どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

398

まずはラキュに謝ろう。
そう思い、わらわは喋る。

「あぁ……えと、ラキュ。あの時は殴ってすまなかった、ごめんなさい」

ペコッと頭を下げて謝る、そしたらラキュが……。

「くふふふ、分かれば良いんだよ」

不適に笑っておった。
うぅっ、これは暫くネチネチと言われそうじゃな、まぁ……仕方無いか。

「えと、話しは終わりかの?」
「ん、ああ……終わりじゃないよ」

なに、まだ話があるのか。
って、もう殴られた件は良いのかえ? まさか……もう許してくれた?
いや、じゃったらあんな不適な笑みはせんか。

きっと「もう許してくれたのか?」と聞いたら「は?」と言って激しく睨まれるじゃろう。
じゃからラキュに話しを合わせよう。

「ほぉ、そうなのか」
「うん」

ぶっちゃけ、何を話すのか気になって聞きたい部分もあるしの、話をする事には反対では無いのじゃ。

「で、その話しとはなんじゃ?」
「あぁ……大した話じゃ無いよ。だからそんなに畏まらなで。あ、ジュース飲んでいいよ」

あ、そう言えば飲んどらんかったな。
と言う訳で飲む、うむ……さっぱりした味わい、大変美味じゃな、これは。

「大した話では無いか」
「そうだよ」

にぃっと笑うラキュ。
本当にそうなのか? なぁんか怪しいのぅ。
大した事は無いとか言って、ほんとは大した事あるんじゃないのかえ? そんな疑いの視線でラキュを見る。
それを察したのか、クスリと笑った。

「くふふふ、なに? 随分睨んで来るね」
「気のせいではないか? それよりも、とっととその話しをせぬか」
「あぁ、そうだね。じゃぁとっとと言うよ」

勿体つけるのは良くない、さぁて……何を言ってくるんじゃろうな。

「そろそろ、シルク君に自分の名前の事を明かしたら?」

クスクス笑いながら待っておったら、凄い事を言ってきおった。
じゃからわはわは、目をまあるくして固まってしまった。
と言うか、それ……結構大した事ある話ではないか!

「……姉上?」

まさか、そんな事言われると思ってなかったから固まってたら、心配して話し掛けて来た。
それでわらわは、正気を取り戻す。

「ラキュよ、えと……突然何を言うんじゃ」
「あ、やっと喋ってくれた。まぁ……言葉通りの意味だよ」

いや、えと……それは言われんでも分かる。
じゃがな、今の状況でそれを言うのかえ?

「そんな睨まないでよ」
「睨みたくもなるのじゃ」

まったく、何の話しかと思えば……ラキュめ、何を考えておるんじゃ。
今はそれよりも、シルクやアヤネの事を優先しなければならぬと言うのに。
と言うか、先程それでヴァームと喧嘩した事を忘れたのか?

そう思ってると、ふぅ……と息を吐いて、何処か遠くを見ながらこう言ってきた。

「姉上が今、何を考えてるのか想像できる。その通りだと思う。だからさ……その件が終わったら、そろそろ言った方が良いんじゃない? またさっきみたいな事が起きるかもしれないからさ……」

普段見たことが無いくらい、真剣な顔をして話しておる。
じゃから、わらわは何も言わず、その話しを聞き入った。
………なるほど、つまり分かった上で言ってきたと。
しかし、そろそろ言った方が良い……か。
それと、さっきみたいな事がまた起きるかもしれない……その言葉、わらわの心に深く突き刺さったのじゃ。

ぶっちゃけ、ヴァームと喧嘩したの原因が、わらわが自分に自信を持てず、ズルズルと名前の事を明かすのを先伸ばしにした事にある。

それを考えると……ラキュの言う通り、もうするべきなのじゃろう。
しかし、何故今それを言う? あぁ……そうか、今だからか。

ヴァームとの一件があったから、ラキュはそう言って来たんじゃ。
まったく、普段は毒づきはするが……わらわを心配してくれる良い弟じゃよお主は。

「ラキュ」
「なに?」
「わらわの事が心配で、言ってくれるのかえ?」

微笑みながら問い掛けると、ラキュは直ぐに横を向いた。

「別に。ただ言いたかっただけだよ」

くふふふ、素直じゃないのぅ。
照れるラキュを見て、可愛く思ってクスクス笑ってると、1つの想いが涌き出て来た。
普段のわらわなら、顔真っ赤にして恥ずかしがった所じゃが、今は……そんな事にはならんかった。

そうじゃな、もうそろそろ、シルクに明かすべきなのかも知れぬ。
従者であるヴァームにあんな事をさせて、弟のラキュにこんなに心配され……わらわは何もしない。
もう、そんな事はしてはいけない……伝えねばならない時が来たんじゃ。

じゃが、正直恐い。
名前の事を明かしたとして、信じてくれるか分からぬし、信じたとして今のわらわを見て、シルクが幻滅するかも知れん。

それが恐くて、わらわら行動に移せなかった。
じゃが、もうそんな事は言ってられない……ここで逃げたら、ヴァームとラキュ、いや……わらわの為に色々協力してくれた者に失礼じゃ。

それに、アヤネもシルクに自分の想いを伝えた。
なのに、わらわはそれをしないのか? シルクが好きなのにしないのか?

そんな可笑しな事はあるか。
言わねばならんじゃろう、。
じゃからわらわよ、勇気をもて、覚悟を決めろ。

「くふふ、なるほど……。言いたかっただけか」

クスリと笑った後、自分の髪をさらっと靡かせる。
そして、ふぅ……と深く息を吐いた後、真剣な顔をしてラキュを見た。

「分かった。この件が終わり次第、わらわはシルクに自分の名の事を伝えよう。たっただし、言うのは少し遅くなるかもしれがの、くっくはははは」

最後ら辺、小さい声で言ってしまった。
だっだって仕方ないじゃろ? そっその……不安なのは拭えんのじゃ!

そう思いながらラキュの様子を見てみる。
それを聞いたラキュが、驚いた様に目を大きく開いていた。
じゃが、最後ら辺のわらわの言葉を思い出したのか、ずるっと滑り落ちた。
その後姿勢を正して、じとぉっと睨んでくる。

「姉上」
「なっなんじゃ?」

ううぅぅ、責められる。
確実に責められる「そんな事言うなら、ビシッと言いなよ」的な事を言われてしまう。

そう身構えていると、ラキュは突然苦笑いしだす。
そして、やれやれと言いたげに手を広げた。

「……いや、やっぱり良いよ。さっきの言葉を言えるのって、姉上にしては大きな進歩だからさ」

おっおぅ、責められるかと思ったが、そんな事は無かった、ふぅ……よかったのじゃ。
って待て、軽くバカにしとらんかったか? わらわにしてはとはどう言う事じゃ!

「でも、本当に言いなよ?」

そんな不満が浮かんだら、そんな事を言ってきた。
取り合えず、その不満は置いといて冷静に答えよう。

「うっうむ、言われずとも必ず言うのじゃ」
「うん、言質はとったからね。言わなかったら……分かってるよね?」

うぐっ……言質、取られてしまったのじゃ、しかも脅されてしまった。
もうこれで、言わねばならなくなった、じゃがこれで良い。
逃げ道は無くなった、よっよぅし……頑張るぞ。

じゃが、まずはシルクの一件をなんとかするのが先じゃ。
それが終わり次第……わっわらわは、わらわは……自分の名の事を明かそうではないか。

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