どうやら魔王は俺と結婚したいらしい
55
ラキュの肩に担がれて地下から地上へと戻ってきた、運が良い事にここには魔物達は一人もいなかった。
「どうやら此処には追って来る奴等はいないみたいだね」
この場所は日当たりが悪く魔物達の通りが悪いみたいだ、ラキュの言った通り誰もいない。
「はっ速く此処を去った方が良いんじゃないか?」
「どうだろう…多分僕達、向こうの思うままに動いてると思うんだよね…」
「なっ……」
ラキュは焦る様子を見せ語る、それ相当まずいんじゃないか?
「極力人目を避けて此処を出るしかないみたいだね……」
考えに考えた答え……最早それしか手は無い、だがそれは可能なのか? いや……今の所何の戦力になっていないんだ、口を挟む権利は無い、俺が今すべきなのは、俺が今出来る事を探す事だ。
「地上の道なら裏道まで把握してる…いける!」
一頻り考えた後粒やき俺を担いだまま路地を歩いていく……俺、完全に足を引っ張ってるな、早く出来る事を探さねば……。
「ラキュ、もう休めたから降ろして貰って大丈夫だぞ」
「万が一があるからね…遠慮はいないよ」
暫く人目を避けて歩いた頃…もう魔物とは会わなくなった、なので俺は降ろしてくれと言ったのだが……降ろしてくれなかった。
「まぁ、後少しだから我慢して」
「あぁ…分かった」
ラキュは「気にしなくて良いよ」と顔で語っていた、向こうは気にしていない様だが俺は気にする、このままじゃ絶対に駄目だ……そう思うのだが俺には何もする事が出来ない、それがもどかしくて仕方ない。
「ほら、あの曲がり角を曲がれば城門が見えるよ」
ラキュが指差す方にそれらしい物が見える、どうやら俺達は逃げきれたらしい、俺に唯一出来る事はラキュに感謝の気持ちを伝える事だ、今度トマト料理を奢るとしよう。
少し日当たりが悪くて薄暗い路地を駆け足で曲がり角に差し掛かる、その曲がり角を曲がった時だ……。
「お待ちしていましたよ…」
そこに奴はいた、メイド服を着ていて細長い尻尾を持っていて捻れた角が2本ある……俺達をこの地獄の鬼ごっこに引き込んだ実行犯がそこにいた。
「なっ……ヴァーム!」
まさか此処で会う事になるなんて……一気にピンチになってしまった!
「……っち」
あまりの危機的状況に思わず舌打ちするラキュ、直ぐ様逃げようと引き替えそうと思い後ろを向いた時だ。
「ふふふ……貴方なら人目を避けて此処を通ると思っていましたよ」
ヴァームが話し出す、そしてぱちんっと指を鳴らす、するとラキュが向いたその方向に青い渦が現れる、まだ何か仕掛けるつもりか!
「先ずはラキュ様を捕らえましょうか……」
「……!!」
狙いはラキュだと? ヴァームのその声を聞いた瞬間……ラキュの表情が凍り付く。
「どっどうした!」
「かっ感じるっ! あの獣の気配を大量に感じる!」
喋りながら青い渦に指差して言う、なっなんだ?何をそんなに怖がってるんだ? あの青い渦から何かを感じるみたいだが……俺は目を凝らしてその渦を見てみる、うっすらと何かがいっぱいいるのが見える。
「後ろにヴァーム、前にはあの獣……あぁぁぁっもうお仕舞いだぁぁぁ!!」
ラキュの突然の大発狂! 頭を抱え暴れ出し、俺は地面に落とされてしまう。
「どっどうしたラキュ!」
こんなに取り乱すラキュを見るのは始めてだ、一体何が起きた? そう思っていると、青い渦から『とある生物』が沢山出てくる。
「さぁラキュ様、シルクさん……これで終止符を打ちましょうか」
自信満々に言ってくるヴァーム……顔を見ていないが今誇らしげにしているのが分かってしまう、だが俺は拍子抜けする、この生き物が終止符を打つ決定打になるとは到底思わない……何故なら。
「黒猫……か?」
沢山の黒猫が青い渦からどろどろと現れたのだ……10匹やそこらの数じゃなくて100匹くらいいるんじゃないか? 「にゃー」「ふにゃー」って鳴きまくってるから少し煩い……そしてあまりに大量にいるから恐い、だけど大発狂する程でも無いと思うのだが。
「はっはは……おっ終わりだ……ねっ猫……一杯いる……よぉ」
ラキュを見てみると、かたかたと小刻みに震え恐れおののいている、あっ膝まづいた……こっこれはどう言う事だ、明らかに何時ものラキュじゃない!
