どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

304

さて、俺はある人を探しに城を出た、それから辺りをきょろきょろ見回してみる。

「まぁ、そう簡単に見付からないか……」

いない、当然のごとくいない……まぁ、それは分かっていたさ。
あ、そうだ……探してる人を言うの忘れてたな、探し人はアヤネだ。

俺の経験上、あいつだけがシズハさんを止められる唯一の人物なのだ。

だが、いない。
何処にいるんだろうなぁ……はやく探さないとヤバイ気がするんだよなぁ。
だから時間掛けて探すのは避けたい、だが……何処にいるか分からない以上、そうするしかないな。

「アヤネーって呼んだらす出てこないかな。まぁ、そんな事あるわけ……」

ないよなぁ、そう思ってため息をはくと……。

「……んだぁ?」

誰かが叫んだ気がした。
……気のせいか? 首を傾げてると。

「シルクぅ、呼んだぁ」

聞こえた、今度ははっきりと……この声、間違いないアヤネの声だ。

「アヤネか? 何処にいるんだ?」

一体何処から叫んでるんだ? 辺りを見渡してみる。
……姿は見えない、どうやら遠くで叫んでるらしい。

だとしたら何処から叫んでるんだ?

タッタッタッ……。

ん、今のは足音か?
気のせいか? 近付いてきてる気がする。

いや……間違いなく近付いてきてる。

俺は視線を前に向けた。
そこから何かが……いや、アヤネが近付いて来てる気がしたからだ。

「ここだよぉ」

また声が聞こえた、今度はかなり近い……。
と言うか、見えたな……アヤネの頭が。

「……呼んだ?」

アヤネは素早く俺の側にやって来て小首を傾げてそう言った。

「いや、呼んだけど……なんで来たんだ?」
「呼ばれたからだよ」

いやいや、ん? って感じですぱって言うけどさ……アヤネ、何処にいたの? 何処で俺の声を聞いた? まさか聞こえる場所にいた?

いや……俺は大きな声で叫んでないぞ? ぼそって呟いただけだ。
それを……聞き取ったのか?

「……いや、この際なんでも良い」

アヤネの聴力が人を凌駕してた、なんて事は今は良い……。

俺は、疑問の表情を浮かべるアヤネの肩に勢い良く手をおいた。

「ひゃっ!」
「アヤネ! ちょっと付き合ってくれっ」
「……へぁ!?」

突発的にこんな事言ったら驚くよな。
顔真っ赤にして、ぷるぷる震えてる……ここは良く説明すべきなんだが、説明してる暇はない!

「説明は後でする!」
「えっ、あっ……ひゃぁっ」

戸惑うアヤネの手を掴んで、俺は城に戻る。
……アヤネは「わぁぁ、きゃぁぁぁっ」って叫んでる。
初めてだ、アヤネの叫び声を聞いたのは。

……なんて事思ってる場合じゃないな。
はやくヴァームの部屋に行こう。


 「ぜぃ……ぜぃ……はぁ……はぁ……」

つっ着いた……ヴァームの部屋の前まで着いた。
あぁ……疲れた、もう走れない、しんどい、目に汗が入る、しっ心臓が……くっ苦しい。

「シルク……大丈夫?」

ぽんっと俺の背中に手を当ててくる。

「だっだい……じょうぶ……」

にっと引きつった笑顔をアヤネに見せる。
本当はしんどいけど、そんな事言ってられない……そう言えば、最初戸惑ってたアヤネは、俺がバテると、心配そうにそう言ってきた。

だから途中からアヤネに手を引かれる形で俺がここまで案内したんだよな……情けない話だ。

「そう見えない、大丈夫? 介抱しよっか?」
「いっ良い……今は、その部屋に……はっ入って……くれ」

息切れを起こし、膝に手をつきながら話す。
……アヤネが心配そうな眼差しで俺を見てくるのが分かる。

だが、俺の事など今はどうでも良いんだ。
一刻も早く周りの空気なんて気にせず行動する一児の母を止めないとダメなんだ!

「……でも」
「少し……休憩したら……大丈夫だ。だから……その部屋に入って……くれ。そしたら……ここに連れてきた……意味が、わっわかる……から」

斜め後ろにいるアヤネに言うと、アヤネは暫く黙ったあと……「……うん」と言ってくれた。
すっごい不服そうだ、渋々了解してくれたって感じだな。

そしたらアヤネは、ちらちらと俺を心配そうに見ながら、ゆっくりと扉の方へ向かっていく。

そして……その扉をガチャッ……と開けた。

「うぉぉぉぉっ!? やっやめろっ! それ以上はやめるのじゃぁぁっ! あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うへへへぇ、褐色巨乳のおっぱいの揉み心地は最高ですねぇ」
「ちょっ、ヴァームっ! おっ落ち着く……ですよぉっ!」
「巨乳……は……滅ぶ……べき……です」

……扉のその先の光景は、予想以上にカオスな状況になった。
シズハさんがロアを押し倒してるし、ヴァームがメェを振り払おうとして暴れてる……それを鬼騎がフォローしてる。

それを見て俺が絶句した時……アヤネは。

「ま……ま?」

心底驚いた様にそう呟いた。
その時だ、シズハさんが動きを止めた、そしてアヤネを見た。

「あっ……アヤネちゃん?」

……その時、あれだけカオスだった状況が静かになった。
よし、なんとか止める事に成功した。
あとはアヤネがなんとかしてくれる、いつもシズハさんが面倒を起こした時みたいにな。

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