どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

449

「この勝負、決着は……」

真剣な顔で話す俺に、皆は注目した。
特に注目してたのは、ロアとアヤネだ。
二人にとっては、どっちが勝つかは気になるもんな。

俺だけだと思うが、緊張してきた。
その緊張をはね除ける様に、俺はこほんっと咳払いし……。

「無効だ」

発表した。
そうこの勝負は無効、勝ちも負けも無い。
それを聞いたロアとアヤネは、気の抜けた顔をしていた。

「むっ無効? え……えと、どう言う事じゃ?」
「なっなんで? 今回は味は平気だった筈」

そんなバカな、と言いたげにうろたえ慌てる2人。
実は慌ててるのは2人だけだったりする。

「まぁ……そうなりますね」
「まぁ、妥当な結果だよね」
「おぅ。その通りだな」
「その結果、文句無いです」

皆、納得の結果だ。

「んなっ! ロア様の料理の方が美味しかったですわ!」

いや違った、ラムだけ違った。
まぁ……あれだ、勝手に言わせておこう。
そう決めた時だ、ロアとアヤネが俺に詰め寄ってくる。

「なっ、納得いかぬ! どういうことじゃっ、説明せんか!」
「変な事言っちゃ、ダメ」

すっごい迫力だ。
と言うか……説明せんか! って、説明しなくても分からないか?

「あぁ、えとな……この勝負のお題、なんだったか覚えてるか?」

それを聞いた2人は途端にきょとんとする。
何を分かりきった事を? と言いたげな顔だ。
そんな顔をしつつ、口々に答えた。

「おにぎり……じゃろ?」
「おにぎり」

そう、おにぎりだ。
それが料理勝負のお題だった、なのに出来たものはおにぎりじゃない。
もうこれは、食べる前から勝敗は決まってる。

「でも、出てきたのはおにぎりじゃない。これ……勝負になってないよな?」

だから言ってやった、これで2人も納得するだろう……。

「なっなにを言うか! これはわらわのアレンジの末出来上がったおにぎりじゃっ! その名も暗黒ボールじゃ! 米の中にアンコを入れるのでは無く、あえてアンコで包むという斬新な手法を使ったのがミソじゃ」

いや、しなかった。
なんだよ、その暗黒なんちゃらって……アンコと暗黒をかけたのか? 全く上手くないぞ。
それと……あ、ダメだ突っ込み所が多すぎて突っ込み切れない!

「シルクが知らないのも無理も無い。あれは私のオリジナルおにぎり……名前はブラウンライスパラッパー、ちょっとワイルドなおにぎりなの。あえて握らないのがミソ」

おっおぅ、こっちはこっちで格好良い? 名前の料理名を言ってきたな。
あぁ、えと……こっちも何処から突っ込んで良いか分からない、あぁ……どう言ったら良いんだ? そんな事を悩んでると、鬼騎が口を開いた。

「ロア嬢のは、アンコを使っとる時点でおにぎりじゃねぇ。アヤネのは、フライパンで米を炒めとるし、握っとらんし、そもそも生米を直接炒めるのも間違っとる」

おっおぉ……流石料理人、料理の事に関しての突っ込みはお手のものだ。

「なっなんじゃと! わらわのアレがおにぎりじゃないじゃと! おにぎりじゃろうが! 米を握れば全部おにぎりじゃ!」
「あれは、握らない事で美味しさを際立たせる私のテクなの……だから、あれはおにぎり!」

って、感心してる場合じゃなかった。
すっごい屁理屈言い出したぞ……あぁ面倒くさい。

「なにを訳の分からん事を言うのじゃ! お前のは炒めた米ではないか!」
「そっちは甘いだけのご飯!」
「ふんっ。なにを言うか! 甘いおにぎりがあっても良いじゃろう!」
「炒めたおにぎりがあっても良いでしょ?」
「お前のは握っとらんじゃろうが! このアホの娘貧乳!」
「むっ……悪口言った。このデカ乳アホ魔王!」
「なっ! なんじゃと! アホはそっちじゃろうが!」
「アホって言った方がアホ」
「くっ……このぉぉっ」
「むぅぅぅ……」

しかも口喧嘩し始めた。
そんな様子を呆れて見てると、向こうの席に座ってるヴァーム達も呆れていた。

「えぇいラチがあかん! シルクよ、もう一度結果を言えい! わらわの勝ちじゃろ?」
「違う。私の勝ち」

あぁ、頭が痛い。
ほんっと煩いし面倒くさい。
もう勝敗つけるまで煩く言うつもりだな? よし、だったら言ってやるよ、望み通りな……。

俺は2人を見つつ、すぅ……と息を吸い込んで……。

「両方の敗けだよ!」

大声でそう言ってやった。
お題と違うものを作ったんだ、納得の結果だろう。
俺はもうこの結果を変えるつもりなんて無いからな。
だから納得しろ! 出来なくてもしてくれ!

……もちろん、この後ひと悶着あったのは言うまでも無い。
その時もひっじょぉぉに煩かった、最終的にヴァームがキレて場が静まり返り丸く? 収まった。
その後、暫くロアとアヤネは嘘みたいに静かに過ごしヴァームを凄く怖がった。

しかし、暫く経つと……いつもと変わらないハチャメチャな日常が戻って来た。
なんだったんだろうな……あの料理勝負は。
そう疑問に思う、俺であった。

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