どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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わはわは城の中へ入り全力で走る。
この場にヴァームがいれば「廊下を走るな」と煩い事を言うじゃろう。
じゃが、今はいないので構わず走る。

「どこじゃぁっ、シルクぅっ!」

ふむ、叫んだが返事は無しか。
だが、まだちょっと探しただけじゃ、声の届かぬ所にいるかも知れん。
じゃからしっかり探さねばならんな。

しかしじゃ、街ほどではないが城の中は広い! 父上のアホ! じゃからあれほど城は小さくて良いと言ったのに……と、今はそんな愚痴を言っとる場合ではないな。

探せ、今は探すのじゃっ。
あ……今気付いたが匂いを辿れば良いんじゃないかえ?
わらわは魔物、人間とは違い嗅覚が優れておる。

「かんっぜんに焦って忘れておったのぅ。不覚じゃ」

いつもシルクを探す時は、匂いを辿ってると言うに……それを忘れるまでに焦っておったか。
いかんいかん、冷静になるんじゃ……。

その場に立ち止まり、すぅ……はぁ……と深呼吸、よぉしっ落ち着いたのじゃ。
では、匂いを辿ろうかの。

すんっ……すんすんっ。
「……んー、んー? っ!」

かっ感じた! 一応確認する為、頭のバンダナを外し、その匂いも嗅ぐ。

「すぅ……はぁ……。うへへぇ、まったくもって同じ匂い。間違いなくシルクはここにいる」

微かじゃが、それを感じた。
このあまぁい香りはシルクのもの。
まだまだ香りは薄いが、匂いを辿っていけば匂いは濃くなっていく。
即ち、そこにシルクはいる!

「くふふふふ。いま行くぞっ、シルクぅぅぅ」

タタタタァッ!
再び走るっ、床を蹴って、ドゥンッ! と加速する。
まず廊下を真っ直ぐ、2手に別れてる所を左……そのまま真っ直ぐ!

すんすんすんっ……。
ふむ、近いっ、近くなっておる。
もう直ぐシルクに会えるぞ! 会った瞬間ハグしてやろう。

きっとシルクは驚いて可愛い悲鳴をあげるじゃろうなぁ、くふふふふふ。

いかんなぁ、それを想うとついニヤけてしまう。

「……ん? っ、あれは!」

その時じゃ、少し遠くに人影が見えた。
見付けた、あれはシルクじゃっ、匂いもシルクのものじゃ!

くふふぅ、ようやく見付けたって感じじゃな。
よぅしっ、ではこのままの勢いのまま抱き付いてやるのじゃ!

と言う訳で更に加速する。
すると、わらわに気付いたのかこっちを向く。
……シルクじゃ、きょとんとしてるシルクがそこにいた。

「しっるくぅぅぅぅっ」

そのシルクに向かって、甘えた声で飛び付く。
うっはぁぁっ、これじゃよこれ、この抱き心地……他の者には味会わせたくない抱き心地じゃ。
うぅぅぅぅっ、さいっこうじゃぁぁぁっ。

ん? あれ? なっなんじゃ? いっいつもの「きゃっ」とか「うわぁぁっ」て言う可愛い悲鳴が出んぞ?

こっここは、一旦離れよう。
そして、シルクをくるっとまわしわらわの方へ向ける。
……なっなんじゃ、その虚ろな表情は!

「……どっどした? なんか元気ないのぅ」

戸惑って聞いてみる。
そしたら……シルクは何処か遠くを見て。

「あぁ……」

と呟いて、わらわを置いて何処かへ歩い行く。

「ちょっ、ちょいと待て! シルク、なんか変じゃぞ? なにかあったんじゃな? あったんじゃろ?」

わらわはそう聞くと、シルクは立ち止まる、そして……。

「なにも」

とだけ言って、また歩き出した。
いっいや……なにもって、明らか何かあったような顔付きをしておったぞ?
おっ恐らくアヤネと何かあったのは明らか。

いっ一体、なにが起きたんじゃ?

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