どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

5

 「おい、あれから3日たったぞ」
「そうじゃのぅ…あれから3日かぁ」
「しみじみ茶を飲むな、俺の話を聞け」

魔王ロアに拐われて日々辛い事続きだ、ま簡単に言えば逃げようとすればその前に関知して捕らえられるし、ロアは何処に行くにも俺に付きまとってくるのだ、食事や睡眠は勿論入浴そしてトイレまで付いてくる、ニヤニヤ笑ってうんざり顔の俺に「くふふふふ……」と言って手を繋いだりしてくる、俺が冷たい態度を取っても無視……ロアは気にせず俺に付いてくる、そして今現在俺はロアの自室でお茶会をしている、俺は断ったが強制的に連れてこられた……俺に拒否権は無いらしい、高級感溢れる椅子に深く腰掛け紅茶を飲むロア、丸いテーブルを挟んだ先に俺はいる、因みにロアの後ろにはメイドのヴァームがいた、笑顔でじっと立ってただ真っ直ぐ一点を見つめている。

「何度もはっきり言ったよな? 俺はお前の婚約は受けられないって」
「確かに何度も言っておるのぉ…じゃが断る」
びしっときめ顔で言うロアを殴ってやりたい……何なんだこの魔王は! 自分勝手過ぎるだろ。

「こう言うのってお互いの気持ちが大事だろ?」
「そうじゃの、とても大事じゃ」

手に持ったカップを置き俺の頬を触ってくる、凄く色っぽい顔をしてさわさわと撫でてくる、それを手で振り払う、いちいち触ってくるなよ…。

「シルクよ、わらわも言った筈じゃ、必ず惚れさせるとな」

白い歯を見せ憎たらしく笑う……あぁ、ちくしょぅ、誰かこいつを止めてくれる人はいないのかよ。

「はぁ……何で俺なんだよ」
「ん? 何の事じゃ?」

ぐっ、こいつ分かってて聞いてるな? 顔が笑ってるんだよ! 前屈みになって、じぃーと俺を見つめて来るロア、あんまり見るなよ……恥ずかしくなるだろ…。

「何って……けっ結婚の事に決まってるだろ」
「あぁ、その事か」

恥ずかしがって顔を真っ赤にする俺を見てから、ぽむっと手を叩くのを見てわざとらしいんだよ! と心の中で突っ込みを入れる、するとロアは俺の顔を持ちつつ椅子から立ち上がり顔を近付けて来た、ちっ近い……唇が近いしほんのりと良い匂いがする、どきっと心臓が鼓動する……くっ、絶対に面白がってやってるだろ……。

「選んだ理由は至極簡単じゃ…見ておったからのぅ」
「……は? 見てたってどう言う事だよ」
「ふふふ、秘密じゃ」

ペロンと小さく舌を出すロア、何だか可愛いと思ってしまった……とっ取り敢えずコイツをこれ以上見たらどうにかなりそうだ、横を向いていよう……と視線を反らした時だ。

「こらっ、何処を向いておる!」

その瞬間、強引に元に戻され更に唇を近付けてくる。

「おっおい! 近いぞっ、離れろ!」
「いやじゃっ! わらわはシルクを離したくないのじゃ!」

嫌がる俺に反論を言わせまいとロアは俺の唇を奪う

「んっ……っ!」

むにむにとした唇……この感触はこれで何度目だ? また、俺はロアにキスをされてしまった、勿論俺は慌てまくる、じたばたと手足を動かしロアから離れようとするがロアががっちりと俺に抱き着いてくるから離れられない……くそっ、こんな時だってのにロアから良い匂いがして頭がどうにかなってしまいそうだ!

「ぷはっ……相変わらず、キスをされると硬くなるのぅ」

唇を離し悪戯っ娘の笑み…完全に弄ばれてる。

「うっせ……ばか」
「くふふふ、まだキスをする必要があるようじゃのぅ、しかしこの体制はしんどいのぅ……」

ずっと、前屈みのロア……その体制では身体がしんどくもなるだろう、と言うかしんどいならもう止めてくれ! 俺の身体が持たないぞ!

「もう、止めてくれないか? 俺は気持ち的にしんどいんだが……」
「ではそちらに行こうかの」

俺の言葉は無視か? 至近距離だから聞こえてんだろっ! と言おうと思ったが止めた、何故かって? 無駄なのが目に見えてるからだ。

「おい、此方に来るな!」

俺の座る椅子に強引に座ってくる、むっむむっ胸が当たってる……やっ柔らかい、くそっ! 俺の中の煩悩よ消え去れ!

「良いではないか……ん? シルクよ、紅茶飲んでおらんのぅ」
「こんな状況で茶なんか飲めるか!」

魔王とはいえロアは女性……此方はかなり気まずいんだ、いきなりの婚約に加えて環境も変わった……お茶を飲む気力も湧かない、と言うか色々驚かされ過ぎて茶なんて飲む気力がない……。

「それはいかんのぅ……これは最高級の紅茶じゃと言うに」
「なら、ロアが飲めばいいだろ?」

ため息をつきつつも、ロアの方へティーカップを寄せる。

「ふむ、では貰おうかの…」

ロアは2杯目の紅茶を飲む…駄目だ、さっきからロアの唇に目が行ってしまう、顔も赤くなってるのが分かる、いっ意識してるのか俺……すっ少なくともしてるんだろう、身体は正直だ……認めたく無いが、これは事実なんだ、認めだるをえないか……その時だった、ロアが俺の顎を持つ、あぁ……これはあれだ、またキスされてしまう流れだ。

