どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

92

突然の嵐に城に帰って来た俺とロア……だが城に入って来たのは俺達だけでは無かった、何か知らんが突然の再開を果たしたアヤネとヘッグも城の中に入っている……まぁ、そんな事もありつつも今俺達がいるのは玄関だ。

雨に濡れたまま入ったらそこに偶然ヴァームがいて「拭く物を持ってくるのでお待ち下さい」と言われたので待っている、その際知らない顔であるアヤネを見た時にペコリと一礼していた、それに合わせる様にアヤネも頭を下げる。
突然の来客にも動じない……こう言う所を見ると流石メイドだなぁと思ってしまう。

あっそうだ……そのアヤネの事だが城に入る時だ、番犬のケルベロスことケールと出会ったんだ、嵐にも関わらず動かずに入り口に立っていた、その時見知らぬ人だったアヤネに向かって飛び込んだが物の数秒であった……素早い手付きでケールを撫で回しなつかせてしまった、あっアヤネもある意味凄いのかも知れない……で、ヴァームを待っている間……急に始まったロアとアヤネの口喧嘩を見ている。

「おいっまな板っシルクから離れんか!」
「むっ……そっちこそ離れて水風船」

さて問題だ、俺を挟んで両側から言い合いをしている、もの凄く煩いし困っている、俺はただこうして黙ったままなのか? どうすれば良いんだ。

「おいおいレディ達、そろそろ止めたまえ、男の娘……いや今は女の子だったね」
「呼び方は男の娘で結構だ!」

オマケに自分の格好よさを見せ付けつつ軽く注意だけを促すヘッグ……しかも女の子って言いやがった、それならば男の娘さんって呼ばれた方が大分ましだ。

「はっはぁっ!ならばそう呼ばせて貰おうっ……」

ぴしっとポーズを決めるヘッグ……あんまり身体を動かすなよ水飛沫がこっちに飛んで来ただろう。

「なっ……みっ水風船じゃと?」
「そっちこそまな板って言った、ゆるさない」

って、まだ言い合っているのか?そろそろ止めて欲しいんだが……まだまだ続くんだろうな。

「だっ大体胸ぺたーんはシルクの何なんじゃ!」
「胸ばいーんは馬鹿なの? さっき私は言った筈……幼馴染みで私の片想いの人だって」

……聞き間違いじゃなければアヤネは「片想いの人」って言ったよな? 久しぶりに会った時も同じ様な事を言ってたよな……ほっ本気で言ってるのか?

「ふんっ……成る程のぅって誰が胸ばいーんじゃ!この胸ないーん!」
「煩い胸ぼよーん……」

ばいーんだのぼよーんだのぺたーんだの……良くそんなに言い合えるな。

「そもそもお前は何故此所に来たんじゃ!」

と思っていたらロアが俺がアヤネに聞きたかった事を替わりに聞いてくれた。

「シルクが居なくなったから探しに来たの……そしたらイケメンさんと会って何やかんやで此所に来たの」

なっ何やかんやって……後半が偉く分かり辛い説明だ、まぁ要するにアヤネは俺が居なくなったから探したと言う事か……探してくれて何だが1つだけ言わせてくれ、良く路頭に迷わなかったな! 俺の手掛かりなんて無かっただろうに……。

「イケメンさんじゃと?」

そんなアヤネの言葉を聞き首を傾げる、すると直ぐにハッとなりヘッグの方を睨む。

「おいヘッグ」
「ん、何かな?」

何か言いたげに睨んでくるロアに対して澄ました顔のヘッグ……それに対して何かを言おうとした時だ。

「皆様お待たせしました、タオルです」

ヴァームが人数分のタオルを持ってやって来た、それを皆に渡していく……。

「濡れて帰ってくると思いお風呂の準備が出来ています、ですので入て下さい」

にっこり微笑んで再び頭を下げる、皆は身体を拭きながらヴァームのその言葉に感謝する、さっきヘッグに何かを言おうとしていたロアはヴァームの方へ近づいてにっと笑う。

「流石はヴァームじゃ、気が利くのぅ、では早速入らせて貰うのじゃ!」

そう言って俺の方を向き近寄ろうとする、しかしそれを両手で止めるヴァーム、その突然の行動にビックリするロア。

「なっ何じゃ?羽交い締め何ぞしおって」

少し戸惑うロア……ヴァームは微笑んだまま何故か威圧感を放つ、そしてゆっくりと口を開く。

「ロア様……街で魔法を使いましたね?」

その言葉には氷の様な冷たい感情が含まれていた……あれこれってヴァームがロアを怒る流れか?

