少ないデータの中で、暗中模索に考え続け、そして、やはり『無意味だった』という空っぽな回答しか出ないのだった。
 己の存在意義とはそんな空っぽだったのだろうか。
 ならば何故自分は存在する?

――それは、ごみを処理するためだけ。

 存在理由しか存在しない、その虚無さが彼の中で駆け回る。
 そして、バグを起こしたかのように同じことしか考えられなくなり、輪廻を起こす。
 自分の存在意味。自分の存在意義。自分の存在実。自分の存在価値。自分の存在理由。そして、それらの無意味さと虚無さと空白さ。
「はは……」 そして、不気味な笑みを浮かべると、背中に挿してあったシャベルを自分の喉に勢いよく突き刺した。



  

「…  ……       !………」
「         ?」
「           ?」
「    。   、   」

  

「…………」
 何で自分はまだ生きている?存在している?
 死ぬことを覚悟で、壊れるつもりで、自分の首に身の丈ほどのスコップを突き刺したのに。何故壊れてない?何故存在している?なぜ何故ナゼ何故なゼ何故ナぜ何故なぜ何是なぜ那故なぜ何故????
 自分の意識さえ呑み込まん程の『何故』が頭の中を駆け巡る。
 考えても思い当たるフシが無かった。 考えて頭が痛くなって、考えるのをやめた。
 考えて、何も思いつかなかったから、諦めて仕事をすることにした。
 諦めた末の、結論。誰だって、大半が諦めた末の選択なのだ。望んでも何も叶いやしないと知った。どれだけ頑張っても誰も見てはくれないと知った。どれだけ足掻いても、誰もが自分を嗤うことを知った。全て無に帰す事を知った。
 だから、全てを破棄した。何か、希望だとか、望みだとか、そんな幻想の果ての果てのようなものを抱かなくなった。全てを諦めた。

――ざくっ、ざくっ、
 諦めて、諦め続けて、何年もたった。何百年もたった。
――ざくっ、ざくっ、
 それでもその音は消えない。
「ふう……」
穴を掘り終えた彼は、流れることの無い汗をぬぐう動作をし、

「おわり」

 幸せそうに呟いて、穴に飛び込み、シャベルを不安定な塵芥の塔に投げつけた。
 次期に、あの音も聞こえなくなるだろう。

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