どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「可愛らしい女じゃ! いや、男? いや女? どっどっちじゃ?」

鏡を覗きこむロアは恍惚に笑う。
良いものをみた、そんな顔だ。
そんなロアを見たヴァームは少しだけ驚いて、鏡を見てみる。

「あら。ほんとに可愛らしい人間ですね。男……いえ、女? どちらでしょうか?」
「むぅ。ヴァームも分からんか……」

んー……と唸るロアは、まじまじと鏡の中の人間を見る。
見れば見るほど男か女か分からない。
この時のロアは知らないのだ……鏡に写る人間。
シルク ハーベストが女に見える男だと言う事を。

「街を歩いておる。おっ……誰かに話し掛けられたのぅ。おぉ……きちんとお辞儀した。礼儀正しいのぅ」

見れば見るほど礼儀正しさが伝わってくる。
ロアからしてみると、声も聞いてみたい。
だがしかし、この鏡……景色は写せても声を聞こえる様には出来ないのだ。

それが歯痒い所である。
まぁ、それを抜きにしてもロアは楽しんでいる。

「むぅ。名前とか知りたいのぅ」
「あら。その方に興味がおありで?」
「うむ。興味ありありじゃ」

鼻をふんっと鳴らして鏡に、ぺたぁっと手をつける。
鏡に写るシルクを優しく撫でてうっとりと目を細める。

「性別を知るために魔法を使うのは……ありじゃよな?」
「あり、ではないんでしょうか? それを知っても人間に干渉する事は無いので」

ヴァームの言葉に「うむ、そうじゃよな」と言って。
鏡に手をかざし魔力を込める。

「性別が分かる魔法……てぃや!」

カッ! と目を開き魔法を発動する。
青白い光が鏡を覆い、徐々にその光がおさまってくる。
そして……ロアがポツリとこう言った。

「っ! まっまさか……この容姿で、おっ男……じゃと!?」

驚愕、まさかこんな事があるのか? そんな表情をしていた。
と言うか、かなり失礼な事言っている……。

「女なのか? とは思ってはいたが……いやはや驚きじゃ」
「同感です。人間と言う種族は不思議なものですね」

魔族からしてみればそうだが……人間からしてみれば、そう言う人間もいるので、不思議がられると何か「え?」と思ってしまう。

「ふむぅ。一目見て惹かれたが、更に惹かれたのぅ。可愛い男じゃ」
「はい。そうですね……とても女の子が着てる服が似合いそうです」

そうヴァームが言った瞬間、鏡に写るシルクはぶるっ……と震えた。
悪寒を感じたのだろうか? だとしたら鋭い感をしている。

「のぅ……」
「はい、なんでしょう」

チラリとヴァームを見るロア。
ビシッと指差して、ちょいちょいと手でヴァームに屈むように伝える。
それを見たヴァームは服の裾を持って屈む。

そしたら、ロアがヴァームの耳元に口を近付けて囁いた。

「父上に内緒で、この者の事を調べてはくれんか? 報酬はきちんと支払うのじゃ」
「あらあら、買収ですか?」

そんな内緒話を聞いて、クスクス笑うヴァーム。

「買収では無い。命令じゃ」
「ふふふ。そうですか……分かりました、では調べて参ります。ただし……あまり期待しないでくださいね? 人間界の情報は此方からだと得られ難いのですから」
「分かっておる」

申し訳なさそうに話した後、ヴァームはゆっくりと部屋から出ていこうとする。

「では。失礼します」

扉の前に立ち、ペコリと一礼した後、ヴァームは出ていった。
それを見た後、ロアは「ふぅ……」と息をはいた。

「まさか人間相手にときめいてしまうとわのぅ」

ほんの少し頬を赤くして、まじまじと鏡の中のシルクを見つめる。

「そなたの名はなんと言うのじゃ? わらわはそなたに興味が沸いた……なぜ、じゃろうな」

つんっと鏡を突っついた後、ロアはベットの方へ歩いていって、ばふっ! とベットに跳び込んで横になった。

そして、枕に顔を埋め「あぅぅぅ」と声を漏らす。
まさに乙女の乙女だ。


たった一目見て、こうなってしまったロア。
彼女は、徐々にシルクを知る事になる……これは、知り始めた時の話。

まだまだ知らない、鏡の中の美少年。
まだ気付かぬ恋心、これを知ったその瞬間……ロアの物語が始まる。
それまで、ほんの少し時間が掛かるのであった……。

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