「シルクさんはご存知無かった様ですね……」
ヴァームはすたすたと俺達の方にやってくる、と言うか今、猫とドラゴンの挟み撃ちにあってるんだよな? これ一生出会う事が無いであろうシチュエーションだろう。
「捕まえる前に教えて差し上げましょう」
俺はヴァームの方を見る、目を細め手を広げて語り始める。
「ラキュ様は猫が苦手なのです」
「なに…?」
後ろから猫がわらわらと近付いてくる気配を感じる、猫が苦手……あんなに可愛い生き物なのに何故?
「それは仕方の無い事です……何故なら」
かっ! と目を見開くヴァームそして、しゅびびっと勢い良くラキュを指差す。
「ドラキュラの唯一の弱点は猫なのです! 何故かは不明ですがね……」
「っ!!」
なっ……なんだと!
「ほっ本当かラキュ!?」
「猫……いる……沢山……駄目……終わり……無理……あぁ……」
本当っぽいな、会話が成り立っていない、もう片言じゃないか。
「詰みですね、シルクさん」
「……」
魔物の生態の無知がまさかの事態に陥るとはな、くっ……ラキュはもう動けない、どうする? どうすれば良い! じわりと汗を流しながら思考を巡らせる。
「もう諦めて下さい……仮に私を通り過ぎてもこの先には魔物達が通せん棒してますよ?」
此処にヴァームが来なくても門から逃げられなかったと言う訳か、と言うか俺は端からヴァームを通り過ぎろうとは思っていない、そんな事は俺の体力じゃ不可能だ!
「確かに詰んでるな……」
「ふふ……やっと素直になりましたか」
細く笑うヴァーム……その笑みが憎らしい、猫達は可愛らしい鳴き声を出しながらこっちにやってくる。
「もう諦めるしか無いのか……!!」
その時だ、俺はふと「ある考え」を思い付く、だがそれはここを切り抜けるだけの策、つまりこの城下町から出られる策ではない。
「では、ラキュ様を連れて私の方へ来て下さい」
優しく手招きするヴァーム、向こうは勝ちを確信している……油断しているのが見て分かる。
「分かった……」
俺はヴァームの言った通りにラキュを背負う。
「ではこちらへ……」
やるなら今だ……今しかない!
「ラキュ…今度は俺が助ける番だ」
ヴァームに聞こえない様にラキュに語る。
「シルク……君?」
目を丸くするラキュ……俺が何をするか分かっていないみたいだ。
「どうしたんですか? 早くこっちへ来て下さい」
あまり立ち尽くしてたら怪しまれる、やってやる! もってくれよ俺の体力!
「ラキュどんだけ叫びを上げても良いっ少しだけ我慢してくれ!」
「……へ?」
気の抜けた声が漏れた。
「っ!」
ヴァームが慌てる様子を見せた! よしっ行くぞ! 俺は沢山の猫の方を向き全力で地面を蹴って走る!
「うぉぉぉらぁぁぁ!!」
俺は大声を上げて気合いを入れる。
「ちょっ……しっシルク君!だっ駄目っ…そこっらめぇぇぇぇ!!」
ラキュは凄まじい叫びを上げる、色々とアウトな叫びだな。
「まっ待ちなさい!」
ヴァームはそう言うがそれで待つ奴はいない、全力で逃げさせて貰おう!
「ふぎゃぁぁっ!」
俺が大声を上げて驚いたのか、いっぱいいた猫達は飛び退いて道が開かれる!
「はぁ……はぁ……ラキュっ絶対に……逃げるぞ!」
「わっ分かった…分かったから……その道はやめっやめて!猫……ねっ猫がぁぁ!」
うっ……耳元で叫ばれて煩い、が、ここは我慢だ! 俺は力の限り走る! 考えなしに走っているから何処を走ってるか分からない……だが走り続けさえいれば捕まらない筈だ!
「シルクさんっ止まりなさい!さもないと……」
ヴァームが脅しを掛けて来た……ふっ、そんな脅しには屈しない!
「行くぞっラキュ!」
「猫がっ……猫が追って来るぅぅ!!」
背中で騒ぐラキュをスルーして走る、脅しなんて全力でスルーだ!
