どうやら魔王は俺と結婚したいらしい

わいず

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「で、話すと言いましたが、何を話すんです?」

ピリピリした空気の中、ラキュ様が何かを言う前に言ってみました。
すると、ラキュ様は目を細めてこう言ってきます。

「あんな事、言わなくても良かったんじゃないかな?」
「あら、もしかして怒っているのですか?」
「茶化さないでくれるかな?」

ここは冗談を挟むのは止めた方が良さそうです。

「申し訳ありません」

目を瞑り謝ると、ラキュ様は続けて話します。

「諦めろって言わなくても、姉上なら上手くやれたんじゃないの?」
「あら、念には念をと言う言葉があるでしょう?」

恐い顔のラキュ様、本当に怒ってるみたいです。
と、思った矢先、突然ため息を吐き呆れた顔で見てきました。

「はぁ……相変わらずだね」

あらあら、呆れられてしまいましたね。

「物事はスムーズなのが一番でしょう?」

微笑みながらそう言うと……ラキュ様が苦笑しながらこう返してきました。

「ヴァームは度が過ぎてるんだよ」
「度が過ぎてる……ですか」

ふむ、そうなんでしょうか? 自分では良くわかりませんね。
あら? ラキュ様が指を鳴らしましたね……。

そしたら、何も無い場所から赤い液体が入ったグラスが2つ現れました。
それを片手で取り、「飲む?」と言ってきます。

あぁ、多分あれはトマトジュースですね。

「有り難く頂きます」
「じゃぁ、どうぞ……」

器用に、1つだけコトッとグラスを置くラキュ様、置かれたグラスを手に取り、口に含みます。

ふむ……この酸味、この甘味、素晴らしいトマトジュースですね。

と、味に浸っていると、ラキュ様が少し身体を前に倒し言ってきます。

「なんでアヤネにあんな事言ったの?」
「シルク様の事を諦めて欲しいからですよ」
「うわっ、そう言う事はっきり言うんだね……」

えぇ、はっきり言いますよ。、これは私の本心ですから。
ですから、そんなに顔を引かないで下さい、軽く傷付いてしまいます。

「ラキュ様も私と同じ事を思ってるのではないですか?」
「あぁ……そうだね、少しはそう思ってるかもね」

ですよね。
私達はロア様の恋を応援しています、ですからアヤネさんには悪いですが、諦めて欲しいんですよ。

アヤネ様は、気持ちがお強いお方、万が一の事があります……そうなったらロア様も私も、全員悲しくなります。

ラキュ様、貴方は一番ロア様の事を心配してますよね? 貴方は姉思いですからね……。

「そう思ってるのなら、何故怒ってるのです?」

トマトジュースを少しだけ飲んで聞いてみます。
ラキュ様はどう答えるんでしょう? じぃっと見つめる私、そんな視線を気にせず、ラキュ様は腕を組み考えます。

「……頑張ってる人に諦めろって言って欲しくないからだよ」

少し間を開けた後、低い声で語りました。
その言葉、深い想いを感じますね。
その時、私は思い返しました。

そうでした……ラキュ様、貴方はそう言うお方でしたね。
小さい頃から、ずっとロア様を見てきて、ずっと影ながら支えていましたね。

昔と変わらない、ラキュ様がそこにいました。
ですが……ふに落ちませんね。

「ラキュ様、失礼を承知で言います……貴方はどちらの味方なんですか?」

それを聞いた瞬間、ぴくりと身体が震えます。
ラキュ様はロア様の恋を応援しています。

ですが、この瞬間……ラキュ様はアヤネ様の恋を応援している様な気がしたんです。

……ラキュ様、貴方は言いましたよね。
その事は忘れていませんよね? 

そんな事が脳裏に過っていると、突然ラキュ様が不適に笑いました。

「どちらの味方か……。そうだね、しいて言うなら……僕は頑張ってる人の味方だよ」
「……」

明るく笑うラキュ様、トマトジュースを一気に飲み干し、たんっ! とテーブルにグラスを置いて立ち上がります。

「心配しなくても、僕はあの事は忘れてないよ……」

そう言った後、私に背を向けて部屋から出ていこうとします。
忘れていないですか。
それを聞いて安心した、そう言いたい所ですが……やや不安は残りますね。

「突然お邪魔して悪かったね……部屋に戻るよ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」

ラキュ様が話終わった後、私は立ち上がって頭を深く頭を下げながら言います。

ガチャ……バタンっ
静かに扉を開けて出ていくラキュ様、残された私は暫くその場に立ち尽くします。

「何か大きな事が起きそうな雰囲気がします」

不吉な事を呟いてしまった私は、ぶんぶんっと首を横に振るう。
いけません……そんな事を思っていると、本当に起きかねません……。

でも、あんなラキュ様を見てしまうと……そう思わざるを得ません。
どうか、杞憂であってほしいですね。


そんな思いと共に時間は進む……。
明日は色々な変化が起きるのは確実、城下内にいる者達は当然、その事を知らないのでした。

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