どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

439

……きまずいな。ロアが来てから誰も何も喋らないじゃないか。

いつもなら賑わってるのに、だが全く静かなわけじゃない。

「シルク、ねぇシルク。聞いてる? 無視はダメ、ちゃんと聞いて」

アヤネが一人喋ってるからだ。
気まずい雰囲気なのに構いもせずに俺に構ってくる、ほんと周りを見ろよ。頼むからさ……。

「なに? シルクは今日は、静かに食べたい気分なの?」

もうそう思ってくれて良いから静かにしてくれ。
あ、でも完全に静かなのは気まずい、んー……そうだな、じゃぁ適度に喋っててくれ。

「そんなの嫌、だから話続けるね。私は今、お喋りしたい気分」

うん、是非そうしてくれ。
俺も適度に話に応じよ、なんか喋らないとこの空気に耐えられないからな。

そう思って、ロアをチラリと見る。
そしたら、ロアは俺の視線に気付いたのか身体をビクッと震わせ視線を反らす。
いつもなら「ん? なにをみているのじゃ?」と言う感じの事を言いそうなのに……そんな事は全く起こらない。

いや、それ以前に……今日ロアが座ってる席は、俺から遠く離れた席なのだ。
いつも俺の隣に座ってたロアがだぞ? こんなの違和感を感じずにはいられない! ほんとどうしたんだよロアは!

まぁ、これにはアヤネは喜んでた。
「シルクを一人占めできる」とか言って笑顔で抱き付いてきたよ。
それに対しても、ロアはなんにも言わない、多少眉をピくつかせたが何も行動を起こさなかった。

変だ、すっごく変だ。
なんだ? 明日雨でも降るのか? いや、雨なんか生温いものじゃ無いものが降りそうだ。
そんな感じがする、だから……とてつもなく怖い。

そんな恐怖を感じながら今日の朝食を食べる。
あぁ……怖さを感じてるのに今日の鬼騎の料理は旨い。
俺の恐怖心を和らげてくれる……。

「おいし、ねぇシルク……これあげよっか?」
「え?」

と、その時だ。
ふとアヤネがそう言った、だからアヤネの方を向いた。
と言うか……ほんっと皆一言も喋らないな。
気まずい朝食だ……。

「はい、あーん」
「いや、しないからな? それは自分で食べような?」
「……ダメ、食べて。私は食べさせたい気分」

で、そんな気まずい雰囲気をものともせずに自分の道を行く強き女、アヤネ。
空気読めとか、周りを見ろとか色々思ったが……ある意味尊敬するよ。

「ほら、食べて食べて」
「っ、あっちぃぃっ! おまっ、押し付けてくんな!」

尊敬するよって思った時に、ほっぺったにソーセージ押し付けられた。
ジュッ……ってなったぞ、だから軽くアヤネを叩く。
そしたら笑って「ごめん、反省する」と言った。
その顔、全く反省してないな。

……ん、なんだ? なんとなくだが、熱い視線を感じる。
誰か俺を見てるのか? って、ぅぉっ……ロアが俺を睨んでる。

フォーク握り締めて恨めしそうな顔してる、なんだよその顔は……めっちゃ怖い。
あ、フォーク曲がってる……。
おいおい、それ以上強く握るなよ、曲がり過ぎて大変な事になってるぞ。

「………………」

なんか、言ってるな。
小声過ぎてなに言ってるか分からんが、怒ってる様に見える。
えっえと、本当に俺はロアに……何かしてしまったのか? わっわからん。

とっ取り合えずあれだ、食べよう、兎に角食べよう。
それで……逃げてしまおう、だって怖いんだ、一刻も早くこの状況から逃げ出したいんだ!
と言う訳で、素早く料理を食べる、正直味わって食べたいけど……今は逃げるのが最優先だ。

だからパクパク食べた。
アヤネが仕切りに「あーん」って言ってきてるがスルーした。
それでポコポコ叩かれたが構わないでおいた、今は兎に角早く食べるのだ!

そう思って食べ進め……完食した、そうした後……。

「ごちそうさまっ!」

この言葉と同時に立ち上がる、そして扉の方へと駆け寄る。

「あぁ、えと……しっ仕事、してくる!」

ぎこちなくそれだけ言って、俺は部屋から出ていった。
皆の視線が凄く突き刺さったが抜け出す事に成功したぞ! そう思って廊下を小走りする。

「……ほんとは嫌だけど、外に逃げよう。そして仕事しよう」

そう考え、外へと向かう。
ロア、何があったか分からないが……なにかと気まずいから、早く機嫌直してほしいな。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品