どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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さぁ、何を言うんだ? ドキドキしながらアヤネの言葉を待った。
しかし何も話してこない、「あのね、私ね……」の続きを話してこない。
えっえと、どうしたアヤネ?

視線が定まってないぞ? それに息が荒いぞ。
ひぃひぃ言ってるじゃないか。

「とっ取り合えず深呼吸してから言ったらどうだ?」
「っ、あ……ん、」

俺の言葉に頷いて、ひぃ……ふぅ……はぁ……と深呼吸。
しかし、それでも緊張は取れないのか、また息が荒くなった。
それと、さっきからアヤネの心臓が荒ぶってる……密着してるから分かるんだ。
もう、ばっくんばっくんっどっきんどっきん言ってるよ。

メェと話す時の鬼騎もこんな感じなんだろうか?

「……っ……っっ……」

口を開いては閉じ開いては閉じ、その繰り返し。
そんな自分に苛立ったのか、ばしっ! と自分の太ももを叩く。

「いっ言うよ」
「っ、おっおぅ」

むふぅ……と勢い良く鼻息を出す、しかし喋らない。
身体に力が入ってるのか表情が固い、えと……こっこれ以上は見るに耐えないな。

「……ぅ、あ……」

余程大事な事なのか、歯切れが悪い。

中々言い出せずにモゴモゴしてる、ここは「落ち着け」と言ってやるべきか? それとも黙って見ているべきか? はたまた会話の内容を察してやるのが正解なのか?

どっどうしよ、物凄く気まずい。
これ、下手に何か言って良いのか分からないぞ。

なんて思ってると、「あのね!」と大きな声をあげてきた。
ビックリした、びくっとなった。

「言うよ、ほんとに言うよ、いっ今から言うよ!」
「わっ分かった……おっ落ち着いたらで良いから言ってくれ」

俺の言葉に黙って頷く。

そして、意を決したのか目を見開いた。
今度こそ言うか?

「シルク、あのね! 私……」

きた、続きを喋るぞ。
ごくりっと唾を飲み込む……さぁ、何を言う? 俺は何を聞かされるんだ?

……っ!

ん? なんだ、今微かに音が聞こえた様な気がする。

タッ…タッ…タッ…タッ!
いや、気のせいじゃない、確かに聞こえたぞ。

ダダダダダダダッ!!
誰かが走ってる……のか? 心なしかこっちに近付いてきてる……って、わぁぁっ!?

「うぉぉぉぉぉっ、さっせるかぁぁぁぁぁっ!!」
「え、ろっロア!」
「……っ!?」

シュバァァァァァッ!!
と勢い良くロアが走ってきた、そして俺とアヤネの間を通っていく。
結果、密着状態から解放された。

ズザザザザァッ!!
と、足を滑らせながら止まったロアは、ズンズン足音を鳴らしながら近付いてくる。
そして、がっ! と俺の腕を掴んで自分の方に引き寄せる。
思わず「おわっ!」と声をあげてしまった。

「アヤネ! きっ貴様……わらわをさしおいて、しっしようとしたな!」

顔真っ赤になりながら、指差してくる。

「むぅ、邪魔された……」

不満げに口を尖らせるアヤネ、俺はと言うと、ただ焦っていた。
……えと、とっ取り合えず「状況の説明をしろよ」って突っ込めばいいのか?

と言うかロア、何処から走ってきたんだよ、やたらと息があがってるぞ。

「ガルルルルルルルッ!!」

しかも獣みたく威嚇してる、でもアヤネは動じていない。

少しくらい動じても良いんじゃないか? 魔王が全力疾走して来たんだぞ。
俺は動じたぞ、身体をびくっ! とさせたぞ。
しかしアヤネの方は……「わ」と声をあげただけ、指1つ動かさなかった。
ただそれだけだ……リアクションうっす!

「シルク!」
「なっなんだ?」

凄い迫力だ、思わず声が震えてしまったぞ。

「アヤネには何もされんかったかえ?」

…………っ。
聞かれて欲しくない事を聞かれてしまった。

「なっ! なんで顔を背ける! 紅くなる! さっされたんじゃな? されたんじゃろ! 答えぬか!」
「うっ、ゆっ揺らす……な」
「くっ……完全に動揺しとる声じゃ。アヤネ! シルクに何をしたぁぁっ!」

キッ、とロアはアヤネを睨む。
そしたらアヤネは鼻でくすっと笑って……。

「色々したよ」

と言った。
そしたらロアは一気に静かになり、プルプル震えだした。

そして、身体からぶわっ……と黒いオーラが吹き出る。
っ! なんだ……これ、寒気を感じる。
こっこの……黒いのは、なっなんだ?

「おのれぇ……おのれぇ……おぉのぉれぇぇぇっ!!!」

ばっ! と俺から離れアヤネに襲い掛かる。
やっやばい! これ、完全に襲い掛かってるぞ!

「わ」

そんなロアの姿にも、アヤネはうっすいリアクション。
これこそ動じてくれよ、お前は一体何をしたら驚いてくれるんだよ!

「怒りと嫉妬と憎しみを込めた一撃をくらえぇぇぇぇっ!!」

って、突っ込んでる場合じゃなかった!
私怨にまみれたロアをなんとかしないとアヤネがやられる!
あっでも……もうロアはアヤネに急接近してる、これじゃぁ間に合わない!

そう思いながらも、走り出す俺、その時……俺の横から人影の様な物が素早く横切った。

"それ"は素早くロアの後ろへいき、跳んだ。
そして、がんっ!! とロアの後頭部を叩く。

そしたら「ふぎゃっ!!」と声をあげて、ベチャァァァッと床に叩き付けられた。

そんな驚きの行動をした者は小さい人? だった。
しかも頭から爪先までもれなく黒ずくめ、ご丁寧に手袋とブーツも黒。
あっ怪しすぎる、こんな怪しい奴がなんでクータンの家にいるんだ?
そんな疑問が浮かんだが、ある事に気づく。
頭が異様に丸い……どことなく見た事がある丸みだ、どこで見たっけなぁ?

と、驚きの行動を見た事をそっちのけで、謎めいた人物を凝視する俺。
アヤネの方もじとぉっと見た、そしてそいつはポツリと話した。

「あっあの……いっ家で、あっあばば、暴れないで……くだ……さい」

こっこの声、特徴のある噛み噛みな喋り方! 黒い布をぎゅっと握って恥ずかしがる仕草!
もしかしなくてもクータンだ!

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