どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「はい、出来たよ」
「あぁ、ありがと……今日は何を作ったんだ」
「フレンチトーストだよ」

二度寝から目が覚めた。
いつもの様に声を上げて、引き剥がした後、俺は食堂に来た。

そこには、皆が来ている。
で……そこで昨日に続けて今日もアヤネが料理を振る舞っている。

その料理を見た皆は、苦笑する。
これがフレンチトーストか……可笑しいなぁ、俺の知ってるフレンチトーストは、ひとりでに動いたりしない筈なんだけどな……。

うごうごうご……。
うぉ……今、激しく動いたな。
食パンが一人で動く、中々にホラーな光景だ。
まぁ昨夜の事に比べれば、怖さはそんなにないんだけどな。

で、今からこれを食べる訳だ……折角アヤネが作ってくれたんだから食べたい、食べたいんだが……。

うごっうごうご……。
こうもうねりまくる食パンを食べるのは凄く勇気がいる。
いや……動くだけなら食べてたかもしれない、問題は見た目だ、見た目が問題なのだ。

「なぁアヤネ」
「ん、なぁに?」

きょとんとした顔でこっちを見てくる。
皆は苦笑しながら、フレンチトースト? を見ている。
小声で「これ食べれるの?」と言う風な事を口々にいっている。
そんな声を聞きながら、俺はアヤネに話した。

「これ、本当にフレンチトーストか?」
「そだよ、食べたことないの?」
「いや、そうじゃない……そうじゃないんだ」

アヤネの「変な事言うなぁ」と言う視線を受けながら、俺も苦笑いする。
そしてフレンチトーストに目をおとす。

球体のオムレツ、輝くピザ……アヤネの作る料理は鬼騎のアドバイスと独自のアレンジを経て味は劇的に変化した。

だが見た目、食べる上で必要な要素の美、見、香の内の見た目がアレなのだ。
俺はそれを見て、唇をピクピク震わせる。

「えと、ざっ材料は……普通のを使ったのか?」
「うん、フレンチトーストの材料だよ。作り方も赤鬼君のアドバイスを元に作った。そこに私のアレンジを加えた絶品フレンチトーストになった筈っ」

むんっ、と胸を張るアヤネ、それに対してロアが……。

「絶望的な品、縮めて絶品か……」

と、言ったがアヤネには届かなかった。
小声だから仕方無いな。
って、上手い事言ったな……。

「そっそうか、だから……全体的に虹色になってるんだな」
「うん、そうだよ。冷蔵庫にあった虹色の縞模様の卵を使ったらそうなったの。凄いでしょ?」
「え、あっ、うん、そっそうだな……あはははは」

もう笑うしかない、笑って誤魔化すしかない。
だって、それしかリアクションがとれないんだ、他にどうしろと言うんだ!

「シルク、そろそろ食べないと冷めちゃう」
「あ、うん。そう……だな」

そうなんだが、正直これは食べたくない。
いや、正確に言うのならコレも食べたくない。
だが、皆の視線が俺に向いている、無言で「食べろ」と言っている。
くそっ、こんな時にだけ一致団結しやがって……。

その視線に向けて、軽く舌打ちをしたあと、俺は大きく息を吸い込んで……その摩訶不思議なフレンチトーストにかぶりついた。

がぷりっ……。

「……旨い」

それは、食べた瞬間に溢れた言葉だった、それを聞いて皆は「ほっ」と一息つく。

なんか腹が立ってしまった。

と、それはさておき、味の方はいつものフレンチトーストとはまた違った上品な味わい。
見た目とは何だったのか、そう思わざるを得ない不思議な味だ。
きっと、フレンチトーストを作った人も驚くだろう……。

「どう? 美味しかった?」
「あぁ、美味しいぞ」
「やた」

俺の言葉を聞いて、にこぉっと微笑む。
余程嬉しかったのだろう、軽く上下に跳んでいる。

うん……なんて微笑ましい光景なんだろう。
こんなに嬉しそうな光景を見れるなら、あのフレンチトーストを食べて正解だったかもしれない。

で、俺は思ってしまった。
このフレンチトースト、この見た目で美味しいなんて……ある意味ホラーじゃないのか? と思ってしまったのは俺だけだろうか?

と、まぁこんな感じで朝食の時間が過ぎていく……。
アヤネ、今度の課題は見た目で美味しい! と思わせる料理だな。
アヤネはソレが出来ると信じてるよ……そう思いながら、俺は七色に輝くフレンチトーストを食べるのであった。

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