「空にシルクさんのお風呂シーンやその他諸々を投射しますよ!」
「……は?」
そんなヴァームの声にうっかり立ち止まってしまう、そして空を見上げる……俺のお風呂シーンを投射した……その青い空には燦々(さんさん)と輝く太陽と共に俺の入浴シーンと酒に酔った姿がでかでかと写っていた、しかも酒に酔ったいた写真に至っては……。
『シルクさん、お着替えしましょうか』
『はーい』
動画だった……しかも音声付きの奴だ、酔いどれて顔がほんのり赤い俺は素直にヴァームにお着替えされている、そんな動画だ……。
「投射しますとか言っておいて……もう投射してるじゃねぇか! 阿呆がぁぁぁっ!」
俺が恥ずかしがると所々から歓声が上がる。
「ふぉぉぉ!!」だとか「やべぇぇぇ!!」だとか色んな歓声だ、後拍手も聞こえてくる、こっこれは……過去最凶に酷い仕打ちだ、俺は全身の力が抜けラキュを地面に落としてしまう。
「しっシルク君っ今落とさないで!ねっ猫が……猫がくるっ!」
騒ぐラキュと恥ずかしさのあまり悶絶する俺、その場に踞る、おのれヴァーム、やってくれたな……一番恥辱を受ける奴を平然とやってのけやがった!
「うふふふ……今度こそ万策付きましたね、では止めです」
満面の笑みを浮かべ、ぴゅぅーとヴァームが口笛を吹く、すると。
『ばぅわぅっ!!』
『にゃんっ!』
『ふにゃっ!』
数々の猫達を押し退けながらケルベロスのケールが前からやって来た。
「……え?」
勢い良く飛び付き俺を押し倒す。
「!?」
大型犬よりも一回り大きい身体が俺にのし掛かってくる、かっ顔が近い……3つもあるから迫力がある。
「わんわんっ!」
「ちょっ……なっ舐めるな!」
お前ら舌が3つあるから直ぐに顔がべたべたになるんだよ! っ! そうだラキュは、ラキュは今どうなってるんだ? そう思い横目で見てみる、そこに写ったのは……。
「ねっねこぉぉぉぉ!?」
ラキュの身体に猫達が集ってる姿だ、暴れまわるラキュに猫達は尻尾をたてて嬉しそうにじゃれついていた、猫が嫌いなのに猫に好かれてるんだな……可哀想に。
「うふふふ…では2人共、激しい運動の後はコスプレしましょうか」
いつの間にか近くに来ていたヴァーム、何時もの事ながら言ってる事が本当に意味不明だ。
はぁ……これだけ逃げたのに結局こうなるのか……くっ、運命は残酷だ! そう思う俺の中である格言が思い浮かんだ。
どうあがいても結果は変わらない、悲しいけどこれが現実だ、本当に涙が出て来る……。
「どうやら此処には追って来る奴等はいないみたいだね」
この場所は日当たりが悪く魔物達の通りが悪いみたいだ、ラキュの言った通り誰もいない。
「はっ速く此処を去った方が良いんじゃないか?」
「どうだろう…多分僕達、向こうの思うままに動いてると思うんだよね…」
「なっ……」
ラキュは焦る様子を見せ語る、それ相当まずいんじゃないか?
「極力人目を避けて此処を出るしかないみたいだね……」
考えに考えた答え……最早それしか手は無い、だがそれは可能なのか? いや……今の所何の戦力になっていないんだ、口を挟む権利は無い、俺が今すべきなのは、俺が今出来る事を探す事だ。
「地上の道なら裏道まで把握してる…いける!」
一頻り考えた後粒やき俺を担いだまま路地を歩いていく……俺、完全に足を引っ張ってるな、早く出来る事を探さねば……。
「ラキュ、もう休めたから降ろして貰って大丈夫だぞ」
「万が一があるからね…遠慮はいないよ」
暫く人目を避けて歩いた頃…もう魔物とは会わなくなった、なので俺は降ろしてくれと言ったのだが……降ろしてくれなかった。
「まぁ、後少しだから我慢して」
「あぁ…分かった」
ラキュは「気にしなくて良いよ」と顔で語っていた、向こうは気にしていない様だが俺は気にする、このままじゃ絶対に駄目だ……そう思うのだが俺には何もする事が出来ない、それがもどかしくて仕方ない。
「ほら、あの曲がり角を曲がれば城門が見えるよ」
ラキュが指差す方にそれらしい物が見える、どうやら俺達は逃げきれたらしい、俺に唯一出来る事はラキュに感謝の気持ちを伝える事だ、今度トマト料理を奢るとしよう。
少し日当たりが悪くて薄暗い路地を駆け足で曲がり角に差し掛かる、その曲がり角を曲がった時だ……。
「お待ちしていましたよ…」
そこに奴はいた、メイド服を着ていて細長い尻尾を持っていて捻れた角が2本ある……俺達をこの地獄の鬼ごっこに引き込んだ実行犯がそこにいた。
「なっ……ヴァーム!」
まさか此処で会う事になるなんて……一気にピンチになってしまった!
