どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

403

それは、ハロウィンが始まる前……クータンと二人で話した時の記憶。

"ラキュ君、アヤネちゃんの事、好きだよね?"この言葉をクーに言われた。
その後の記憶……それが、この瞬間、鮮明に思い出されて行く。



被り物を取ったクー、そんな彼女から言われた言葉は、僕の思考を一瞬だけ停止させた。

「えと、いきなりなに? なんの事?」

目をパチクリさせながら聞いてみる。
いきなり過ぎてビックリした、アヤネの事が好だって? いや、そんな……急に言われても分からない。

ドキドキしながら、クーの言葉を待つ。
って、あれ? 何も喋らない、僕をじとぉっと睨んでる、え、なに? なんでそんな顔するのさ。

「むぅ」

あ、むくれた。
睨みながら頬をぷくっと膨らませてる、ちょっと可愛い……。

「もう一度、聞くよ。ラキュ君……アヤネちゃんの事、好き……だよね」
「あぁ、えと……ちょっと待って」

同じ事を聞かれて漸く思考が追い付く。
アヤネの事が好き、か。
まぁ、好きなタイプではある……でも、アヤネに対してそんな感情は抱いてない、筈だ。

でも、最近アヤネを見てるとモヤモヤするんだけど、まぁそれは関係事無いだろう、色々考え込んでたからモヤモヤしたんだよ、きっと。

「ラキュ……君?」

深く悩んでるのが気になって話し掛けてきた。
答えは出たから答えよう。

「友達としては好きだね」

うん、これで間違って無いだろう。
さて、これでクーの表情が元に……戻らないね、それどころか睨みが強くなったよ。

「はぁ……」

ため息つかれた。
なんで? なんでため息つくのさ、別に変な事は言ってないのに。

「その反応はなに? なにか変な事言った?」
「いっ言いました。だからあたい呆れてるん…です」

呆れてる? いや、なんで呆れるのさ。
意味が分からないよ、だから一言言ってやろうと思ったら、先にクーが話してきた。

「どうしてそんな事…言うの?」

声を震わせてる、きっと被り物を被ってないからだ。
そろそろ限界が近いんだろう、まぁその事は良いや。

どうしてそんな事を言うの? その質問に答えないといけない。
と言っても、言った通りなんだけどね。

「どうしても何も言葉通りさ」
「そう…なんなん…ですか」

そうなんだよ。
ね? 何も可笑しな事は無いでしょう?

「本当は好きなんじゃ…ないん、ですか?」
「え」

いや、そんな事言ってないじゃん。

「なんでそうとるのさ。そんな事、少しも言ってないよね」

少しキツめにそう言うと、クーはブルッと震えた。
でも、直ぐに震えが止まり、また睨んできた。

「なんでそんなに睨むの? と言うか、なんでアヤネの事を好きかなんて聞くのさ。クーには関係ないよね?」

ここまで睨まれるとイラッとくる、だから思ってる事を言った。
だけどクーは表情1つ変えない、被り物を取ったら吐く寸前まで緊張するのに……今は凄く落ち着いてる様に見える。

いや、途中は緊張のせいなのか震えてる時もあった。
だけど今はそれがない、どうしたんだ? 何時ものクーじゃない。
そんな違和感を感じながらクーを睨んでると、彼女はゆっくりと息を吐いて話し出した。

「関係ない、ですか。その通り、です。でも…今のラキュ君を見たら…言いたくなるの」

言いたくなるか、その気持ちは分からないね。
だって、そう思う意味が分からないもん。
……ん? クー、心なしか表情が沈んでる気がする。

そんな事に気が付いたけど、今はスルーして言いたい事を言う事にした。

「ふぅん…そうなんだ。言いたくなったね、じゃぁ言わせて貰うけど。仮にアヤネの事が好きになっても、僕はアヤネに告白しないよ? だって僕は姉上の恋を応援してる。つまり、アヤネの恋を邪魔してるんだ。そんな奴が、手のひら返すように告白しても良いと思う? 答えはノーだよ」

これは前から決めてる事、だから、もしアヤネの事が好きになっても…告白しちゃいけない。
そもそも僕は、アヤネに恋しちゃいけないんだよ。

「ラキュ君って、意外と……面倒臭い魔物、なんですね」

そう思ってた時だった。
呆れ返る様な話し方でそう言ってきた。
めっ面倒臭い? ぼっ僕が?

「え、いや…それ、どう言う」
「ラキュ君、もっと自分の気持ちに素直にならないと…ダメです」

戸惑いながら話した言葉はクーに遮られてしまう。
自分の気持ちに素直になれ? いや、これが僕の素直な気持ちだよ!

心の中で、そんな突っ込みをいれる。
口には出さなかった、いや…正確には出せなかったと言うのが正しいのかも知れない。
なんで、何も言わないの? なにか反論とかあるんじゃないの? 自問自答してみるけど、何も思い付かないし考えられない。

完全に頭が真っ白になった。
その後、僕は放心したかの様にソファに座ったままぼぉっとし続けた。



と言うのが、ハロウィンが始まる前の記憶。
あの時、クーに言われた言葉に何故か黙ってしまった。
その後、どうなったのかは正直覚えていないし、なんで黙ってしまったのか、未だに分からない。

まぁ、その後の事に関しては今はどうでも良い。
大事なのは、クーと同じ事を目の前にいる、鬼騎が言ってきたって事だよね。

僕は、真剣な眼で僕を見てくる鬼騎に妙に緊張してしまった。
鬼騎、お前まで何を言うのさ、僕に何をさせたいのさ……。

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