どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「出来たっ」

アヤネの明るい声が響いた。
カウンターテーブルの上に置かれた皿の上には、アヤネが作った料理が乗っている。

「ふむ……」

それを見たロアは腕を組んで難しい顔をする、俺もそんな顔をしている。

「ふふんっ、渾身の出来だよ。さすが私っ、シルク褒めて」
「おっおぅ……偉いなアヤネ」

まず俺は褒めた、料理を作ってくれた人には感謝する。

「あ、でも……ピザ生地とチーズは赤鬼君作ってた奴だけどね……」
「そっそか、だが……具材はアヤネが調理したんだろ? 凄いじゃないか」
「あ、うぅ……あっありがと」

それに関してはありがとう本当に感謝する、だが……。

「あっアヤネ」
「ん、なに?」
「へっ変な事を聞くと思うが、何を作ったんだ?」
「……ピザだよ?」

本当に変な事を聞くなぁ、と内心思ったのか、アヤネはハッキリと応えた。
そうか、ピザか、そう言えば朝に言ってたな、ピザを作るって……。

「ピザ……のぅ」

ロアは顔をしかめながら料理を見る。
そして、次に鬼騎を見た。

「鬼騎よ、お主……しっかりとアドバイスしたのかえ?」
「あっあぁ、しっかりした。だが……朝と同じ様に勝手にアレンジをしたんだ。だからあんな風になっておる」

……なるほど。
朝と同じくアヤネのオリジナルアレンジか、だから見た目が不自然な料理が出来てるのか。

俺はまじまじとアヤネの作ったピザを見てみる。
……不自然だ、とっても不自然だ。
誰がどう見ても不自然、そう思うだろう。

「赤鬼君のアドバイス+私のアレンジ……今朝はそれで成功した。だから今回のも美味しいよ」
「おっおぅ……」

まぁ、それは正しい。
今朝のオムレツがそうだった。
見た目があれなのに美味しかった、その事実はある……あるんだが、敢えて言わせてくれ。

「えと、そっそれは……本当なのか?」

そのピザを指さして言った。
だって、本当にそう思ったんだ、仕方ないだろう? 今回のも見た目があれだから不安で仕方ないんだ。

と、そんな俺の言葉に頬を膨らませて「むっ……」と呟き、じとぉっと俺を睨んでくる。

「本当だもん」

ずいっと俺との距離をつめて言ってくる。
そんなアヤネの仕草に苦笑いしてしまう。

「今回は味見したよ、ちゃんと美味しかった。だか、問題ない」

なるほど、味見か……。

「そっそうか……って、今まで料理を出した時、味見してなかったのか?」

だったら問題は無いか、と思ったが途中で……いやちょっと待てって言いたくなる様な事を言ったぞ!

「うん」
「なっなんでだ?」
「……美味しそうじゃ無かったから?」
「美味しそうじゃ無いものを人に提供するなよ……」
「うっ、それはごめん……でも今回は違う。ちゃんと味見した。だから食べて欲しい」

今回は違う。
それ……信用していいのか?
アヤネの今の台詞を聞いて、より不安になったよ。


……さて、そろそろアヤネの作ったピザの見た目の説明をしようか。
今の今までどんなのかを言ってないからな、きっと、どんなのを作ったのか気になってるだろう。

えと、まずは形だが……まぁこれは普通のピザと同じだな、程よい大きさでもそれに厚さも平均的だ。

で、上に乗ってる具材だ。
それが問題だ……何が問題かって?
光り輝いてるのが問題なんだ。
もう、なんと言うか……一種の光源と言って良いくらい光ってるんだ。
もう見てるだけで眩しいくらいだ。

……え? 意味が分からないだと?
言葉通りだと思ってくれ、ピザ生地の上に乗ってる具材が光輝いてる……そう思ってくれて構わない。

「とある物語で、料理があまりにも美味しそうに見えるから光って見える描写が書かれているのを見たが……これは物理的に光っておるのぅ」
「そだね、なんか良く分からない粉とか、良く分からないキノコを入れたらたらそうなったの」

だから自分でも良く分からない物を料理に使うなと言っただろう!
心の中で突っ込んだ後、ぎりっと歯を食い縛り、ぎゅっと拳をつくる。

「でも、綺麗でしょ? あっ……ちゃんとチーズも入れたよ。食べたら、みにょーんって垂れるんだよ。美味しいよ」
「あ、あぁ……それは、おっ美味しそうだな」

それに関してはそうだろう。
だがな、俺は物理的に光輝いてる料理を食べたくは無い。

なぜかって? 不気味だろ! 光ってるんだぞ?
お前らだって、普段の料理が光輝いてたら食べるのが嫌になるだろう!

「じゃ、冷めない内に食べて。ついでに作ったサラダもあるよ、あっ……赤鬼君が作ったスープもあるから食べながら飲むといいかも」

出来る事なら鬼騎が作ったものだけを食べたい。
……だが、それはできない。

「さぁシルク、味わって……食べてね」

カウンター越しに期待の眼差しを向けてくるアヤネ、俺の大好物である、チーズを使った料理を一生懸命頑張って作ったんだ。

それにだ……目をうるうるさせて、手を合わせて俺を見てきてるアヤネが健気で仕方がない。
心の中と言葉では散々言ってしまったが……感謝はしてるんだ。

だからその気持ちが嘘では無いと証明する為に、俺はそれを無下には出来ない。

だから俺は、ピザが乗った皿を自分の側へと持っていく。
そしてピザカッターで切り、取り皿に乗せる。

「いただきます」

それを言った後、それを手で掴みいざ実食。
その瞬間、ロアが心配そうな眼差しで俺を見てきた。

がぷっ……。
噛んだ瞬間、俺は驚いた。
こっこれは……この……味は!

「おっおいしい……」

俺は一言そう呟いた。
いや、本当に旨いんだ。
なんと言うか、ピザ生地も上に乗ってる具材も全てが旨い!
ちゃんと調和が取れているっ、なによりチーズだ! 程よい酸味と甘さのバランスが絶妙だ! このチーズだけ食べたいとすら思うくらいだ!

「アヤネ、これ……美味しいよ」

気が付けば、俺は笑顔になっていた。
それを見たアヤネは驚ろいた、だがその直ぐ後に満面の笑みになった。

「そう言ってくれて嬉しい」

アヤネが言ったその言葉は喜びに満ち溢れていた。
今回で分かった……アヤネは鬼騎が側にいれば、料理は作れる。

……見た目があれなのが残念な所だけどな。
まぁ、贅沢は言ってはいけないか。


俺がピザを食べた後、ロアもピザを食べた。
ロアも、ピザの美味しさに驚いていた。
そして、直ぐに悔しそうに「わらわもこれくらい作れる様になるのじゃ!」と言った。

その言葉で、口喧嘩が始まりそうになったが……居なかった奴等がタイミング良く来てくれた。
だから口喧嘩は起こらなかった

その後はわいわいと、今日起きた事を話したり、今日の料理の事を話したりと楽しい食事の時間になった。

だが、その間ただ1人ラキュだけがずっと黙ったまま黙々と食事を続けていたのが、とても気になった。
何かあったのか? そんな疑問を感じつつ食事の一時は進んでいった……。

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