どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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ちくちくちく……ちくちくちくちく……。

悪戦苦闘しながら、編み棒をくいくい動かすわらわ。
えぇと……あれをこうしてこうやって、こうしてこうなりこうなって……うぅ、目が痛い、肩もこるのぅ。

あぁ兎に角細かいのぅ、編み棒の扱いって、なんでこうもややこしいんじゃろ。
ひっじょうに細かくて難しいのぅ。
だが、わらわがやると決めたんじゃ……やりとげてやるよ。

「ロア様、一度手を休めてはどうですか? 手芸は適度な休みが必要と言われていますよ」
「ん……そうじゃな、そうしよう」

ティーセットを持ったヴァームの言葉を聞いて、一旦作りかけのマフラーを置いて、ぐぐぐぅっと伸びする。

「うぁぁぁぁっ、魔族でも堪えるのぅ……」
「お疲れ様です」

うへぇ目が痛いのじゃぁ、ぐぐぅっと眼を押すと。

「どうぞ」
「む、ありがとなのじゃ」

お茶を進められる。
なので飲む、うむ……旨い、疲れ目に効くのぅ。

「どうですか? 出来そうですか?」
「んー、まぁ……もう少しと言った所じゃな」

ずっと前に作り始めたしの、本当にあと少しで完成するのじゃ。
勿論、完成したらシルクにプレゼントするのじゃ、きっと喜ぶし、わらわの事を好きになるじゃろう。
くふふふふ……。

「そうですか、それは何よりです」
「うむ。もうひと頑張りじゃよ」

じゃから、頑張らんとな。
そう意気込んでると、ヴァームがじぃっと見つめてきおった。

「ん、どしたのじゃ?」
「あぁ、いえ。少し気になった事がありまして……」

んう? 気になった事とな? なんじゃそれ。

「あれから、シルク様にあの事は言えましたか?」
「ぅ」
「……その反応だと言えてないんですね? はぁ……」

痛い事を聞いてきおった。
なんじゃいなんじゃい、そのため息は。
しっ仕方なかろう、言うのは凄く勇気がいるんじゃよ。

「そんな呆れる事もなかろう? わらわは言えるしっ、今度会った時には、バシッ! と言ってやるのじゃ!」
「……」
「なっなんじゃ、その目は……言えないとでも言いたげじゃな」
「はい。そう思っております」
「ぅぐっ、相変わらず容赦の無い従者じゃ」

キッパリ言いおったぞこやつ。
もっとこう……その、なんじゃ、柔かい言葉で包むとか、そう言う優しさは無いのかえ?

って、あ……ちょっと待て、ヴァームの方も言わねばならん事があった筈、よし……それを聞いて見よう。
きっと、まだ言っておらぬ筈じゃ、その時は「わらわの事を言えぬではないか!」と高らかに笑いながら言ってやろう。

「ヴァーム、お主こそアヤネにあの事を言ったのかえ?」

それを聞いた瞬間、ヴァームの眉がピクリと雨後きおった。
あの事、と言う言葉で察しがついたらしい。
さぁ、なんと言う? どうせ言っておらんのじゃろ? 言いにくい事じゃもんな。
言ってないといえ、さぁ言え。

「はい、言いましたよ。言いにくくはありましたが」

……なんじゃい、言ったのか。

「ちっ、面白くないのぅ」
「あら。なにか仰いましたか?」
「や。なにも言っておらぬ」
「そうですか」

くっそぅ、真顔で言ってきおった。
この顔、嘘はついておらん……本当に言ったのじゃ。

「で? アヤネはなにか言ったのか? 喧嘩の1つでもしたのかえ?」

ふて腐れた顔で言ってやると、ヴァームは不思議そうな顔でわらわを見て来る。
じゃが、直ぐに気にしない様にしたのか、答えてくれる。

「いえ、喧嘩はしませんでした」
「ほぉ。そうなのか」
「はい、そうなんです」

ふむ。
意外とすんなり済んだんじゃな。

「なにか言われたりしなかったのかえ?」

多少なりとも何か言われた筈じゃ。
なにせ、わらわの恋愛成就の為に利用させたと言ってもいいからのぅ。

「はい。言われました」
「お。やはり言われたのか、で? なんと言われたのじゃ?」

気になるから聞いてみた、本当は聞かない方が良いんじゃろうが、仕方ないじゃろ? 気になるんじゃもん。

「……そか。とだけ、言われました」
「……え? それだけかえ?」
「はい、それだけです。それを言った後、去っていきました」

おっおぅ、ざっくりし過ぎておる。
なんじゃ? アヤネの奴、気にして無いのかえ? わらわなら問い詰めたり色々するのじゃが……アヤネはせんかったのか。

「……お陰で、色々思い悩んでた私が馬鹿みたいに思えました」
「おっおぅ。なんと言うか、そのぉ……ドンマイ」

ガクッと肩を落とすヴァーム。
そんなヴァームにぎこちない顔して言ってやった。

「ですが。アヤネさんの強さを見た、そんな気がします」
「ふむ。そんな事は気にしない、と言いたげな態度じゃの」
「そうですね、そう思いました」

遠くを見る様に言うと、ヴァームは微笑みながらお茶を飲んだ。

初めて会った時から思ってはいたが……アヤネは不思議な人間じゃな。
しかし、それがアヤネの良い所かもしれんな。

「ロア様? 私の話で誤魔化していますが、きちんと言ってくださいね? わざわざ宣言したんですから」
「わっ分かっとるよ」

うぐぅ、誤魔化してのバレてるし……相変わらず察しの良い従者じゃな。
いっ言われなくとも言ってやるよ……その内ビシッとな、時間はかなり掛かると思うがの。

「休憩は終わりじゃ。そろそろ始めるかの」
「了解です。ではティーセット、お下げしますね」

そう言ったあと、わらわは作業を再開した。
とりあえず、言える……そう思って言ってみるかの、頑張れ……わらわ。

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