白雪姫の継母に転生しました。【連載版】

天音 神珀 @mihaku_21

82.apple

「まず、姫の十分な休養についてだが――」

 と、ノアフェスが言ったところで、「はい!」と手が挙がった。

「うむ。リリツァス」
「俺、俺! 子守唄を歌ったらどうかなって思います! へちっ」
「子守唄……?」

 リリツァスの提案に、全員が顔を見合わせる。

「子守唄と言うのはあんな年齢になっても通用するのか?」
「えー、個人的にかなり面白い絵面なんだけど、それ。大の大人の男が年頃の女の子囲んで子守唄合唱すんの? 何その暑苦しい光景。今は面白さ求めてるわけじゃないでしょ」
「でも! 子守唄って寝つき良くなるからうたうんでしょ?」
「こもりうた……きいたことない。どんなの?」

 エルシャスの問いに、全員が押し黙る。

「誰もわからないのでは話にならないではありませんか」
「いや待て。何となく……何となく、覚えがあるぞ。あれだ」

 ノアフェスは咳ばらいをし、眼を閉じた。そして、

「ねーんねーんこーろーりーよーおこーろーりーよー……」

 と、歌いだしたところで、ユンファスが手を挙げた。

「ストップ。何その辛気臭い唄」
「子守唄だろ」
「いや、無理だって。しかも何言ってるのかわかんない。なに、ねんねんって」
「要は、寝ろと言うことだろう」
「やめよう、ダメだそれ。暗すぎて姫が泣く。永久的に寝ろって言われてるみたい」
「ええと、そこまでは思わないけど……とりあえず聞いたことない唄だし、姫には馴染みがないんじゃない?」
「ノアフェスの国は姫とほぼ縁がないでしょうしね……その唄もわからないでしょう。それでは寝ようとしている時に突然暗い歌を耳元で延々聞かされるという半分地獄のような絵面になるのではありませんか」
「最低じゃん寝られないまさに悪夢」
「ふむ。駄目か」
「駄目だねぇ」
「ぼくうたう」
「へ?」

 突然の意外すぎる発言に、全員の視線が小さな妖精へと向かった。

 当の本人――エルシャスは特に視線を気にした風もなく、大きく息を吸い込むと、

「あーあーうー。うーあーあーあー」
「待って待って待って待ってへちっ」

 リズムもメロディもない大声に、全員が制止を掛ける。エルシャスはきょとんとした顔になると、首を傾げた。

「……だめだった?」
「ご……ごめんね。ちょっと声が大きいから、姫もきっと起きちゃうだろうし。それに、それは多分子守唄じゃないよね」

 だから今回はやめよう?と、カーチェスが穏やかに却下を言い渡す。

「っていうか何歌おうとしたのエルシャス」
「つくったの」
「……うん。だよね」

 ユンファスはため息をつくと、頭を掻いた。それに、エルシャスがしょんぼりと肩を落とす。カーチェスは慰めるようにその肩をポンポンと軽く叩いた。

「子守唄はなし? へちっ」

 リリツァスがそう問うと、「待って」とカーチェスが口をはさんだ。

「もしかしたら、思い出したかもしれない」
「え」
「何だ、歌えるのか?」
「ええと……あんまり自信はないんだけどね……」
「自信がなくてもこの際いいでしょう。とりあえず歌ってみてください」
「……あんまり歌は得意じゃないんだけど……」
「赤くなってないで歌ってみてって」

 ユンファスの言葉に、カーチェスは困ったように視線を彷徨わせたが、暫くしてから息を吸い込んだ。
 それから。

「いとし子よ 眠れよや
 軒端を叩く 雨さえ耐えて長深き眠り
 やさしく見守る
 眠れよ あこよ 安らかに」

 カーチェスの柔らかな歌声に、ややその場はしんと静まり返る。
 思わず聞き入ってしまうほどには、彼の歌声は優しく温かかった。
 しかし歌い終わった当人はやはり恥ずかしげに首を傾げる。

「……変……だった? ごめんね、歌はあんまり得意じゃないんだ」
「いい」

 エルシャスがぽつんとそう呟いた。そして、ぱちぱちと拍手を始める。ついで、

「確かに……寝つき良くなりそうだよね。いいんじゃない、これ?」

 とユンファスが頷くと、全員も頷き始めた。

「ふむ、悪くないんじゃないか。これならあいつも眠れるやもしれん」
「眠れるかなぁ……」
「自信を持て。何事も自信が一番だ」
「カーチェス……がんばって……」
「そうだよ、頑張って! 姫が死んじゃわないように! ひちっ」
「そ、そうだね……そうだよね」
「それなら早いうちに彼女の元へ行きましょう」

 そう言って全員が席を立った時、地下からルーヴァスが階段を上ってきた。

「……皆揃ってどうした?」
「ねぇ、姫の様子はどう!? へちっ」
「姫か? 彼女なら今しがた眠りについたところだ」
「つまり、眠ってしまったのですか」
「しまった……? ああ、そうだが」
「では意味がないではありませんか」
「は?」
「じゃあ駄目じゃん。次の案上げよう、次の」
「了解! へちゅっ」
「つぎ……なにがいいかな」
「ふむ。どうしたもんか」

 それぞれが再び席に着くと、状況を理解していないルーヴァスは訝しげに彼らを一瞥したが、特に何も言わずに台所へと向かっていった。

「では、引き続き会議を行う」
「次はどうします」
「休養は今のところどうにもできん。残るのは栄養だ。すぐ元気になるよう、精のつく食べ物がいいだろう。何がある?」
「栄養が大切……ってことはあれかなぁ。半分、食事が薬みたいな感じ?」
「そういうこと……になるのかな?」
「ふむ。良薬口に苦しと言うことわざを聞いたことがあるな」
「つまり体にいいものって苦いんじゃない?」

 ユンファスの発言に、全員が「それだ」と言う顔になる。

「本で読んだけど、薬は不味いっていうしね」

 カーチェスがそう言うと、リリツァスも頷いた。

「俺舐めたことあるけど、すっごく変な味したよ! まずかった! へくしゅっ」
「なんでそんなもの舐めてんの」
「にがかった……?」
「えっと……不味い印象しかないけど、苦かった、かも」
「ならば決定ですね。体にいいものは不味く、苦いのでしょう。ですがまあ、不味いの基準はひとによって異なりますし、ここは苦いものとした方がいいかもしれませんが」

 シルヴィスがはっきりと言い切る。

「じゃああれかなー。苦いものをとにかく集めてスープとか作ったりしたらいいんじゃない?」
「お前冴えてるな」
「そう? じゃ、苦いものを各自集めて来ようよ」
「にがいもの……なんでもいいの?」

 エルシャスがそう聞くと、ノアフェスが大きく首肯を返す。

「何でもいい。薬になりそうなものを全員でかき集めよう。そして……そうだな、一時間後にここに集合し、そこから料理を検討しよう」
「了解!」



 ――地獄が始まったことなど知る由もない少女は、まだまどろみの中にいる。

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