どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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だだだだぁっ!
いりくんだ路地を右に左に駆け抜けていく……そりゃもう土煙が立つ勢いでロアは走った。
凄いスピードで走るから引きずられている、目まぐるしく景色が進んでいく……。

それと、ふわっと足が浮いている、いつ足が擦れて怪我するか心配で恐い! こっちはズボンはいてないし転けたら大変なんだぞ! だから……。

「とっ止まれぇぇ、ロアぁぁぁぁぁっ!」
「止まらぬっ! 今、何をするか考えているのじゃ! 考えが出たら止まるから心配するでない」
「止まってから考えろぉぉっ!!」

て感じに叫んでいるんだが、止まらない。
全く止まる様子が無い、体力人並み以下の俺が、こんなハードな運動を続けてたら……直ぐに体力が底を尽きてしまう!

あぁ……やばい、これ最悪足が折れる。
万が一このまま転けたら確実に折れる、今ズボン掃いてないから擦り傷を負うのは確実だ!
転けなくても、走ってるうちに限界が来て折れる! だって今も足がミシミシ言ってるんだ! もう限界が近いんだよ!

くっ……こんな想像するだけで痛々しいこと経験したくない!

くそぅ、ロアも俺の体力の事は知ってる筈なのに! なんで止まってくれないんだ!

「ろっロア……いっいい加減に……ん?」

と、そのときだ……急に足が軽くなった。
いや、この感覚は……浮いた? あっ足が……浮いてるのか? それと、視界が下向きになってしまう。

あっあれ? なっ……なんで……急に視界が下に?
不思議に思って振り返ってみると……。

「やっほぉ」

アヤネが俺の足を持っていた。
いや、やっほぉじゃない! 何してるんだ!

「足怪我するとダメだから持ったの」

俺が何も言わなくても応えてくれた。
なに? 心でも読んだの? えらくピンポイントに応えてくれたが……。
まっまぁ良いか、結果的に助かったんだし……って助かってないわ、この全速力で運ばれてる状況まっったく助かってないわ!

なんだよこの状況! 手と足を持たれて運ばれる? なんだそれ……俺は木材じゃないんだぞ!
あとこれ、体制めっちゃキツいぞ! 足の次は腹が痛い! 

って、ダメだ、いくら心の中で突っ込んでもコイツらには伝わらない。

「おい、止まれ!」

俺は叫んだ、腹の底から名一杯声を出した。

「うん、分かった」

そのかいあって、止まってくれた……アヤネだけが。

「……むっ、うぉっ!」
「えっ、ちょっ! ぐぇぇぇぇぇっ!!」

結果、アヤネが止まった事によって、前を走り続けてたロアも強制的に停止する。
このとき、手首を持たれてたので、俺の身体は前に引っ張られ腕がぐぃぃぃって引っ張られる。

みちっ……。

「あぁぁぁぁっ、うっ腕がぁぁぁっ!!」

へっ変な音した! 今変な音がしたぁぁぁ!
内心慌ててると、更なる悲劇が訪れる。

ロアが俺の手首を離したのだ……。
さて、そしたらどうなると思う?

支えの片方が無くなったんだ、当然俺は地面に顔から落ちると言う事になる。
……って、冷静に分析してる場合じゃない!

「っ!?」

咄嗟に目を瞑った……。
…………? あれ、痛くない……幾ら待っても痛みが来ない。

そっそれはそれで良いんだが、ふっ不思議だ。
なんだ、俺は今どうなって……うぉっ。

身体が、ぐるんっと回転した気がした。
のっ脳が揺れる……そのせいで、目を開けてしまう。

「大丈夫? シルク」
「……」

そこにはアヤネがいた。
上にはアヤネの顔、身体は浮いてる、いや……抱かれてる?
こっこれはもしや、ひっ久し振りの……おっお姫様抱っこか!

今の状況を察した俺、一気に顔が紅くなる!