「……っち」
あまりの危機的状況に思わず舌打ちするラキュ、直ぐ様逃げようと引き替えそうと思い後ろを向いた時だ。
「ふふふ……貴方なら人目を避けて此処を通ると思っていましたよ」
ヴァームが話し出す、そしてぱちんっと指を鳴らす、するとラキュが向いたその方向に青い渦が現れる、まだ何か仕掛けるつもりか!
「先ずはラキュ様を捕らえましょうか……」
「……!!」
狙いはラキュだと? ヴァームのその声を聞いた瞬間……ラキュの表情が凍り付く。
「どっどうした!」
「かっ感じるっ! あの獣の気配を大量に感じる!」
喋りながら青い渦に指差して言う、なっなんだ?何をそんなに怖がってるんだ? あの青い渦から何かを感じるみたいだが……俺は目を凝らしてその渦を見てみる、うっすらと何かがいっぱいいるのが見える。
「後ろにヴァーム、前にはあの獣……あぁぁぁっもうお仕舞いだぁぁぁ!!」
ラキュの突然の大発狂! 頭を抱え暴れ出し、俺は地面に落とされてしまう。
「どっどうしたラキュ!」
こんなに取り乱すラキュを見るのは始めてだ、一体何が起きた? そう思っていると、青い渦から『とある生物』が沢山出てくる。
「さぁラキュ様、シルクさん……これで終止符を打ちましょうか」
自信満々に言ってくるヴァーム……顔を見ていないが今誇らしげにしているのが分かってしまう、だが俺は拍子抜けする、この生き物が終止符を打つ決定打になるとは到底思わない……何故なら。
「黒猫……か?」
沢山の黒猫が青い渦からどろどろと現れたのだ……10匹やそこらの数じゃなくて100匹くらいいるんじゃないか? 「にゃー」「ふにゃー」って鳴きまくってるから少し煩い……そしてあまりに大量にいるから恐い、だけど大発狂する程でも無いと思うのだが。
「はっはは……おっ終わりだ……ねっ猫……一杯いる……よぉ」
ラキュを見てみると、かたかたと小刻みに震え恐れおののいている、あっ膝まづいた……こっこれはどう言う事だ、明らかに何時ものラキュじゃない!
「シルクさんはご存知無かった様ですね……」
ヴァームはすたすたと俺達の方にやってくる、と言うか今、猫とドラゴンの挟み撃ちにあってるんだよな? これ一生出会う事が無いであろうシチュエーションだろう。
「捕まえる前に教えて差し上げましょう」
俺はヴァームの方を見る、目を細め手を広げて語り始める。
「ラキュ様は猫が苦手なのです」
「なに…?」
後ろから猫がわらわらと近付いてくる気配を感じる、猫が苦手……あんなに可愛い生き物なのに何故?
「それは仕方の無い事です……何故なら」
かっ! と目を見開くヴァームそして、しゅびびっと勢い良くラキュを指差す。
「ドラキュラの唯一の弱点は猫なのです! 何故かは不明ですがね……」
「っ!!」
なっ……なんだと!
「ほっ本当かラキュ!?」
「猫……いる……沢山……駄目……終わり……無理……あぁ……」
本当っぽいな、会話が成り立っていない、もう片言じゃないか。
「詰みですね、シルクさん」
「……」
魔物の生態の無知がまさかの事態に陥るとはな、くっ……ラキュはもう動けない、どうする? どうすれば良い! じわりと汗を流しながら思考を巡らせる。
「もう諦めて下さい……仮に私を通り過ぎてもこの先には魔物達が通せん棒してますよ?」
此処にヴァームが来なくても門から逃げられなかったと言う訳か、と言うか俺は端からヴァームを通り過ぎろうとは思っていない、そんな事は俺の体力じゃ不可能だ!
「確かに詰んでるな……」
「ふふ……やっと素直になりましたか」
細く笑うヴァーム……その笑みが憎らしい、猫達は可愛らしい鳴き声を出しながらこっちにやってくる。
「もう諦めるしか無いのか……!!」
その時だ、俺はふと「ある考え」を思い付く、だがそれはここを切り抜けるだけの策、つまりこの城下町から出られる策ではない。
「では、ラキュ様を連れて私の方へ来て下さい」
優しく手招きするヴァーム、向こうは勝ちを確信している……油断しているのが見て分かる。
「分かった……」
俺はヴァームの言った通りにラキュを背負う。
「ではこちらへ……」
やるなら今だ……今しかない!
