どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「しまったなぁ……どうしよう、これ」

コリコリと頬を掻きながらどうして良いか分からず、ただ苦笑いする。
ほんと困ったな、どうしよう。
さっきから廊下を歩き回ってる俺は、一旦歩くのを止めて腕を組む。

「ラキュの部屋、一体何処にあるんだ?」

行くと決めてそこに向かっているんだが、何処にあるか分からない。
あぁ、思えばあいつの部屋に行くのって魔法で行ってたからな……場所なんて知らないんだよなぁ。

「くっ……完全に失敗した」

行く前に気付けよ……。
くっそ、完全にやる事がなくなった。
仕方ない……ロアの部屋に行こう、そんでもって適当に時間を潰そう。

そう思って向きを変えて歩いたその時だ。

「あら? シルク様」
「ん、あ……」

背後からヴァームの声がする。
振り替えると、彼女は目を見開いて俺を見てた。

「こんな時間にこんな所にいるとは驚きです。いつもならロア様のお部屋にいらっしゃるのに」

言われてみればそうだな。
風呂から出た後は、ロアの部屋に行ってる。

「え、あぁ……今日はな、そういう気分なんだ」

まぁ色々あったんだ、その色々ってのは詳しく言うのは恥ずかしいから……言わない、問い質されたって言ってやるものか。

「そうですか」

……あれ? 理由は聞かないのか、聞いてくるのかと思った。

「……」

うん、安心したんだが……話が途切れたな、どうしよ。
えと、そうだな……話題がないんなら此処で別れよう。

「えと、じゃぁ……俺は行くよ」
「はい。お気を付けて……あ、シルク様」
「ん、なんだ?」

立ち去ろうと思ったらヴァームが呼び止めて来た。
だから、足を止める。

「いえ、なんでもありません」
「……?」

え、なんにもないの? だったらなんで呼び止めた? まぁ別に良いんだが……。

そう思った俺は、不思議に思いながらその場を去った。
ヴァームが意味深に目を伏せている事を知らずに……。



……さて、わらわは今ラキュの部屋におる。
相変わらず目が可笑しくなるくらい赤で統一されている。

「姉上、ねぇ……ちょっと、目、目がさ……殺気に満ちてるんだけど、なんでかな?」
「さぁ、何故じゃろうな」

そんな部屋に現れたわらわは、ここに来るなりソファーにぐでぇっと座っておるラキュに素早く近付き馬乗りになり睨みを効かせておる。
そして、拳を作りそれを振り上げる。

そしたら、ラキュは「へ?」と間抜けな声をあげたあと、ぶわっと汗が吹き出る。

「ちょっ、なに無言で殴ろうとしてるのさ! ねぇ! ちょっと!」
「やかましい奴じゃな……理由などお前が良く知っとるじゃろ」
「はぁ!? 知らないから!」

目を見開いて否定するラキュは、わらわの腕をがしっと掴み引き剥がそうとするが、わらわはそれを力づくで耐える。

ふむ、知らんと来たか……この愚弟め、苛つくのぅ。

「っ、ちょっ! 血管浮き出てるよ! まさか本気で殴る気じゃ……」
「殴られて思い出すがよい!」
「っ! あぶなっ!」
「ちっ……交わしたか」

本気で顔面めがけて殴ったが……首を振って交わされた、惜しいの。

「交わしたか……じゃないよ! ねぇ、今回本気で殴ろうとしたよね? ほんっとうに何にも心当たりないからさ、理由教えてよ!」

こやつ、そんな事言って知らを切るつもりじゃな? と言いたい所だが……この慌てよう。
まさか、本当に知らないのか?

「……本当になんにも心当たりがないのかえ?」
「さっきからそう言ってるよね!」

だから確認してみると、どんっ! と突き飛ばされてしまった。

軽くふらついたわらわは、難しい顔をして口に手を当て考える。
むぅ……だとするとアヤネの言った事は嘘? いやいや、あやつが嘘をついた事など見たことがない。
まぁ……付き合い短いからどうなのかは知らんがな。
しかし、あの場で嘘をつく……なんて事はしないじゃろう、だとするとアヤネの言った事は本当。

しかしラキュは心当たりがないと抜かしおる。
と言うことは……こやつ、自分が何をしたのか分かっとらんな?

くふふふ、じゃとしたら余計に腹立たしいのぅ。

「え、なに? なんで急に笑うのさ。こわ……」

なにも知らないで呑気にここでゆったり過ごしていたと。
くふっくふふふ……そうか、知らんのか、知らんのじゃな? だったら教えてやろうではないか、お前が知らずにやらかした事をな。

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