どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

269

ジャァァァ……キュッ……キュッ……キュッ。

トイレでの用が済み、手を洗い蛇口を閉める。

「ふぅ……スッキリした」

そう呟いた俺は、トイレから出た。
さて……トイレでの用も済んだし戻るか。

「……ロア、部屋に戻ってるかな?」

ここに来る時、ロアには会わなかった。
だからロアは先に部屋に戻ったんだろうなぁ。

すたっすたっすたっ……。
ゆったりと歩く俺はそんな事を考えながら歩く。

黙ったまま淡々と……すると、こんな事を考えてしまう。

夜の廊下って、歩くとなんか変な感じがする……。
ほらっ、皆には無いか? 曲がり角を曲がったら何かいるんじゃないか? と考えてしまったり……そう言う経験は無いか?
俺はある、今まさにそう考えてしまっている。

くっ……まずったな。
こんな事考えると、次々とホラーな考えが出てくるんだよな。
お陰で、プルプルと手足が震えてしまった……。

くっそ、24にもなって情けないなぁ。
だが仕方無い、怖いものは怖いんだ! それには抗う事は出来ないんだよ……。

だがしかし、俺はこうなった時、楽しい事を考える様にしてる。
楽しい事を考えれば、ホラーな考えなんて吹き飛んで、身体の震えも止まる。

例えば……例えばだな……くそっダメだ、ある筈なんだが今思い出せない。

それどころか、余計に怖い事を考えてしまった。
かっ身体が震える……そして早足になってしまう。

とっとっとっ……。
早くなる足音共に、心音も早くなる。
あぁ怖い、いや怖いとか考えるな、怖くない怖くない……ぜっんぜん怖くない。

「くっ……早く戻って、布団被って寝よう」

そうすれば怖い気持ちが無くなる。
なに? ガタガタ震えて情けない? じゃぁ聞くがお前等は夜廊下もしくは外を歩く時「怖いなぁ」と思わないのか? 思うだろ? 思うよな? 思うんだったら情けないとか言うなっ、自分でも分かってるんだよ!

そもそもこの廊下、今物音1つしてないから不気味でしかたない。
それと、ながぁい廊下が妙に恐怖心を煽ってくる。
そう、そのせいだ、そのせいに違いない。
だから俺が恐がりだとかそんな事は断じてない。

……ピンッ。

「っ!?」

なっなんだ……いま、音が聞こえたぞ。
全身がびくっと震えて、周りを見てみる……すると、近くに扉があった。

「こっこの部屋は……」

知らない部屋だ、ここは何の部屋だ?
そう思ってると……。

ピンッ……ポロンッ。

また鳴った。
今度はその音がなんなのか分かった、これは……ピアノの音だ。

つまり、この部屋はピアノがある部屋と言う事になる。
じゃぁ、誰かがピアノを弾いてるのか……こんな時間にピアノをするのか? 一体誰が?

さっきの恐怖は何処へやら、それが気になってしまった。

ポンッ……ピロンポンッ……ジャジャッジャァァァンッ!
「らぁぁっらららぁぁぁぁっ!!!」

っ!? っっっっ!!?
ビックリした、ほんっとビックリした。
なんだよ今の歌声とピアノの音は……まさか、何かの曲を演奏したのか?
それにしては下手くそ過ぎる。
ただ、大声を出して適当に弾いてる様にしか聞こえない。

「……中を見てみるか」

別に見なくても良いと思うが、誰が弾いてるのか気になってしまった。
それに、誰が弾いてるのか確認しても構わないだろう……別に困る事は無い筈だ。

さて……じゃ、誰なのか見てみるか。

「誰も……いない」

ガチャリ……。

恐る恐る扉を開けてみると……部屋は暗かった。
うっすらとだが、赤い絨毯に綺麗な白壁、それが目に映る。
で、肝心の誰が弾いてるのかだが……その部屋には誰もいなかった。

それを確認した後、その場で一通り見ましてみると……やはりこの部屋にはピアノがあった。
その他にもバイオリンとかもある、ここは音楽室なのか、だから楽器が置かれてるんだな。

で、ここには人は居なかったと、そうか……いないのかぁ。

「………って、全然全く良くない! 」

とっととっと言う事は、誰もいない部屋からピアノの音と変な声が聞こえたって事だよな?
それ、お化けだ! 絶対お化けだ!

いっいや、おっおちっ落ち着け! お化けはいない……いるわけがない!
……って、ん? なんだ……あの天井、何か張り付いてる?

それが気になって目を凝らして見てみる。
すると……。

「だっ誰もいませんよぉ……ここには誰もいませんよぉ」

可愛い女の声が聞こえた。
聞こえてしまった、それを聞いた瞬間、俺の身体は硬直してしまう。

そしたら……シュタッとその何かが床に落ちた。
むくりと起き上がり、ソレはひたっ……ひたっ……と近付いてくる。

「って、流石に無理ですよねぇ、えへへぇ」
「っ、っっっ!!?」

はっははっ話し掛けてきたぁぁぁッ!!
出たのか? 出たよな? 出ちゃったよな!?
確実に霊的な何かだと確信した俺は……声を圧し殺してダッシュで部屋に戻った。

多分、過去最高のスピードが出たと思う。

で、そのスピードで部屋に戻った後、横っ飛びでベットに飛び乗り素早く布団を頭までかぶって目を瞑った。

俺は何も聞いていない、何も見ていない、お化けなんていない。
いないったらいないんだ!
俺は何も見てないし聞いてない!

そう念じながら時は進んでいく。
この後、安眠出来なかったのは……言うまでもない。

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