どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

335

ふふふ、と悪戯っ子の様に笑うアヤネ、それを見て思い出した。
その瞬間、一気に身体が熱くなるのを感じた。

「あ、ドキドキしてるね」
「っ、そっ! そんな事ない……」
「そんな事あるよ、身体は正直」

まっまさにその通りだ。
もう心臓がばくんばくん言ってる、本当に正直な身体だ。
と言うかアヤネよ、その言い方だと変な風に取られるぞ?

「シルクは覚えてる?」
「……なっなにを?」

察してはいるが聞いてみた。
すると、にまぁっと笑ってくる。
なんて不適な笑みなんだ、それになんだその目は、俺を弄ろうと言わんばかりの目をしてるぞ。

「昔のハロウィンの事」
「あぁ、友達とで行ったな。覚えてるぞ」

俺は微笑みながら言った。
確実に俺の言ってる事は的を外れてるが、あの思出話を話させない為に誤魔化そう。

「そこじゃなくて、2手に別れて暫くした時の事だよ」

やっぱり無理だった、分かってたさ……無理だって事はな。

「あぁ、その話しか」
「うん、その話しだよ」

ははは、と笑いながら言うと、アヤネは微笑んだ。

「ふふふ」
「なんだよ……」
「あの時のシルクは可愛かった。今も可愛いけど」
「あ、あの時の事は……もっもう良いだろ?」

やたらと弄ってくるな。
あんまりしつこいと怒るからな!

「……怒る? なんかそんな顔してる」
「分かってるなら、これ以上言わないでくれ」
「えー……」
「えーじゃない」

なんでそこまで言いたいんだよ。
と言うか落ち着いて考えれば、あの時のあれは、子供の無邪気さの行動が引き起こした事だ。

だからこうやって焦る事は無いんじゃ……。

「あの時もシルクの口元ぺろりって舐めたねって言いたいだけなのに……」

いや、そんな事全然無いわ、言われたら超恥ずかしいわ。
ってアヤネ! 言いたいだけなのにとか言っときながら言ってるじゃないか!

「もう言ってる……」
「あっほんとだ、言ってる。でも詳しく言ってないからセーフ」

その事を突っ込んでやると、アヤネは誇らしげに胸をはった。
なんでそんなに誇らしげなんだよ、誇る所どこにも無いだろう。
それに、それはセーフなのか? 話の半分言っちゃってるが……セーフなのか?

「確か3件目の家だったよね」
「あぁ、そうだな……って! なにさらっと言おうとしてるんだよ!」

俺は思い返す様に斜め上を向いた、その瞬間気づいた。
危なかった、さらっと言われる所だった。

「ちっ、惜しい」

舌打ちしやがった。
どうしても言いたいんだな、言うなって言ってるのに……。

「ねぇ」
「なっなんだよ……」

俺の目をまっすぐ見て言ってきた。
透き通る様な視線だ……。
急にからかう感じが消えた? そんなアヤネに警戒しつつ、次の言葉を待った。

「慌ててる?」

え? ……慌ててる、だと? 俺が?

「質問の意味が分からないんだが?」

素直に感じた事を言ってみた、そしたらアヤネは俺の右手を両手でぎゅっと握ってくる。

「シルクがあの時、チョコを食べた時の私の行動って……キス、だもんね」
「っ、ちょっ!? もがが」

なっ、なななっ! いっ言った! 言いやがった!
直ぐに言葉で遮ろうとしたが、ぽむっ……と手で塞がれる。

「シルクがチョコ食べて、そしたら口元に付いちゃって、私が舐めた……。そしたらシルク、すっごく慌ててたね」

じたばた暴れながらアヤネの話を聞いた、その話しの全てが事実だ。
そう……あの時の俺はそんな経験をした、幼い時に記憶に深々と残る事が起きたんだ。

だからこそ、聞きたくなかった。
改めて言われると、恥ずかしい、それに……その、なんだ。
あぁぁっもぅっ、兎に角恥ずかしいんだよ!

「きゃぁって叫んで、アホアホ言いながら私をぶった」

言った覚えは……うん、あるな。
あるが……そんなアホアホ言いながら叩いたか?
って、アヤネ! なに抱き付いてきてるんだよ!

くっぐぐぐ、柔らかいのが、あっ当たってる……。

「……あれって、キスだよね」

っ!?
うっうぅぅ……その事に気付いたのは、それから数日経った時だ。
思いっきり唇当たってたし……なっなんと言うか、うん……柔かかったよ。
って! 染々思い返してる場合か!

「シルク……もしかして、言われると思い出して恥ずかしくなるから慌ててたの?」
「むっむぐっ……」

うっ……。
この胸にグサッ! とくる感じ、図星だ。
俺は慌ててたんだ、慌ててたから言わせないようにしてたんだ。

「顔まっか、当たりなんだ」

みっ見透かされてる。
いつものアホみたいな事ばかり言うアヤネは何処に行った! 

くすっ、と笑うアヤネ、そしたら急に目を潤ませて、ずいっ! と顔を近付けてくる。
俺は直ぐに顔を横に向けるが、ぐいっ! と戻された。

「あのね。ほんとは楽しんで貰ってから言うつもりだったんだけど……言うね」

とっ……とっ……とっ……。

アヤネの鼓動が速くなるのが分かった。
そう言う心音がする、心なしか顔も紅くなってる気がする。
なっなんだ……これ。
俺、アヤネの事……今までで一番可愛いって思ってる。

「……あ」

あ、口から手を離してくれた。
これで離れる事は出来るんだが……俺は動けなかった。
力付くで抱き付かれてる訳じゃない、なんと言うか……離れちゃいけないって思ったんだ。

「…………っっ」

そんな気持ちになった時、アヤネはきゅっと目を閉じた。
……微かにだが震えてる、恐らくだが、次に言う言葉は凄く勇気がいる言葉なんだ。

だから震えている、つまり今まさに、勇気を振り絞ってる最中なんだ。
その様子を、俺は黙って見守った。

「…………よしっ」

長い沈黙を続けた後、アヤネは意を決して目を開けた。
そしてすぅっ……と息を吸いながら口を開けた。
きたっ、言う勇気が出たんだ。

そのままアヤネは、俺の目を真っ直ぐ見たまま話してきた……。

「あのね、私ね……」

うっ……やばい、この大事な話しをしてくる感じ、こっちまで緊張してくる。
アヤネの方が緊張してるってのにな……。

さぁ……アヤネ、次は何を言うんだ?

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