「……あ」

しまった!と言いたげに表情を曇らせるロア……羽交い締めから抜け出そうと必死で暴れ始める。

「しかも破壊力抜群の魔法をです……街を破壊するつもりなのですか?」
「ちがっ……そっそれはそこにいる胸つるりんが……はっ!?」

ロアは言い訳を話した、だが「つるりん」と口走った時、ロアの表情がさらに曇りヴァームの微笑みに怒りの感情がプラスされた、やってしまったなロア……それはアヤネに向かって言ったんだろうがヴァームの前で言うべきでは無かったな。

「あらあら……言い訳ですか?これはキツいお仕置きが必要ですね」
「まっ待つのじゃ……今のはそなたには言っておらん!そこの胸ぺっ……女に言ったんじゃ!」

必死に弁解するも無意味、ヴァームの羽交い締めの強さが増していく。

「ヴぁっヴァーム、そなたはわらわの従者じゃろう!」
「えぇそうです……同時に教育者でもあるんです、久々に教育してあげます」

まさに龍の如き覇気を発してズルズルとロアを引きずっていく、「いっいやじゃぁぁ教育は嫌じゃぁぁ!」と悲痛な叫びが聞こえるがヴァームは聞く耳を持たなかった。
その場に残されたのは俺とアヤネとヘッグ……これどうすれば良いんだろう、先程の事に圧倒されながらもそんな事を考えてしまう、するとアヤネが俺を突っついて来る。

「どうした?」
「今の内に逃げよ……」

アヤネはそう言って俺を外に連れ出そうとした……アヤネは俺を探しに此処まで来た、だが俺はやらなきゃいけない事がある、その事を伝えなければいけない……そう思って話そうとした時だ。

「待ちたまえっ!」

空中を横に3回転しながら扉に立ち塞がってくるヘッグ……回る必要なんてあったのだろうか?

「邪魔だから退いて……」

ぷくっと頬を膨らませてヘッグを睨む、するとウインクしながら両手を斜め下に広げて足をクロスさせる。

「出ていくのは勝手だけど外は嵐だ……折角風呂の準備をしてくれたんだ、入っていきなよ」

そう話終えた後にぎゅるんと横に5回転してアヤネに指差して来る。
ヘッグって隙あらば格好つけてくるよな……そうしないと駄目な理由でもあるのだろうか?

「……そだね」

ヘッグに言われた後暫く考えるアヤネ、その答えは直ぐに出た……どうやら連れ出すのを止めてくれたみたいだ、だが何時かは言わないといけない。

「ならば俺がクールに風呂まで送ってあげよう……さぁこっちにおいで」

そう言って手招きしてくるヘッグ、アヤネはそれを見て俺の手を取りヘッグの方へと近寄る。

「では行くよ……イケメンっダッシュ!」

そう話した後、ヘッグは俺とアヤネを両脇に担いで走り出す!

「いっいきなり何してるんだよ!」
「無論走っているのさ……」

ニヒルに笑うヘッグ、普通に案内は出来ないのか? あっ……そうだった、まだ廊下にはあの魔法が掛けられていたんだったな、なら仕方無い……わけあるか。

「おぉ、はやーい」
「アヤネ、呑気に楽しんでる場合じゃないと思うぞ?」

アヤネはアヤネでこんな状況でものんびり……久々に会ってもそう言う所は変わっていなかった。

「あっ一応言っておくけど風呂には君達が先に入りたまえ、可愛い人に先に風呂を譲る……それもイケメン鉄の掟にはいってるからね」

いつもその「~の掟」って聞くけどさ……毎回毎回内容が謎何だが自覚してるのか?……してないだろうな。

「流石イケメンさん……優しいね」
「確かに優しいと思うけど……何か違うと思う」

そんな俺の突っ込みに動じずに「はっはっはっ」と笑いながら廊下を掛けていく……何だよこの光景、他の人が見たら驚くぞ? って待てよ? これ俺はアヤネと風呂に入る流れじゃ無いのか? だとしたら言わせてくれ、勘弁してくれ、幼馴染みと一緒に風呂とか難易度高すぎだろ!と思う中、アヤネはと言うと……。

「まるでジェットコースター……流石はイケメンさんだ」

と意味不明な事を話していてこれからの事等考えている様子など無かった……なんかアヤネが来て一気に騒がしくなった気がする。

「賑やか過ぎるのは疲れるんだけどな……」

俺はアヤネの方を見て呟く、さて風呂場についたら何をしようか……アヤネはどう仕掛けてくるのか、そんな事を考えつつ俺は風呂場に着くまで黙っていた。

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