どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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わらわは今、ひどくうなだれていた。
料理勝負が終わり暫く経った日のとっぷりと更けた夜。
わらわの部屋からでも、秋の虫の音が聴こえて来る。

あぁ、うなだれとるわらわにとっては心地の良い癒しじゃぁ。
良いのぅ、このリィンリンリン……とかガチャガチャガチャ……という静かなざわめき。

すぅ……すぅ……。
まぁ、虫の羽音も良いが……今まさにわらわの隣で寝ておるシルクの寝息も中々に良いものじゃ。

うぁぁぁ……かわゆいのぅ。
そう思いながら、わらわはベットの上に座っておる。
癒しじゃな、もうこれは癒しじゃのぅ。
今まさに落ち目のわらわにとっては良いリラクゼーションじゃよ。

今日も、シルクの隣で寝るのを掛けたじゃんけんに勝って良かったのじゃ。

「うぅぅ……。今日もあの事を言えんかったぁ」

だがしかし、その癒しを塗り替える様にくらぁい気持ちが込み上げてきおった。
あぁぁぁ……なんだかのぅ、難しいもんじゃなぁ。

色々思いながら頭を抱える。
ぐぬぬぬぅ……パッと言えば良いんじゃが、それが出来れば苦労はしないんじゃがのぅ。

「……取り敢えず、一旦この事はおいといて、そろそろ行くとするかの」

そう呟き、シルクを起こさぬ様ベットから降りる。
そして……。

「ちと離れるぞ、朝までには戻って来るのじゃ」

そう呟いて、シルクのおでこに軽くキスをした……。

「ん……んん」

小さく呻きおって、可愛い奴め。
くふふ、小さく微笑んだ後、静かに部屋を出た。

月の光に照らされた廊下を歩いていく、向かう場所はヴァームの部屋じゃ。
こんな夜中になにをするのじゃ? と思うじゃろうが、それはつけば分かるのじゃ。

あ、ヴァームと言えば……最近まで怖くて近づけんかったのぅ。
だって、料理勝負の時にスッゴい怒ったんじゃ。
あれは凄かった、わらわ魔王なのにビビりまくったよ。

じゃが、今は普通に接しておるよ。
……多少は怖いと思っとるがの。

「……っ」

うっ、思い出したら震えて来た、わっ忘れよう……あの時の事全部。
そう思って歩いていく、そしたら目的地についた。

「……ヴァームよ、入るぞ」

コンコンコンッーー
ノックしながら言うと……少し時間を置いて返事が返ってきた。

「どうぞ。開いていますのでお入りください」

よし、じゃ……入るかの。

カチャーー
扉を開けると、ヴァームはわらわの方を向いて立っておった。

「お待ちしておりました、ひとまず、お座りください」
「うっうむ……」
「あら、どうしました? 表情が暗い様ですが……」
「っ!? そっそうかえ? 気のせいではないかの?」
「はぁ……そうですか」

うっ、いかん。
じっと見つめてしまった、不振に思われない様に言われた通り、席につく。

「さて、ロア様。今日は何を致しますか?」

そしてら、こんな事を聞いてくる。
ふむ……そうじゃな、シルクが近頃寒くなって来たとか言っておったから……あれの続きじゃな。

「昨日の続きじゃな。はやくアレを完成させたい」

わらわがそう言うと、ヴァームは部屋の奥へと消えていく。
……さて、ちと説明せんとな。

実はの、わらわは夜皆が寝静まった頃、極秘に色々としておるのじゃ。
その極秘とは……わらわの女を上げる為の修行じゃな。

主に掃除や料理、他に色々とやっておる。
これ等は今日に限った事ではないぞ? シルクがここに来る前から沢山やってきた。

むろん、この事はシルクは知らん、勿論アヤネも知らん。
知っとるのはヴァームだけじゃ、わらわの為に色々と教えてくれておる。
ほんと感謝感謝じゃよ……。

さて、こうやって影で行動しておるがぁ……くふふふ、秘密でこう言う事をすると……なんか、やる気が満ちてきおるな。
好きな人の為の努力じゃからな、燃えずにはいられんよ。

「ロア様、お持ちしましたよ」

くふふふふ、と不敵に笑ってたら、ヴァームがアレを持って戻ってきた。

「うむ。ありがとうなのじゃ」
「どういたしましてです。では……始めましょう」
「うむ」

こくっと頷き、手渡された物を手に取り気合いを入れる。
さぁ……今宵も始めるのじゃ、わらわ特製シルク専用マフラー作りの開幕じゃぁぁぁっ!!

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