「シルク?」
「っ!」

くっ、何も喋れない……いつもなら一言二言文句いってやるのに……なんで喋れない?

きっきっと、アヤネが何時もの服装じゃ無いからだ!
何時もの感じじゃないから……妙な気持ちになってるんだ。

「……ねぇシルク、ちょっとだけ付き合って」
「…………え?」

顔を紅潮させながらアヤネがそんな事を言ってきた。
付き合う? どっ何処へ?

そんな疑問が浮かんだ時…とアヤネが思い切り地面を蹴ってジャンプした。

ドンッ! 
衝撃が身体を突き抜ける、驚いて声も出せない俺をよそにアヤネは軽快に浮いているカボチャに足を乗せ、屋根に着地する。

「じゃ、行こっか」
「いや、行こっかって……わっ!」

どんっ!
弾丸の様な速さで走った……俺の声はそれによってかき消されてしまう。
あっアヤネ……いったい何処に連れてくつもりだ?


 ……時間はほんの少しだけ遡る。
城下街地下、いりくんだ路地の中心で、わらわは尻を突き出して前のめりに倒れておった。

「うっ、ぐぬぬぬぬっっ……」

いっっ、くっ……何か見えぬ力で前に進めなくなってしまったのじゃ。
腹とふとももを擦りながらわらわは起き上がる、うむ……傷は付いておらんな。
しかし服が少し汚れてしもうたのぅ、後でヴァームに怒られるのじゃ……。

いや、そんな事よりもじゃ……状況の確認じゃ。
ざっくり周りを見渡すと何も変わった様子は見られない。

むぅ……なんじゃったんじゃ今のは?
まぁ、何もないなら無いで良しとするかの。

「シルク、すまぬな……急に止まってしまって……む?」

くるりと振り返ってみると、後ろで転けてるであろうと思ったシルクがいない。

んあ? どっどういう事じゃ? なぜ誰もいない……。

「シルク? 何処にいるのじゃ?」

声を掛けてみる。
……むぅ、返事は無しじゃな。

「不思議じゃ、シルクの謎の消失……まさか、これもハロウィン特有のイベント! な分けないか」

シルクにそんな人間場馴れした芸当出来る訳無いのじゃ、シルクが消えたのはわらわが転けた時。

シルクの無事を確認する為、後ろを振り返った。
そうするまでに時間は掛からなかった、つまり数秒での行動が必要になる。

「くふふふ、体力無いシルクがそんな事不可能じゃ、可能なのは人間場馴れしたアヤネ……っ!?」

慌てて周りを見た、だがいない! さっき確認した通り、なんら変わりの無い景色じゃ……。

くっ、シルクどころかアヤネもおらん!
まっ不味い、これは不味い。
アヤネのやつ……あの一瞬の隙をついてシルクを拐いおった!

「うがぁぁぁっ、折角ラムが気を効かせてくれたと言うにぃぃ、シルクを持ってかれたのじゃぁぁぁっ!」

ぐぅぅ……ラムに久し振りに感謝したと言うに、その気遣いを無駄にしてしまった。
あの時、チラリと見たとき「ロア様、隙を見て二人きりになってくださいまし」と言った風に感じた。
わらわはそれに応えようと思い、シルクを連れ出したと言うに……アヤネの方がシルクと二人きりになってしまった。

何が行けなかった? 走ってれば何か良い考えが出るだろうと思った故の行動じゃったのに……何がいけなかったんじゃ!

いや、思えば最近のアヤネの様子は可笑しかった、やたらとやる気に満ちておったし……なにかしてやろうと言う意思を感じた。

いっ嫌な予感がする。
焦りの汗が頬を伝う、わらわはそれを拭い目を細める。

「……悔いても仕方ない、一刻も速くシルクを見付け出すのじゃ!」

嫌な予感の通りにはさせぬ。
だから……はやいとこ探そう、探し当てるまでくれぐれも変な事をするでないぞ、アヤネ!

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