「ラキュ…今度は俺が助ける番だ」
ヴァームに聞こえない様にラキュに語る。
「シルク……君?」
目を丸くするラキュ……俺が何をするか分かっていないみたいだ。
「どうしたんですか? 早くこっちへ来て下さい」
あまり立ち尽くしてたら怪しまれる、やってやる! もってくれよ俺の体力!
「ラキュどんだけ叫びを上げても良いっ少しだけ我慢してくれ!」
「……へ?」
気の抜けた声が漏れた。
「っ!」
ヴァームが慌てる様子を見せた! よしっ行くぞ! 俺は沢山の猫の方を向き全力で地面を蹴って走る!
「うぉぉぉらぁぁぁ!!」
俺は大声を上げて気合いを入れる。
「ちょっ……しっシルク君!だっ駄目っ…そこっらめぇぇぇぇ!!」
ラキュは凄まじい叫びを上げる、色々とアウトな叫びだな。
「まっ待ちなさい!」
ヴァームはそう言うがそれで待つ奴はいない、全力で逃げさせて貰おう!
「ふぎゃぁぁっ!」
俺が大声を上げて驚いたのか、いっぱいいた猫達は飛び退いて道が開かれる!
「はぁ……はぁ……ラキュっ絶対に……逃げるぞ!」
「わっ分かった…分かったから……その道はやめっやめて!猫……ねっ猫がぁぁ!」
うっ……耳元で叫ばれて煩い、が、ここは我慢だ! 俺は力の限り走る! 考えなしに走っているから何処を走ってるか分からない……だが走り続けさえいれば捕まらない筈だ!
「シルクさんっ止まりなさい!さもないと……」
ヴァームが脅しを掛けて来た……ふっ、そんな脅しには屈しない!
「行くぞっラキュ!」
「猫がっ……猫が追って来るぅぅ!!」
背中で騒ぐラキュをスルーして走る、脅しなんて全力でスルーだ!
「空にシルクさんのお風呂シーンやその他諸々を投射しますよ!」
「……は?」
そんなヴァームの声にうっかり立ち止まってしまう、そして空を見上げる……俺のお風呂シーンを投射した……その青い空には燦々(さんさん)と輝く太陽と共に俺の入浴シーンと酒に酔った姿がでかでかと写っていた、しかも酒に酔ったいた写真に至っては……。
『シルクさん、お着替えしましょうか』
『はーい』
動画だった……しかも音声付きの奴だ、酔いどれて顔がほんのり赤い俺は素直にヴァームにお着替えされている、そんな動画だ……。
「投射しますとか言っておいて……もう投射してるじゃねぇか! 阿呆がぁぁぁっ!」
俺が恥ずかしがると所々から歓声が上がる。
「ふぉぉぉ!!」だとか「やべぇぇぇ!!」だとか色んな歓声だ、後拍手も聞こえてくる、こっこれは……過去最凶に酷い仕打ちだ、俺は全身の力が抜けラキュを地面に落としてしまう。
「しっシルク君っ今落とさないで!ねっ猫が……猫がくるっ!」
騒ぐラキュと恥ずかしさのあまり悶絶する俺、その場に踞る、おのれヴァーム、やってくれたな……一番恥辱を受ける奴を平然とやってのけやがった!
「うふふふ……今度こそ万策付きましたね、では止めです」
満面の笑みを浮かべ、ぴゅぅーとヴァームが口笛を吹く、すると。
『ばぅわぅっ!!』
『にゃんっ!』
『ふにゃっ!』
数々の猫達を押し退けながらケルベロスのケールが前からやって来た。
「……え?」
勢い良く飛び付き俺を押し倒す。
「!?」
大型犬よりも一回り大きい身体が俺にのし掛かってくる、かっ顔が近い……3つもあるから迫力がある。
「わんわんっ!」
「ちょっ……なっ舐めるな!」
お前ら舌が3つあるから直ぐに顔がべたべたになるんだよ! っ! そうだラキュは、ラキュは今どうなってるんだ? そう思い横目で見てみる、そこに写ったのは……。
「ねっねこぉぉぉぉ!?」
ラキュの身体に猫達が集ってる姿だ、暴れまわるラキュに猫達は尻尾をたてて嬉しそうにじゃれついていた、猫が嫌いなのに猫に好かれてるんだな……可哀想に。
「うふふふ…では2人共、激しい運動の後はコスプレしましょうか」
いつの間にか近くに来ていたヴァーム、何時もの事ながら言ってる事が本当に意味不明だ。
はぁ……これだけ逃げたのに結局こうなるのか……くっ、運命は残酷だ! そう思う俺の中である格言が思い浮かんだ。
どうあがいても結果は変わらない、悲しいけどこれが現実だ、本当に涙が出て来る……。
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