「……くっ!」

近いっ! 顔が……ちっちかい、やはりキスをされてしまった。

「……んっ、んぐっ」

いや、今度のは只のキスじゃない、キスされながら紅茶を飲まされてる…、ロアは俺の身体に抱き付きキスをしてくる、口の中に含んだ紅茶を俺の口に流し込んでくる、くっ苦しい……離れようとするが当然離してくれない、ぎゅっと抱き付く力が増す…その度に柔かな大きな胸が俺の胸に押し付けられる……理性が壊れる、早く退いてくれ! そんな意味を込めてロアの肩を叩くが、その思いが通じる事なく、ロアはキスを交わしながら俺をじっと熱い目線で見つめて来る、俺はと言うと、視点が定まっていない……ずっと身体が震えている、こんなの冷静にいられる訳無い……。

「はむっ……んっ」

ロアが小さな声を上げる、なんだよ可愛い声だすなよ……くそっ、俺は何を考えてるんだ! こっこんな事してくるって事はロアは本当に俺の事が好きなんだよな? だから何度もキスをしてくるのか……俺の脳内でぐるぐると考えが浮かぶ、その時だ……ロアの舌の動きが変わり始める。

「んちゅっ……」

くちゅんっとロアの舌が俺の咥内に入って来た。

「っっ!?」

何とも言えない感覚が俺を襲った、紅茶が俺の頬を伝う……やばい……やばいぞ! これはまじで……もう本当にやばい! かっ身体が熱い……こっこんなの、はっ始めて……。

「んふふ…」

こっこいつ笑いやがった、ぐっぐぬぬぬ! 何時までキスする気だっ
もう紅茶は無いだろ!、少し息苦しくなった俺は鼻で呼吸している、するとロアはやっと唇を離してくれる、しかし身体は離してくれなかった。

「今、軽く感じておったのぅ」
「おまっ、バカっ! そんな事っあっあるわけ無い! とっとにかくはっ離れろよ!」

暴れる、恥ずかしさの.あまり暴れまくる、だが悲しいかな……俺じゃ力不足だ、自力で引き剥がせない…。

「顔を真っ赤にしながら小動物の様に震え気持ち良さそうに眼を細めておったぞ?」
「そんな顔、微塵もしてない!」

身体が震えてたのは認めるけどな!

「ばっちり映像に納めましたよロア様、これでシルクさんは言い逃れは出来ません」
「でかしたヴァームっ」
「何余計な事してるんだよ!」

動かないと思ったらとんでも無い事してやがった! そのカメラどっから出したんだよ!

「シルクの唇の味は最高じゃのぅ…良かったらわらわの唇の味を教えて欲しいのじゃが…」

上目使いで見つめるロアを睨み付けながら言ってやった。

「言うと思うか? あっこの後、分からぬのならもう一度するって言うなよ?」
「おぉっ! 流石シルクじゃ、ワラワの言う事を予測するとは……興味が無い素振りをしているが実はわらわを好いておるな?」
「……もう、勝手に言ってろよ」

むぎゅーっと抱き付く力がまた増した、その度に胸が強く当たる……俺の胸に当たって形を変えてるのが分かる……一瞬みいってしまった俺よしっかりするんだ!

「のぅ、シルクよ」

自分の髪を撫でるロア、何だ? なんだよ急に……えらくしんみりした顔をして……また変な事を言うんじゃ無いだろうな。

「何だよ…」
「いや、何でも無い…」

ん? 気になるな…するとロアは俺から離れていく、やっと離れてくれたか…ロアは俺の手を取り立ち上がらせる、安心したのも束の間、また何かされると思った時だった、にこっと笑いながらロアはとんでもない事を言ってきた。

「店」
「は?」

なんだ? 突然、何を言い出すんだ?

「そなたに店をやろう!」
「……は?」

本当に何を言っている? あっ……そう言えば似たような事言ってたよな、と言うかロアよ、お前は俺の店が欲しいって言ったよな? それは何処に行ったんだよ……。

「結婚する上で稼ぎは大事じゃ! わらわが店を用意するからそなたは品物を調達すると良い! 付き人にヴァームを連れていくと良い」
「話がとんでもない方向に言ってるの分かってるか? てって言うか……俺の店が欲しいんじゃなかったのか?」

と、俺の言葉を「ふんふーん」と言う鼻歌でスルー……何なんだよこいつ! さっきのキス騒動から今度は店をくれる? いらないよ! それより俺を家に返せよっ!

「シルクよ、嫌がっても良い、わらわを嫌うのも良し…最後には必ずそなたをわらわの虜にしてやるのじゃ」

ウインクするロア、魔王を惚れさせてしまった俺……と言うか、その自覚は俺には全くもって無い……間違いなく初対面だ、なのに何故ロアはこんなにも俺を好きなんだ?

「まっ、取り敢えず今は商品集めじゃ! 頑張ると良いぞっ」
「何勝手に決めてるんだ!? 俺は行くとも一言も……」
「行きますよシルクさん」

有無を言わせずヴァームが俺をお姫様抱っこする。

「おっおいっ、降ろせっ! ふざけんなっ、お前等拒否権って言葉知ってんのか! ばかやろぅぅっ!」

力一杯叫ぶも俺は抵抗虚しくヴァームに連れられ部屋から出て行く、その様子を微笑みながら見ていたロアに何時か必ず叩いてやりたい…はぁ、こんな日常俺は求めていない…はぁ、誰か変わってくれるなら変わって欲しいぜ…喜んで俺は変わってやる、あっ、ここで羨ましいと思った奴、お前等も実際に経験してみると良い、此処はまじで精神的にきつくなる、俺はもうとっくに限界を超えている……だから倒れる前に誰かが助けてくれる事をずっと願っている、あぁ神様仏様……俺をお救い下さいお願いします、と呑気に願っている場合では無いとこの時思うべきだった、まさか俺の身にあんな事が起きるなんて、この時は微塵も思っていなかった。

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