どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

94

「シルク、暴れちゃ駄目」
「暴れるよっ、胸……は当たってないが女に洗われてるんだからな!」

これと似た様な事を俺は言ったのを覚えている、まさか幼馴染みとこんな事をするとは思わなかった……と言うか普通は思わないだろう。

「むっ……今さりげなく胸小さいって言った」
「いや、それは気のせいだ」

おっと迂闊うかつにもそんな事を言ってしまっていたのか、注意しなければいけない、わしゃわしゃーーと頭を洗われる俺はそんな事を考えてしまう。

「っい!」
「あっごめん……」

ロアと違って少し荒っぽい洗い方、少し髪の毛を引っ張られてしまった、直ぐに謝った後アヤネは続けて俺の髪を洗っていく。

「何かこう言うの良いね」
「全然良く無い」

何を思って良いと思ったんだ?……こっちは恥ずかしいだけなのに!

「……水掛るよ」
「えっ……はぷっ」

と考えていた時だ、頭からお湯を掛けられる……いきなり掛けられた為目に思いきり湯が入ってしまった、言った後もう少し間を開けてくれよ。

「艶々になったね……」

鏡ごしに写るアヤネは俺の髪を見てうっとりしている。

「そうか……あっ洗ってくれてありがとな」
「うん」

本当は自分で洗いたかったんだけどな……強引に洗われてしまった。

「じゃ次は身体」

っ……この流れはロアで経験したぞ、分かっていればこっちの物だ。

「寒いから俺は風呂に入るぞ」

本当は身体を洗って入るのが正しいんだが自分の身を案じてもう風呂に入ってしまおう、皆は風呂屋で風呂に入る時はきちんと頭と身体を洗ってから風呂に入ってくれよ? 俺との約束だ……って、俺は誰に言ってるんだ? 変な事を考えながら先に風呂に浸かる俺、それを見て不満げなアヤネ……頬を膨らませてこっちにやって来た。

「シルク……ちゃんと身体洗わなきゃ駄目」
「まぁそうなんだが……寒かったんだ、仕方無いだろ」

そんな言い訳を言うと、アヤネも風呂に入って、俺にぴたっと身体を密着させて睨んでくる、すっ少しだが可愛いと思ってしまった。

「近い……」

そんなアヤネの肩に手を当て遠ざける。

「寒いんでしょ?」

するとまた近づいて潤んだ瞳で見つめてくる、その視線は反則だと思う。

「うっ……」

あれは言い訳のつもりだったんだが……墓穴を掘っていたか、何も言い返さないじゃないか。

「だから側によっても良い筈」
「……くっ」

今度は逃がさない様にがっちり腕を組んできた、そんなに側に寄っていたいのか……。

「幼女になってもシルクは抱き心地が良いね」
「久々に会って妙な事を言うな」

ちゃぷっとお湯を揺らしながら俺に頬ずりするアヤネ、何で恥ずかしがらずにそんな仕草がとれるのか不思議でならない……と言うか何故こんな事をする? これは俺の推測だが……アヤネが言っていたあの言葉に関係するんじゃないか? まぁ……何であの場で言ったんだって今になって不思議になってきたが俺はそれしか考えられない。

「シルク、お風呂から出たら一緒に帰ろうね……」
「……え」

そんな事を考えていた時だ、アヤネが俺の頬を持ってこう言って来たのだ、視線は真っ直ぐと俺を向いている、少し逆上せたのかほんのりと顔が赤くなっている。

「んう、どうしたの?」
「いや……なっ何でもない」

アヤネは俺を探しに此処までやって来た、だから当然「一緒に帰ろうね」と言うのは分かっていた、だが俺はロアに言ってしまった「逃げも隠れもしない」と……その思いは今もぶれてはいない、だからアヤネにはきちんと説明しなければいけない。

「アヤネ……」
「なに?」

いざその事を言うとなると俺の心臓がどくんと強く脈動し始める、折角此処まで来たのに申し訳無い気持ちで一杯だ、だが言わなければいけない……覚悟を決めるんだ。

「実は俺……」

決心してアヤネを真剣な眼差しで見つめる、するとアヤネの顔が急激に赤くなる。

「ふぇ……しっシルク」
「実はな……って、どうした、物凄く身体が赤くなってないか?」

真剣な話をしようとしたらアヤネが逆上せてしまった……そんなに長く風呂に浸かってないと思うんだが、こうなったら話よりやる事がある。

「わっ私は大丈夫、だから話の続きを」
「阿呆か、逆上せたんだろ?もうあがるぞ」

心配させまいと振る舞うアヤネだが無理をさせてはいけない……だから俺はアヤネを風呂から出した、なのに何だか不満げな顔をするアヤネ。

「あれ、絶対告白する流れだ……」
「何か言ったか?」

アヤネが小さな声で何かを言った気がする、だが「何でもない」と首を降られてしまった。
そうか、それならもう脱衣場に言って服を着よう……っ!

「あっ!?」
「ふわっ!?」

と此処で俺は重大な事に気が付いて大声を出してしまう、風呂場だから余計に声が響いて大きく聞こえる、その声にアヤネも驚いてしまう。

「どしたの、急に大きな声出して……」
「アヤネ……俺達の服濡れてたよな?」

そんな俺の問に当然「うん」と答える、俺は焦りの表情を浮かべこう返す。

「着る服が無い」

俺とアヤネの服は濡れてしまっている、勿論替えの服なんて持っていない……つまりはあれだ、全裸でいなくちゃいけない時間が始まると言う事だ……これなんてラブコメ的ハプニングだよ!

「そか、だったらもう少し浸かってよっか」
「……そうだなって、お前逆上せてるのに大丈夫か?」
「大丈夫、逆上せてない……」

こんな状況なのにも関わらず軽く言ってくるアヤネ、もう少し動揺してくれよと考えたが、まぁ仕方無いか……そんな事を思って風呂に再び浸かる……と言う事はあれか? 暫くこのままアヤネと一緒にいるって事だよな?

「はふぅ……」

気持ち良さそうに表情を緩ませるアヤネ、対して俺は思う、この状況に奴がいたら物凄く場が荒れるだろう……この場にロアがいなくて本当に良かった。
そう思って安堵してため息を吐く……この際だ、隣にアヤネがいて気があまり休まらないだろうが少しでもリラックスさせて貰うか……。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品