どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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クーの様子をじぃっと見る。
どうやら朝食の準備をしてるみたいだね、美味しそうな匂いがここまで来てるよ。

「うぷっ……うぅぅ、がっがまん、がまん……しなきゃ」

小声でなんか言ってる。
それと吐きそうになってる、そんなになってるんなら被り物被りなよ。

こうなったら、僕が被らせて上げたいんだけど……見当たらないんだよね。
大事な物なのに何処に置いたのさ……もしかして無くしたとか?

「ねぇ、被り物無くしたなら探そうか?」

だから聞いてみる。
そしたら直ぐに返事が返ってきた。

「しっ、しん、ぱい……ありま……せ……ん」
「いやいやいやいや、するよ! 今の自分の顔見てみなよ、すっごい顔色悪いよ?」
「もと、から……こん……なの」
「違うから! 普段はもっと顔色良いから!」
「……ふふ」

いや、ふふって……。
笑ってる場合じゃないんじゃない?
どうなってるのこれ、明らかに何時ものクーじゃないじゃん。

「だま、て……みっ、ててて」
  
もう、まともに喋れてない。
ダメだ、あぁ言ってるけどクーの所に行こう。
そして、被り物探して被せよう。

よし、そうと決めたら早速いくぞ! そう思って立ち上がった……その時。

ギンッーー
激しく睨まれた……。
例えるなら獲物を狙う肉食獣……。

「ふぅぅぅっ、ふぅぅぅぅっ……」

激しい息使いだけで、なんにも喋ってないけど分かる。
「良いから座ってろ」クーは、それを目で伝えてる。


うっ、うん、大人しく座ってよ。
これ、下手に動いたら包丁飛んで来そうだ。
心配だけど、命が危ない静かにしてよ。

そう思って、顔をひきつらせながら座る。
そしたら、クーは調理を再開した。
なにをそんなに必死になってるのか知らないけど……無理し過ぎだよ。

怯んで動けなかったけど、今度ヤバそうな時は怯んまずに近くに行こう。
そう思った僕は、注意してクーを見る。

って、あ……色々思ってる合間に調理が終わった見たいだね。
こっちに来たよ……乗せてるのはスープ、だね。
匂い的にクリームシチュー……かな? 朝から手の込んだ料理するんだね。
相当早く起きて仕込みとかしたんだろうね。

そう考えると、ありがとうって思えてくる。
わざわざ僕を招待して食べて貰いたかったってのが分かるよ。
でも……なんで招待したの? あ、いや……嫌って訳じゃないけど、単純に気になる。

「ど、ぞ。あつ、い……うっ……ちに……たた……べて……くだ、さ……い」

そう言ってクーは、クリームシチューを乗せてるトレイを置いた。
あ、パンも置いてあるね、これも美味しそうだ。

「あ、うん。クーも食べたら? 自分のもあるんでしょ?」
「う……ん」
「そう、だったら一緒に食べようよ」

クリームシチューもパンも2つあるんだから、1つは自分の分だよね?
そう思って聞くと、コクコクと頷いた。

「じゃ、食べよう。ありがとねクー……。頂かせて貰うよ」
「っ!?」

クーが赤面した。
くふふふ、もしかして照れてるのかな? そんなクーの表情かおを見てクスリと笑ってスプーンでシチューをすくって食べる。

「…………ん」

ゆっくり味わったあと、飲み込んだ。
カボチャの味がする、当たり前か……入ってたもん、カボチャ。
他にニンジンと玉ねぎも入ってる。
野菜の甘さって良いよね、このシチュー……その甘さが引き立ってるよ。

「美味しいよクー」

笑顔でそう言うと、クーは直ぐ様顔を反らして「ぁり……がと……ござぃ……ます」と言った。
見事にガッチガチに緊張仕切ったしゃべり方。

この際それは良いや。

「クーも食べてみたら? 冷めない内にさ」
「っ!!」

いや、なんで驚いた顔でこっちみるのさ。
自分で作ったんでしょ? 自分で食べなきゃダメでしょ?

「えと、とりあえず食べたら? そしたら緊張が薄れるかも知れないよ?」
「……」

長い付き合いなんだけどね……やっぱり素顔を晒すのは恥ずかしいんだ。
その割には、こうやって稀に素顔を出すんだけどね。

それはクーなりの被り物無しで話すぞ! って言う意識の現れだよね。
今のクーを見てたら分かるよ。
それは勿論応援するよ、そう言うの嫌いじゃないからね……でも、頑張り過ぎは良くないよ。

自分のペースで行きなよ……って、こう言うのは口に出した方が良いか。
あ、でも……今は食事中だから後でにしよ。

「……えと、冷めちゃうよ? 食べないの?」

なんにせよ、クーに食べさせよう。
さっきから、小刻みに震えるだけで食べようとしない……。

仕方ない、ここはアレで行こうか。

「……ほら、食べてみなって」

僕は、クーの近くに置いておるスプーンを取り、シチューをすくってクーの口元まで持っていく。

「……ふぇ?」
「ふぇ? じゃなくてさ……食べなって、自分で作った料理、味わって見なよ」

そう言った後、固まるクーの口に無理やりスプーンを捩じ込む。

「っ! ふきゅっ」

あ、しまった……強くねじ込み過ぎたかな? 悲鳴あげちゃった。
でも……食べさせる事には成功したね。

「どう? 美味しい?」

きょとん……としながらモグモグ口を動かすクーに聞いてみた。
暫く動かなかったけど、クーはコクッと頷いた。

「そう、良かった……って、作ったの僕じゃないから、こう言うのは可笑しいか。くはははは」

て言っても、違う言い回しなんて思い付かないけど……って、あれ?
クー……一点を見たまま動かないね。

「おーい、クー? どうかしたの?」

目の前で手をヒラヒラ振るうけど、反応は無し……。
あっあれ? なんか様子可笑しくないかな? いや、様子は今日此処に来た時から可笑しかったけど……。

「ねぇ、クー……っ!?」

だから、ぽんっと軽く肩を叩いて見た。
そしたら……力なくクーは横に倒れた。
パタンっーーと糸が切れた人形の様に……。

「え、え!? ちょっ! クーっ!!」

慌てて近付いて身体を揺さぶる。
しかし反応は無い! まっ不味い……不味い事が起きた!

焦った僕は、クーを背中に背負う。

「取り合えず、メェの野老へ行こう!」

そう呟いた僕は、クーの家から走り出る。
もう……こうなるんなら、無理しないで被り物しとけば良いのに! クーのバカ!

そう思って、僕は先を急いだ。

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