どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

320

「あれ? 着替えてないね……どうしたの?」

部屋から出た俺はきょろきょろ見回す、ラキュに話し掛けられたけど構わず見回した。

「ヴァームはどこだ?」
「え? まだ着替えてるんじゃないかな? ほら、あそこから声聞こえるでしょう?」

ラキュはスタッフルームの方を指差す。
言った通り声が聞こえる、「きゃぁ」とか「わぁ」とか聞こえる、すっごく騒がしい……中で色々起こっているらしいな。

「そうか、着替えてるのか」

まさか自分の分の衣装も作ってたなんてな、って、そんな事考えてる時じゃない。
さっさと抗議し無いとダメだ! しかし、今は着替えの最中……その中に入ろう物なら修羅場になる事は分かりきってる。

だったら待つしかないか……。

「ねぇ、早く着替えないとダメなんじゃない?」
「着替えようが無いから困ってるんだよ」
「え? あぁ……そう言えば、ボディペイントがどうとか言ってたね」

あぁ、そう言えばラキュは俺が何に仮装するのか知らないのか。
だったら見せてやろうか、俺が何に仮装するのかをな。

「これだよ……俺が仮装するのは」
「ん、どれどれ……え? えと……これは……うん、どんまい」

ラキュが紙袋の中身を見た瞬間、哀れみの表情を向けてきた。
同情か? 同情するのか? だったらその服と交換しろよ!

「いやぁ、今回のヴァームは何時もよりブッ飛んでるね。まさかボディペイントに目をつけるなんてね」
「感心してる場合か! 俺は嫌だぞ、こんなのに仮装するなんて! と言うかボディペイントって仮装なのか? そこの所も問題だからな!」
「んー……考え方によってはそうなるんじゃない? 物事は柔らかく考えないとダメだよ?」
「あのな……他人事だからって陽気に笑うのもいい加減にしろよ?」

くっ……最悪だ。
ヴァームも最悪だが、こんな俺を目の前にして陽気に笑うラキュも最悪だ!
あと、鬼騎もだ! 然り気無く逃げやがって……一言文句いってやる!

……って、あれ? 鬼騎がいない。

「なぁ、鬼騎はどこだ?」
「ん? あぁ……脳筋ならメェに包帯巻いて貰って外に出てるよ」

ほぉ……なるほどな、俺がいないちょっとの間にそんな事があったのか。
と言う事は、今まさに確実に「あっ……うっ……えっ……」て言いながら戸惑ってる頃だろうな。
逃げた罰が当たったんだな、ざまぁみろ。

「因みに、メェの衣装は鬼だったよ」
「そうなのか」

獣人が鬼のコスプレか……これまた変な感じになったな。

ガチャ……。
ん? スタッフルームの扉が開いたな……って、ヴァーム!

「あら、ラキュ様にシルク様……」

か細く笑うヴァームはヨタヨタした足取りで近寄ってくる。
もう……ほんとに休んだらどうだ?

「外に行かないのですか?  ……シルク様は着替えてないですね」

じぃっと見つめてくるヴァーム、 眼が虚ろだ。
なんか文句言うのが怖くなってきた……いっいや! 言うんだ、その為にヴァームを呼ぼうとしてたんじゃないか。

「あ、その事について言いたい事があるんだ」

冷静さを保ってるつもりだが、声が震えてしまった。
落ち着け、ヴァームは疲れてヘロヘロでこんな風になってるんだ。

だから恐がる事は無い! ……筈だ。

「そうですか、なんでしょう? 言いたい事と言うのは」

小首を傾げるヴァーム、よし……言うぞ、言うからな! 心の中で勇気を奮い立たせてると……。

「シルク君、先に外に出てるよ」

ラキュがそう言って出ていってしまう。
なんでこの状況で出ていくんだよ! そこにいてくれよ、実を言うと1人で文句言うのは凄く恐いんだよ。

お前が居てくれて、ほっとしたんだからな!

「シルク様?」
「っ! えっえと……」

中々言い出さない俺に痺れを切らしたのか話し掛けてきた。
はっ早く言わないと……バシッと言えば良いんだ。
自分の思ってる事の全てを!

「ヴァーム」
「はい」
「これの事なんだが……」

ガサッ……。
紙袋の中身をヴァームに見せる、そしたら目を細めて見てきた。

「これが何か問題ありますか?」

さらっと言ったな……。
問題あるから、こうして文句いってるんだよ。

「これ、ペンキだよな?」
「はい、ペンキですよ。正確に言うのなら、水で流せるペンキです」
「そっそうか」

いや、そんな事はどうでも良いんだよ! 問題はそこじゃないんだよ!

「これ、服じゃないよな?」
「はい、そうですよ?」
「だったらコスプレじゃないよな?」

俺がそう言った瞬間、ヴァームの眉がピクリと動いた。

「コスプレですよ!」
「うわっ、ビックリした! きゅっ急に叫ぶなよ」

カッ! と目を見開いて、ズンッ! と前に近づいてきた。
ビビった、盛大にビビった……お陰で転びそうになった。
て言うか、眼血走ってて恐い!

「ボディペイントだってコスプレです! なぜならゾンビと言う魔物になりきるんですからコスプレなんです!」
「おっおぉ……」

凄い迫力だ、その性で頷いてしまった。
なんか、すっごい持論を述べてきた……しかも真顔で。

まれに見る、怒ったヴァームより恐い、このヴァームの方が断然恐い。

「……で、言いたい事はそれだけですか?」
「あ、はい」

あ、はい……と言ったら納得してしまう事になるから言っちゃいけないんだが言ってしまった。
だって仕方ないだろ? 威圧感が凄いんだから……。

「でしたらお早めに着替えてください」
「……えと」
「問題あるんですか?」
「あ、無いです。着替えます」

何か言おうとしたが、睨まれた。
慌てて「無い」とか言ってしまった。
ダメだ、嫌な方へどんどん進んでいってしまう。

「はぁ……着替えるしかないのか?」

小声で呟いた時、ヴァームがピクリと動く。
やばい、聞こえたか?

「シルク様」
「なっなんだ?」

びくつきながら答えると、ヴァームは微笑む。
やばい、心の声が口に出てたか?

「配慮が足りませんでした。ボディペイントは1人じゃやり辛いですよね? スケットを呼んできます」
「あ、そうか。ありがとう……え、スケット?」

その言葉を最後にヴァームは女性達が着替えてるスタッフルームへと入っていく。

残された俺は考える。
…………これ、ヤバイ事になるんじゃないか?

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