ご不要な魔導書買い取ります

夙多史

Page-31 落下地点にて

 真夜は一階の家庭科室にいた。
 天上を仰ぐと丸い穴が屋上まで貫通し、室内を見回すと調理台が二台ひしゃげている。幸いガス漏れ等が起こっている様子はない。
「……油断した」
 あと一瞬〝粋護〟の魔導書の発動が遅れていたら、真夜はそこの調理台よりも酷い運命を辿っていたことだろう。
 流石に一級の強力な一撃に〝粋護〟は数瞬しか持たなかったが、その間に〝浮遊〟の魔導書の出力を上げてかろうじて叩きつけられることは免れたのだ。
「……」
 警戒するも、理音は追ってこない。どこかに潜んでいるのかと考えて移動しようとした時、違和感に気づく。
「……姉さんか」
 建物に魔術によるプロテクトがかけられていたのだ。こうなっては〝浸透〟の魔導書はなんの役にも立たない。ただの魔術書同然だ。
 となれば、理音はまだ屋上にいるのだろう。
 魔剣を握り直し、左手の〝浮遊〟の魔導書に魔力を喰わせる。
 と、その時だった。
『理音ちゃん!!』
 屋上の方から、逃がしたはずの少女の叫び声が耳に届いた。
「……あのアホが」
 真夜は呆れと苛立ちが混じった口調で呟く。戦闘に巻き込まないよう配慮したのに、これでは意味がない。
 真夜は舌打ちすると、貫通した穴を通って屋上に向かった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品